表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

キバのある武道家と方向音痴の魔術師

作者: 中原やや

「結婚しようか」

 いきなり言われて、わたしは正直すっごく驚いた。

「何言ってんの?こんなときにっ!」

「こんなときだからだろっ?明日になったら、俺はもうこの世にいないかもしれないんだから」

 目を潤ませながら、目の前の若い男―リュウはわたしを見つめる。

 わたしはため息をついた。右手の包丁を振り回しながら。

「バカじゃない?!たまねぎ刻むくらいで、どうして死ななきゃいけないのよ?」

 言うと、「はい。ど〜ぞ」と、包丁を彼に渡す。

「みじん切りにしてね」


 ここは、わたしの家のキッチン。

 彼氏のリュウがいきなり「オムライスが食べたい」と言い張り続けたため、急遽きゅうきょ作ることになった。わたしとリュウはすでにおそろいのエプロンを身に着けている。ちょっとした新婚さんみたい。


「よし・・・」

 意を決し、リュウは包丁を高々とかかげた。きら〜んと包丁が輝く。そして、武道家らしく、格好よくポーズを決め―

「だだだだだだだだだっ!!!」

 右手が口に合わせてリズムを刻む!


 よしっ!かっこいいぞ!リュウ!!


 みるみるうちにたまねぎはみじん切りに・・・・ってちょっと待て。

 たまねぎ、転がってますけど?

 始めの『だ』のところで、どっか転がっていっちゃってますけど?

 で、この破片は何?一体、何を刻んでるのかな・・・?まな板?しかも手刀しゅとうで?

 っていうか・・・包丁は?・・・どっかいってません??

 

「リュ・・・リュウ・・・?」


 わたしの呼びかけにも、彼は答えない。ただ黙々と手刀で小さくなったまな板を刻んでいる・・。


ひゅるるる・・・


 どこからか風を切るような変な音。そして―


どすっ


 鈍い音がした。リュウの頭の上らへんから。


 あ。これは痛い・・・・。

 ・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・

 ・・・・・・・

 ・・・・・・・

 ・・・・・・・おい。気付けって!



「刺さったーーーー!!!!」

「鈍いわ〜〜!!!」


かこ〜ん


 ツッコミと同時、わたしは近くにあったフライパンでリュウの後頭部を叩いていた。リュウは

 

頭に刺さった包丁を抜きもせず、ドクドクと血を垂れ流しながらわたしを見つめている。


 どうでもいいけど・・・怖いんだけど・・・それ。


わたしは引きつった表情で、今にも出血多量で死ぬんじゃないかって思われるリュウを睨んだ。


「ねぇ・・・どのようにしたらいつも頭に刺せるんですか?!」

 わたしはリュウの頭の包丁を引っこ抜いた。まるで噴水のように血がそこらじゅうに飛び散る。


 うわっ!掃除が大変じゃない!・・・リュウにやらせようかな。


 傷口に、そっと手のひらをあてる。ぬるっとした感触に思わずしかめっ面になる。

「ほんとに、バカなんだから」

 苦笑交じりにつぶやき、わたしは口の中で呪文を唱えた。すると、傷は見る見るうちにふさがっていった。

 

 わたし―ラナはこれでも魔術師。

 回復系・攻撃系両方使えるんだけど・・・・方向音痴なんだって。わたし自身は方向音痴ってこれっぽっちも思って無いんだけど・・・。

 戦いとかで魔法を使うとするじゃない?なんか、うまく当たらないのよね〜。この間なんか味方のリュウに当たっちゃった!でも、そっちにいるほうが悪くない?


 彼氏のリュウは武道家。それもかなりの実力!この村<ダイン>では、彼より強い人なんて誰もいないんじゃないかな?

 でもでも!そんな彼にも弱点はある!それは武器が全く使えないってこと!包丁ですら、いつの間にか手から抜けて、スポ〜ンと飛んでいっちゃうし。武器を装備すると、逆に弱くなるってもっぱらの噂だし(っていうか、ほんとのことなんだけど・・)・・・。で!最も特徴的なものっていうのが・・・


「バカじゃないっ!」

 言うと、リュウはわたしのこの細い右腕にガブッと噛み付いてきた。

「いった〜〜〜〜い!!」

 歯型がくっきりと刻印されてる。回復魔法をかけるまでもないけど、赤く腫れることはまず間違いなし!


 う〜〜!痛〜〜〜い!!


「ちょっと!いつも噛むのやめてくれる?」

「そこに腕があるからいけないんだろ?」

 全く悪びれた様子のないリュウ。ニッと笑った口の端からは小さなキバが覗いている。


 そこに腕があるからだって〜〜??『そこに山があるから』みたいなこと言いやがってぇ〜!

 くそぉ、リュウめぇ〜・・!!


 彼は「ヘヘヘ」と笑いながら、ふさがった頭の傷を触ると・・・

「あっ!!」

 唐突に大きな声を出した。


 もぉ〜〜うるさいなぁ〜〜


 耳をふさぎ、眉根を寄せるわたしにリュウは泣きそうになりながらこう告げた。

「頭が禿げてるぅ〜」

「当たり前だ〜!髪の毛までは再生できないってば!!」

「俺の髪〜〜〜!!」

「エロいから、すぐ伸びるでしょ」

 涼しい顔でわたしは答えた。リュウは「うう・・・」と少し呻くと、いきなりエプロンをばっと脱いだ。

「お仕置き」

 言うと、わたしのエプロンを脱がしにかかる。

「ちょ・・・ちょっと!!オムライスはっ?」

「後ででいい。まずはお仕置き」

「ちょっとぉ〜!」

 わたしの困った顔を、リュウは見るのが好きなんだってこと忘れてたっ!

 

 血溜まりの中でラブラブもいやだし、リュウはわたしのエプロンを取ると、そっと抱き上げてキスしてくれた。


 もぉ〜〜・・リュウのバカ。リュウのハゲ。


「ラナ・・・好きだよ」

  

 キスの合間に聞いた声はとても心地よかった。



 


 ダイン村のある一日の出来事でした。おわり












評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは。短編を読ませて頂きました。 とても楽しさいっぱいのお話でした。短編ですが、それぞれの得意と欠点の設定などキャラ設定がなされていたため好感が持て、読んでいて こいつぁ楽しいなあ〜と…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ