6話 移動
ルイとミストは初任務でアストレア公爵領から隣のブリュノ子爵領に向かっていた。ルコールやベルフ、マリなどの二十歳越えの面子はまだ事務処理などがあるようで比較的若手の実力を確認しておこうとの判断だ。この二人は初対面でいきなり殺し合いに発展したためあまり仲がよろしくない。とは言ってもルイはそんな事は気にしてはおらず、ミストが一方的に嫌っているだけだ。
「ねぇ、ミスト〜ブリュノ子爵を暗殺する権力についての作戦は〜?」
これに対してミストは、何ともないように言い放った。
「夜忍び込んで殺る。終わり」
ルイももともと興味は無かったみたいで会話はこれで終わる。
ブリュノ子爵領は肥沃な土地だ。さらに小さいながら金の出る鉱山が存在した。そして領地が伯爵領並みに広い。国王派だとそれだけの特典があったのだ。
ちなみに表向きは観光目的として訪れる為、馬車で移動している。そして馬車など乗った事があるはずの無いルイはというと。
「うげぇ、気持ち悪ぅ」
酔っていた。道が舗装されてなくガタガタだ。ガタ酔いだ。そして一番の問題なのだが、尻が痛い。
「ふっ」
ミストは勝ち誇った顔を維持しながら鼻で笑って見せた。このくらいどうって事無いでしょう? と、言いたげだ。
夕方になってそろそろ日も沈む頃になり、一行は夜営の準備をする。とは言ってもする事はあまり無い。火を起こし食事をして寝るだけ。
「かてー!」
今日のディナーは塩漬けの干し肉、保存の利く無発酵パン、水だ。干し肉もパンもカッチカチなのでちびちび齧っている。パンは水に浸けるなどしてなんとか食べきる。
「我慢、任務が終わったら美味しい御飯を要求する」
ミストもこれはきつかったみたいだ。御者は無口なのかさっさと食べ終えて御者台で睡眠に入った。二人も馬車の中に入っていく。男女が密室に二人きりというのはどうなのかなるが、ルイはヘタレだし、何かあればミストもすぐに気付くだろう。さらに言ってしまえば先に興奮してなければルイは弱い。まぁ貴族以外はあまりそういう事には無頓着な傾向にある。現に今も、
「よいしょ」
ミストがマントかコートの様なものを脱ぎ、さらに上着も脱ぎ始めた。何故か存在する下着の上に薄いシャツを着た状態だ。
ルイはまだ! まだ、ギリギリT.S.Fには成っていなかった。本当にギリギリだが。
「おやすみー」
とルイが挨拶をすると、ミストは最低限の礼儀として挨拶を返した。
「……おやすみ」
任務一日目、異常無し!
「ぐへっぐへっぐへへへへ、お頭! 馬車を発見しました!」
「そうか、よくやった」
これらは盗賊と呼ばれる者達だ。字の通りの所業を行う者だ。
「いっちゃいますか? グヘヘへへ」
「もちろんだ」
「うーん」
ルイは夜中に目を覚ました。ふと人の気配がしたのだ。窓から外へ目をやるとそこには十人以上の盗賊と思われる集団が距離を詰めて来ていた。ミストを起こそうと顔を向けた所言葉に詰まった。ミストの格好を見てしまった。
こじんまりと汗をかきしっとりとに濡れた絹の様な柔肌。お腹の半分くらいが露出するかのように捲れたシャツ。何度でも撫で回したくなるようなふともも。さらに無警戒の顔だ。
この季節は日本の九月のような気温で、暑い。さらにミストは疲れていたようだ。戦闘の実力があり、隠密に特に優れているとはいえ、まだ十一歳の少女なのだ。
「これはちょっと考え直した方が良さそうだな。ちょっくら行ってきますか」
ルイ一人なら寝たふりから、という作戦も使えるのだが……ルイは表に出て宣言をした。
「こちらに近づいている人たち、それ以上近づいたら殺すぞ」
一瞬躊躇したようだがゆっくりと近づいてくる。ルイは身を屈めて一人の賊に向かって接近し、喉に鋭い一撃をかます。賊は声を上げる間もなく絶命させられた。すぐにルイは隣の賊にも突きを放つ。次々に倒していく。闇の中で確実に命を狩っていくその様はまさに死神!
「ちぃ、お前何者だ?」
一番ガタイの良い盗賊から質問される。ルイは残り一人という事から少し考えた。
「革命者だ」
結論はこれだ。自らを革命者と豪語するその様はまるで……
「うん?朝か……」
チュンチュンと聞こえてきそうなくらいの朝日が眩しい朝だ。陽の光を浴びてミストは目覚めた。ルイを見ている。
「ふっ」
私の方が早起きだよ? と顔が言っている。だが窓の外を見た瞬間にその顔は崩れ去った。合計二十程の死体が寝ていた。ルイがその全てを自分を起こさずに処理した事にミストはほんの少し恐怖した。そして自分が気付けなかった事、それを反省した。
「これがRのエース……」
そう、ルーファスがルイをエース的存在として認定していたのだ。ルサルカとの戦闘から、アーティファクト持ちを退ける程、ルイのポテンシャルは高いと認めされたのだ。
どうも!
久しぶりの投稿で文字数ちょっとみじかいかも知んないっす