敗北
ブリュノ子爵の屋敷の置かれている街までやって来た。御者とは街に入った段階で別れた。ミストとルイはまずは観光をしているように見せかける。普通の観光者を装う為に普通に観光している。
「アリスにはこれあーげよっ」
とある店でルイが手に取ったのは、アリスの眼の色と同じエメラルドグリーンの石が嵌め込まれた首飾りだ。ルーファスから支給して貰った金額の半分もするほどの高額商品だ。
「じーっ」
ミストがじーっと、見つめている。ミストも女の子だ、こういうモノに興味を惹かれるのかもしれない。ルイがミストの視線に気づき、
「うん?これが欲しいの?じゃーミストにはこれあげる」
そう言って手に取ったのは海のように青い色をした腕輪だ。これでルイの財布がすっからかんになる。
「……ありがと」
ミストは腕輪を懐にしまう。さっそく着けるのは恥ずかしかったみたいだ。
夜になりブリュノ子爵の屋敷周辺にやって来た。ルイとミストは裏道を移動していた。ちなみにこの状態のルイは人を殺した事がある。そう、実の両親だ。七歳の時に、酒に酔った父が手をあげた。酒癖が悪かったらしくルイは死の危険を感じた為、反撃、結果的に殺してしまった。その現場を母にも見られた為に殺した。
「おいそこの二人組、こんな夜中に何をしている!」
ルイとミストに声を掛けたのは王国兵の制服を着た青年だ。深夜巡回のようなものだろう。
「うん?どうしたの?」
ルイがなんともないかのように返事をする。この状態のルイでも目の前の青年がとてつもなく強い事が分かった。
「そっちの方はブリュノ子爵様の屋敷がある方向だ。何もないぞ?」
ルイはミストに抱き着きキスをした。青年は呆気に取られていた。ルイの目的は性的に興奮する事にあるのだが、それを理解していない二人は混乱した。
「っ!?」
ミストはキッとルイを睨む。が、すぐに俯いてしまう。心なしか頬が赤いようにも見える。ディープでは無かったがまだミストには刺激が強すぎたかな? とルイは思っていた。
それにしてもルイよ……ロリコン疑惑が出てきた。
「ミストごめん! ここは任せて先に行ってくれ」
ミストは任務中なのを見失わず、コクッと頷き闇へ駆けて行く。ミストは隠密行動に優れているからとルイは思ったためだ。
「……どういうつもりだい?」
青年が問う。その顔には悪党でも見るかのようだ。ルイ達を悪と認定し、自分は正義だと考えているのだろう。つまり、この質問はどうして悪党なんかやっている? ということだ。
「自分で考えるんだな。ヒントはこの国の現状だ」
「だから悪に手を染めるのか!? そのやり方じゃ何も変わらない。そう、僕みたいに内部から変えれば良いのに!」
青年のその様は自分至上主義そのものだ。自分が正しい、だからそれ以外の考えは悪。
「俺はルイ、革命者だ。お前は?」
「何が革命者だ、ただの犯罪者じゃないか!? ……僕はクロードだ」
犯罪者? とルイは内心首を傾げた。貴族に刃を向けたのだ、もちろん捕まれば死刑は免れない。だが犯罪者というのに少しルイは違和感を覚えた。
両者武器を構え、同時に地を蹴る。
「っ」
想像以上に早い。ルイとクロードは、同じ事を思った。まぁ、つまりは両者は相手を舐めすぎていただけだ。
クロードのメイン武器は西欧剣だ。刃が両側に付いていて、大きくて太いと言えば想像しやすい。
対してルイはショートソードのような物だ。さらにナイフを数本と、鉄製の棒を所持している。
クロードはルイの攻撃を躱しつつ重い一撃を放つ。ルイは上手く受け流しながら反撃をする。両者一進一退の攻防だったが、いきなりルイがナイフを投げる。クロードはそれを剣の腹で受け止める。そのままルイが接近して鋭い突きを放つ。クロードは剣を振り、ルイの剣を叩ききる。さらに蹴りを入れた。
「ぐっ」
ルイは吹っ飛ばされて壁にもたれかかる。ふと顔をあげるとクロードがすぐそのそこまで来ており建物の屋根に跳ぶ。そこで遠くにミストを発見したので全速力で逃げる。ミストが煙玉を投げる。さらにルイもナイフを一本を残し全て投擲する。その隙に逃げた。
「はっ、はっ、はっ、はぁ〜」
言葉の如く全力で逃げたので息が切れている。ミストはじっとルイを見ていた。
「はい、おいで」
ミストがルイの頭を持って胸のあたりに持っていき抱きしめる。ルイは自分より強い相手が現れた事によって恐怖や混乱、驚きに心を支配されていた。この恐怖も混乱などによってルイは気づかない。
「……」
ルイはすぐに落ち着いた。何故かこの状況は落ち着いく。そのまま限界がやってきたのか眠ってしまう。その様子を目を離さずにミストは見つめていた。
○
誰もいなくなった路地裏で一人の男が佇んでいた。
「くそっ、悪を逃したか」
クロードは悪態を吐いていた。結果的にブリュノ子爵は殺害された。そう結果を見れば負けたのだ。
「まぁ良いか」
それは常人の考え。クロードは王国そのものを悪として認定していた。ブリュノ子爵など初めからどうでも良かったのだ。
「……にしても、強かったな」
もしかしたら自分が殺されてたかもしれなかった。それほどまでの技能、実力。自分とほとんど互角の力量を持つ敵。クロードにとっては初めての体験だった。なのに何故王国に手を出して無いのかというと、意外に常識人なのだ。単体では負けないとしても数が多い。だから中から変える事にした。
「次は無い」
クロードは悪と認定したモノは逃さない……これが王国軍最強と名高い三騎士の一人クロード・クライマーだ。
どうも!
クロードの矛盾してる感じ……好きです