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ハツコイ  作者: 菅原夕陽
8/9

たおれる

 「あのさ、葵。聞きづらいんだけどさ、まさか最近、白川と一緒に帰ってる?」

その日は突然訪れた。最初はバレないようにと周囲にも気を配っていた。

白川くんにバラしたあの日の後からだって、私達が一緒に帰るのは電車の中からだった。

「ど……して…?」

自分がどうこうよりも、守らなければいけないと思った。迷惑をかけちゃいけないと思った。

「私、昨日見たの。……これ、葵と白川だよね?」

突きつけられた携帯の画面には2人の写真。頭が真っ白になった。

「ねえ、なんかあるなら言ってよね。うちら友達じゃん。」

固まった私の顔を心配そうに覗き込んでくる。

「なんも……ないよ…。」

明らかに動揺している私に友達は怪訝な顔をする。

「葵、嫌なときは嫌って言わないとダメだよ…ほら、葵って優しいから断りきれないのはわかるけど。」

なんにもわかってなんかいない。本当は今すぐ叫びたい。

「私から白川に言ってあげるから安心して。」

「っ…だめ!……別に、その、嫌じゃないし…。」

嫌じゃないなんて、本当は私が一緒に帰りたいだけなのに。

「無理しないで。ね?大丈夫、うまく言っておくから。」

ねえ、なんで私が嫌だって決めつけるの?私の気持ち知ったフリして、なにもわかってない。

お願い。白川くんに話しかけないで。

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

「顔色悪いよ?大丈夫?やっぱり無理してたんだね。保健室行こ?」

誰のせいだと思っているのか、結局自分の意思なんて言えない。

ー『つらいなら言っちゃえばいいじゃないですか。本人じゃなくても良い。誰かに吐き出せば少し気が楽になりますよ。』

いつかの日に誰かに言われた言葉。

その人のことを私は男の子だったことしか覚えていない。

 友達に連れられて保健室に向かっている途中、前から白川くんが歩いてきた。

いつもと変わらない。少し俯いて、真顔で、私との関わりなんてないようで。

「あ!ねえ、白川!話があるんだけど。」

白川くんは大きく肩を揺らした。その表情は不安そうに歪む。

ああ、最悪の気分。

「たっ…たか、ぎ…さん……な、なに…?」

急に話しかけられて動揺しているのがわかる。

「ほんっとなんなの?普通に話せないの?」

「ご、ごめん……」

「……はぁーあのさ、」

ため息に大きく反応する。

やめて、もう、なにも言わないで。

「あんた葵と一緒に帰るのやめてよね。」

白川くんは悪くない。

「葵は優しいから何も言わないかもしれないけど、」

優しいのは白川くんの方だ。

「本当は迷惑してるって。」

そんなこと、私がいつ言ったの?

「ねえ、葵。」

同意を求めないでよ。

「……葵?ねえ、大丈夫?」

呼吸が速くなる。涙がでてくる。

「ごめ…っ……めん…ね…白川……くん…」

苦しくなって、目の前が真っ暗になって倒れる。

「…っ花谷さん!!」

白川くん、まだ、私のこと心配してくれるんだね。

こんな、最低な私のこと。

 キィキィとブランコの音がする。私は俯いてボヤけっぱなしの地面を見つめていた。

「あ、あの!……ええと、あの、どうか…したんですか?」

急に話しかけられて、びっくりして涙が止まる。

眼鏡をかけた地味な男の子が話しかけてくる。

ああ、これ、あの時の夢だ。

「この前の…子?……ちょっと、ね。色々あって……どうしようかなって、」

この前の子?私はこれより前に会ったことがある?

男の子は私の正面に来てしゃがみ込むと私の手を掴む。

「かっ、悲しい時には…こうして、他の人の体温を感じると……安心、しませんか?」

そう言って笑う。その顔を見ていたら止まっていた涙が再び流れ出す。

「うわわわ!すみません…!えと、、、」

「離さないで……っぅ…ありが…とう。」

安心した。久しぶりにちゃんと、笑えた。

「はい!」

しばらく、そのまま手を握っていた。

彼は落ち着くまでずっと握っていてくれた。

「私、両親がね、この間……交通事故で…」

「……すみません…。」

「ううん。大丈夫。……そのことよりもね、引き取ってくれた親戚の人とね、うまくいってなくて……。不安で、、、でも、おかげで元気になったよ。」

笑ったつもりが彼は不安そうな顔。

「つらいなら言っちゃえばいいじゃないですか。本人じゃなくても良い。誰かに吐き出せば少し気が楽になりますよ。」

彼はそんなことを言った。

「って、お前なに様だって感じですけどね……へへ、俺、何もできないかもしれないですけど、話聞くぐらいならできます。…ね?」

「ふふ、ありがとう。」

私はその言葉に救われたんだと思う。

「よかった。さっき、また泣きそうだったから。」

そう言って笑った顔が見たことある、白川くんに似ている。

意識が、引き戻されていく。

もう少し、もう少しだけ、この心地の良い空間にいたかった…。

 目が覚めた時そこには白川くんがいた。どうやら眠ってしまっているようだ。握られている手が暖かい。

「おはよう、白川くん…。」

小さく呟くと白川くんはバッと身体を起こした。

「花谷、さんっ……大丈夫…?」

「うんおかげさまで。」

そう言って握られている手をあげる。

「うわぁっ…ごめん…!」

白川くんは少し照れているようだった。

可愛い可愛い。

「ふふ、、ありがとう。」

私が笑うとつられて白川くんも笑った。

私、きちんと自分の意思を話す勇気が出たよ。

白川くんと、あの日の彼のおかげで。


 

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