3話 始まりの日の終わり
十を超える死体の側に瑠衣とアリスは座っていた。あの後直ぐに興奮状態が解けて元に戻ったのだ。
「……私はアリスよ、貴方は?」
ただの村人は基本的にはファミリーネームが無い。金色の髪に宝石のような碧眼、身長は瑠衣の首までしかなく華奢、さらに人形の様な容姿であった。
「僕は瑠衣だよ」
瑠衣は転生したにもかかわらず、黒い髪に茶のかかった黒目、174cm程の平均的な身長だ。
「ルイね、ありがとうルイ貴方のおかげで助かったわ……」
本心からのお礼だ。まぁ十人以上の男共に襲われたら軽くトラウマ物だろう。
「ははは、気にしないでいーよ。それで、僕お腹空いちゃったんだけど?」
ルイは二日間水しか飲んでいない。転生して時間が大分経っているとはいえ、分からない植物の方が多い。知っている植物は少ししか見かけなかった。なので罠などを使い、獲物を仕留めて食べていたのだがここ二日は成果ゼロだ。
「村に帰れば何かあると思うけど……」
「ふーん、でもさぁ、さっきの奴らがここに来たって事はその村やばいんじゃないの?」
感情が無いということは物事を冷静に見れるという事だ。だが対照的にアリスは慌てた。
「い、家に帰らなくちゃ! パパとママがっ」
ルイはというと、村が無事なら腹を満たせるなぁと思いついていく事にした。今のルイは枷が課せられているのだが、アリスは強い味方を連れて行ける!と喜んでいた。
「そんなーー」
アリスが唖然としていたが、ルイに隠れる様に促される。
「しっ、あそこ」
指差した先にはさっきの奴らと同じ服を着た兵士たちがいた。おそらくは王国の兵士だなとルイとアリスは思った。
そしてルイが気付けた理由は、枷が外れたのだ。エロい格好をしたアリスが近くにいると考えていたら興奮してきたようだ。とんだむっつりすけべである。
「奴らを殺るから少しの間ここに隠れてろ」
ルイは音を立てぬように近づき首を捻って瞬殺した。そこからさっきは重いからと置いてきた剣を奪う。粗方終わるとアリスが出てきてしまった。
「ばっ、まだ出てくるな!」
まだ敵はいるのに! アリスからは見えてなかったのだろう。アリスの元へ駆けつけるが残りの1人が人質にとる。
「へっへっへ、こいつを殺されたくなかったら大人しく地面に伏せやがれ」
「ルイ!」
剣を放り投げ言われた通りにする。剣をぶん投げても良かったがアリスに当たる可能性がある。そろそろ興奮状態も収まってきたのだ。
「へ、死にやがれ!」
男が近づいてきて、剣を振りかぶる。命令に背いても殺され、守っても殺される。
ルイ土を掴み顔に向かって投げる。怯んだ瞬間にパンチを繰り出す。たまたま、本当にたまたまだが、パンチの行き先は男の股間だ。一撃で破壊される。
「うぎゃぁぁあああ!?」
激痛!圧倒的激痛!男は人生で一番の痛みを感じていた。ルイは剣を拾い首を飛ばす。
「人質、なるほど? ギルティだ」
ルイは死体に語りかける。そしてアリスの方を向き同じように語りかける。
「出てきたね?」
アリスが申し訳無さそうに俯く。甘い考えで出てきてしまったのだ、責任は自分にあるとアリスも分かっていた。
「はい、ごめんなさいーー」
「うん、ちょっぴりギルティ」
そう言ってルイはアリスにデコピンをかます。だがただのデコピンではない、まだ枷が外れた状態なのだ。吹っ飛ぶ程ではないが赤く腫れる。そしてアリスは顔を赤くし、怒りながら抗議する。
「痛いです……」
「自分から動く事はいい事だけど周りをちゃんと見て、出来る事だけをすれば良い」
ルイは出来ない事はやらなくて良いと思っている主義だ。もちろん出来るように努力する事は前提条件だが……
「逃げなきゃーー」
「……たしかにな」
そう、これだけの人数が帰らないとなれば必ず増援が来るだろう。二人は近くの街を目的地に選んだ。アーレント王国は貴族制をとっている。中には王国を良く思ってない者もいる訳で……それに賭けようとしたのだ。そしてその賭けには勝つ事となるのだがーー
ルイはアリスに目をやり、ある提案をする。
「まぁ今日はここで休むか」
「……えっ」
凄く嫌そうな顔をされた。それはそうだろう、見渡せば血の海だ。外には王国の兵士しかいないという事は中にはまだ……
「少しここで目を瞑って待っててね」
あるひとつの家を目指していく。アリスは目を見開く、何故ならそこはーー
「私の家……」
何故アリスの家が分かったのかというと、アリスがしきりに見ていたからである。既にルイは元の状態に戻っているのだが……
「ちゃんと目瞑ってた方が良いよ?」
ちゃんと指示通りにしたのを確認して中から父親と母親を運んで裏の方に隠す。さらに軽く家の中を拭いた。彼なりの気遣いなのだろう、普段はこんな事はしないのだが。
「もう良いよ。さぁ行こうか! やっと飯が食べれるよ」
「うん……」
この村は血生臭い(物理的に)のだが、食事をするとアリスはぐっすりと寝ていた。これだけの事があったのだ、さぞ疲労していたのだろう。それはルイも同じ、いくら本来与えられた力だとしても身体を動かしている以上疲労する。
ルイの力の本質は人間最強ということである。魔法なんてものもあるがそれは最強には必要ないものであった。あくまで人間が到達出来る合理化された個の頂点、それがルイの与えられた力だ。もっと簡単に言うなら、五感が物凄く鋭くなり、脳の処理速度も向上し、身体が強化される。
始まりの日はこうして二人の熟睡をもって終わった。
○
「魔法を使わずに王国兵を無傷で20人以上殺していました。さらに村まで監視に着いていった所、私に気付いているようでした」
とある街の豪邸の一室にて青い髪の少女が貴族の男に報告をしていた。
「ほぉ……それは面白い。是非とも此方側に引き込みたいな」
碧の瞳を鋭くして金髪の怪物が薄く笑う。
「はい、ではその様に動きますか?」
貴族の男が少し悩んで決定する。その男を陣営に組み込めれば国王派に嫌がらせくらいは出来るだろうくらいに考えて。しかしルイはルーファスの想像を、遥かに超えていたのだが……
「かしこまりました」
青の少女が退室し、残ったのはルーファス1人だ。貴族碧眼で長髪の貴族 ルーファスという怪物。この怪物は想像を超えていたルイすらも上手く利用する事だろう。
この怪物こそが、貴族派のトップであるルーファス・アストレア公爵だ。
どうも!
うーん……人気出ないかもしれないなぁ笑。まぁそんな事は置いといて。犬に舐められた箇所が臭い。