番外編3:昔の金松
今回は初めて佳那じゃない人からの視点で書いてみました。
「ねえ金松」
私は訪問しに来ていた金松に尋ねた。
「ん?何だ?」
「失礼だけどあんたの学生時代の記憶ほとんどないんだけど」
「本当に失礼なこと言いやがったな」
「あ、俺も覚えてねーわ」
「何だよ!?平野は覚えてるだろ!?仲良かったじゃねーか!!!」
私を膝に乗せて金松に向き合ってる慶太は、笑いながら金松の反応を楽しんでいた。
「俺をいじめるなよ!」
「いや?お前の反応が面白いのがいけない」
「ひでえ!」
その様子があまりにも面白くて、私も一緒に笑った。
そんなこんなしているうちに、金松は帰って行った。
「あいつ、拗ねたのか…?」
「いや?仕事も忙しいんじゃない?」
「そうだよな、金松だし」
「それな」
私と慶太はまた笑った。
窓から差し込んでいる光が眩しかった。
………………………………………
…俺は帰り道、さっきの会話を思い出した。
平野と本田。あの2人はもうお似合いすぎるほどのカップルだ。入る余地などある訳がない。
「…俺だって、」
自分の好きな奴と結ばれる夢を見てもいいんじゃねーの…?
そんな呟きは、誰にも聞かれずに消え去った。
…そう、あれは俺が14歳の時だった。
………………………………………
「あ、あんたって同じ班の人?本田佳那。よろしく」
本田の第一印象は、『明るくない子』だった。
暗くはないんだけれど、どこか冷めてて…いい言い方するなら、大人びていたとも言えるだろう。
それに、14歳という年齢は思春期に差し掛かる頃。
女子と男子の関わりのなさは、凄まじかった。
でも、時々は男女が関わりを持つことがあった。
それは、くじで決まる『特別研究』だった。
みんなそれぞれ、いろんな研究対象の名前が書いてあるくじを引いていき、それが一緒になった人達で研究を一週間続けるのだ。
それで、俺と本田が引いたのは、『モールス信号』。
他の班員は2人いたが、そこはカップルだったから俺達とも仲良く…とはどうもできなさそうだったから、仕方なく本田に話しかけた。
元々、友達を性別ではっきりと境界を引かなきゃいけないのはおかしいと思ってた。
同じ班のカップルは例外なのか?そこの境界については小さいながらにも気付いてたのかもしれない。
異性の友達が、何故か周りに受け入れられないのだ。
「本田…だっけ?
お前、モールス信号知ってるか?」
すると、本田は目を輝かせて言った。
「そう!モールス信号はお兄ちゃんが大好きだから、色々教えてもらってるうちに好きになって…」
…あ。
こいつも、こんな顔するんだな…
俺は知らぬ間に小さく笑っていたようだ。
「笑わないでよ」
本田はそう言ってムスッとした顔になった。
「ごめんごめん。
…何かイメージと違ってて、さ。
俺の自己紹介がまだだったな。
俺は金松隼人。よろしく」
「あ、うん。
何だよそのイメージって…」
本田は何やら不満があったみたいだが、俺は聞かないふりをした。
それから楽しく本田と話しながら、モールス信号の研究に励んだ。
そうしていくうちに、俺はだんだん本田に惹かれていくのがわかった。
飾りっ気がなくて、芯が強いところがあって…俺の女に対するイメージを変えてくれた。
でも、そんな時間も過ぎてしまい、あっという間に一週間になった。
「…また、こうやって話せるか?」
俺は最後に本田にそう尋ねた。
「…さあ?機会があれば、じゃない?」
その言葉は他の人が聞いても何とも思わないかもしれないが、まともに俺のことを認識してくれてると思ったら、嬉しくなった。
そうこうしているうちに、時が経った。
知らぬ間に半年経っていたのだ。
途中、俺は何度も話しかけようとした、でも全て他の友達_勿論同性_に何か言われるのが嫌で、結局見ていることしかできなかった。
…でも、このままでは一生話しかけられずに終わりそうだ。
俺は意を決して本田の机の方へと向かった。
「ねえねえ平野、ここなんだけどさ…」
そこには、もう既に先客がいた。
平野だった。
確かに、最近平野と本田がよく一緒にいるな、と思ってたところだった。
「それぐらい本田が自分で考えろよ。俺ばかりに頼るなよ」
「いいじゃん。だって面倒だし」
「いい感じに俺のこと使おうとするんじゃねーよ!!!」
聞こえてくる会話はどう見ても俺相手の時とは違っていた。
明らかに、平野の方が上だった。
俺は今までどうして話しかけなかったんだろうか。
ここでもうこんなにも差がついてる。
…もし、俺が話しかける勇気を持っていたら…本田の隣が、俺だったかもしれないんだよな…
俺はただ惨めな気持ちでいることしかできなかった。
………………………………………
「なあなあ、あいつさ、女としか話してなくね?それも本田だぜ?キモくね?」
ある時、俺の友達はそう言った。
「…平野のことか?」
「そうに決まってんだろ?あー、やだやだ、俺だったら本田と関んねーわ」
この男は隠すことが苦手だ。そうやって思ってることをはっきり言う。
「…本田ってそんなにヤバイのか?」
俺は知らないふりをしてそう言った。
「ヤバイってさ、頭良いじゃん?比べられんの嫌なんだよな」
本田はただ単に好きなことに関して詳しいだけじゃねーの?…とは残念ながら言えなかった。
言えるわけがなかった。
そんなこと言ったら、「本田のこと好きなのか」と言われる。
それに関しては本当のことだから言い返せない。
ただ、ばれて囃し立てられて、恥ずかしくなるだけなのだ。絶対にそれだけは避けたい。
「ふーん」
無難な返事をすると、もうそのことに興味を失った友達は、他の話題について話し始めた。
………………………………………
「ねえ」
俺は女子の声にはっと気づき、顔を上げた。
「えっ…」
まさかの、本田だった。
「あんたって、どこかで会ったことあるよね?」
いや、貴女、何言ってるんですか。この間…と言っても結構経ったが、一緒の班で研究した仲じゃないか。
もう平野に勝ち目がないことが丸わかりじゃねーかよ。
「…そうだけど」
「なら話しやすいね。私と話してよ。やだ?」
え、これは、どういった経緯で。
本田の後ろを見ると、平野がにやけながら見ていた。
…さては、平野の差し金だな。
でも、俺に話しかけさせるなんて、平野にとって不利になるだけじゃねーの?
でも、そうではないことはすぐにわかった。
「嫌じゃないなら話そう?
…私、あんまり人と話してないから、もう少し視野を広げた方がいいって平野が」
その本田の言葉に、平野の思いやりが伝わってきた。
自分といる時間が長いと、囃し立てられて本田が困るからなのだろう。
平野のことだから、自分がどうなろうといいのだろうから、やはり出来た男だ。
…俺だったら、他の奴と話せないくらいに依存させるのに。
「そっか。平野が、な。
いきなり話そうと言われても、話題がないと話せなくね?」
「あ、そうだね」
真顔のまま、本田はそう言った。
「ねえ平野、平野も一緒に混ざって話そうよ。間が持ちそうにないわこれ」
「はいはい」
本田は平野と召喚した。
…折角、2人で話せると思ってたのに。
ま、いいか。黙ったままになるよりはマシだろう。
…そう思ってたけど、結局、本田はほとんどを平野と話していて、俺が少し口を挟むくらいだった。
そんな現実に嫌気がさしてる時に、更に追い討ちをかけるようにして、友達がやって来た。
「お前さ、本田と平野と話してなかった?」
「…だったら何だよ」
「は?お前、正気か?」
正気だよ。っつーか、俺のことそんなに監視しなけりゃいいんだよ。お前が俺に言う権利なんてないんだよ。
そんな言葉、本当に言えればいいのに。
そんなこと言ったら、完全にダメだ。
「…別に、話しかけられたら返すのが普通だろ?」
代わりにそう答えた。
「ふーん」
俺の面倒くさい友達は納得していない様子だった。
「ま、今度から返事しない方がいいぜ?
お前、他のやつから変な目で見られかけてるぞ」
その言葉に、俺はビクッとした。
…ああ、なんて俺は小心者なんだ。
「…そうだな」
俺はそう返事した。
………………………………………
小心者の俺は、それから本田とはもう話さないと決心をしたまま時間を過ごした。
その覚悟には、自分の気持ちは入っていなかった。
すると、本田じゃなくて平野が俺に話しかけてきた。
「金松」
「んだよ」
「うっわ、こっわ。
お前ってやっぱりそういうの、気にするんだな」
俺は気にしないけどな、と俺に見せつけてるようで悔しかった。
ただ、悔しかった。
「…別に、そんなことねーし。
本田が鬱陶しかっただけだし」
いやいやいやいや!俺何言ってんの!?
むしろ逆だろ!?何で危ない思いをして平野とだけは話すみたいなことになってんの!?
「そ、そうなんだ」
平野よ、そんなに俺を軽蔑した目で見ないでくれ。
そのうち、平野と目が完全に合い、そのまま互いに見つめあった。
「プッ」
「ブフッ」
そのうち、どちらからとも言えない笑いが溢れ出した。
…なんだかんだ言って平野は面白い奴だ。
それからはすぐに平野と仲良くなった。
まあ、本田とは話してないけどな。
本田が平野といない時に俺が話しかける的なことをずっと続けた。
本田は俺のことなんて全く気にしてないんだよな、多分。
そんなヤケになるような感じで、俺はそれから女にモテるように努力するようになった。
その努力は報われて、俺は色んな女の__と言っても、もともと少ないクラスの本田以外の女子から__憧れの対象になった。
心の奥では、この女達に好かれたところで本田じゃないから意味ないと思ってる俺がいるんだけどな。
………………………………………
なんか昔のことを思い出すと、俺の馬鹿さが際立つから嫌だな。
っつーか、俺の予想通り、本田は俺のことを何とも思ってなかった!なんかわかってたけど悔しい!
そんな時、端末から着信音が聞こえてきた。
「…?何だ?」
「おう、金松か?」
このノリが掴みにくい人は…
「部長…」
上司だ。
「今から資料送るから、プランAを実行しろよ」
その言葉で、俺は全てを悟った。
「了解しました」
言葉ではそう言いながらも、俺は内心震えていた。
「行かないと、アイツが…」
上司との電話を切ると、俺はそう呟きながら別の端末をポケットから取り出した。
「俺がお前を守るんだ…」
俺はそのまま、ある場所に向かって走った。
次の更新は4月15日です。
いつもありがとうございます。
4月15日追記
すいません。
言い訳になりますが忙しくなったので今日予定されていた更新はお休みさせていただきます。
更新ができる状態になったらまたここにて連絡します。
4月30日追記
5月1日に更新します。




