つかのま
(ー白川視点ー)
自分を変えようと決めて、前髪をバッサリ切った。
視界が広く、辺りが明るく感じた。
切った後に少しの虚しさと後悔。
だけど、一緒に帰ったあの日に改めて気がつかされた。
彼女を守りたい、彼女が好きなんだって。だからこそ俺は変わりたい。
「じゃあ、次は白川と花谷のペアな。」
名前を呼ばれて立ち上がる。勢いよく立ったせいで椅子がガタッとなる。
そんな些細な音でさえ気になった。
周りに見られて、笑われているように感じた。
「大丈夫だよ。がんばろ!」
ニコッと笑って黒板の前まで歩いていく花谷さんの後を追う。
花谷さんの後ろ姿が頼もしく感じた。
発表の時のことは正直言ってほとんど覚えていない。
しかし、久しぶりに人前で話し、たくさん噛んで、花谷さんにフォローをしてもらったのは覚えている。
我ながら情けない。結局俺はこんな些細なことさえ満足にできないのだ。
3日、4日と偶然が重なる。回数を重ねるごとに気がつかされる。
きっと、花谷さんは偶然なフリをしている。……と思う。
もともと二人とも帰宅部であるため電車の時間が合うのは不思議ではないのかもしれない。
しかし、今まではこんなことはなかったのだ。
帰りの電車に乗る時間はその日の歩く速さ等で毎日違う。
なのに毎日出会うのだ。きっと彼女は時間を合わせているのだと思う。
でも、なぜ?
俺には、花谷さんが俺と帰る理由なんてないように感じた。少し、自惚れてしまいそうだ。
今日こそはその謎を暴こうとバレないように後ろをつけてみる。
我ながらストーカーのようで気が引けてくる。
第一、それを暴いたところで自分はどうするのか、もうやめてくれと言えるのだろうか。……いや、きっと言えないだろう。
この状況を嬉しいと思ってしまっているうちはきっと目をつむってしまうのだろう。
駅に着くと花谷さんと友達は別れた。きっとあの友達はこの近くに住んでいるのだろう。でなければ毎日偶然会うことなどできない。
花谷さんはキョロキョロと辺りを見渡すと改札口近くのベンチに座った。何をするでもなくジーっと行き交う人を見ていた。
まるで、誰かを探すかのように。
「あ…………」
その姿をジッと見ていたせいか花谷さんと目が合ってしまった。
花谷さんはバツが悪そうに下を向いてしまった。
バレてしまっては仕方ないと花谷さんの前まで歩いていく。
「やっぱり。花谷さんだ、、、今日はどうしたの?」
「えへへ〜ちょっと…ね……。」
下を向いたまま顔を上げない花谷さん。
まだだ。まだ、俺を待っていたという根拠はない。
「誰かを待ってるの?」
たたみかけるように質問すると上目遣いでこちらを見る。
「うん……白川くんを…。……待ってた…。」
心臓が飛び跳ねそうだった。
嬉しくてドキドキしてバレないか心配だった。
「そっか……お待たせ。……じゃあ、帰ろうか。」
そういって笑いかけると、彼女の表情は明るくなった。
「うん!」
嬉しそうな笑顔を見れて満足した。やっぱり、ダメだなんて言えなくて、一緒に帰ることを選んでしまった。
俺の意思なんて花谷さんのまえではそんなものだ。
だから、最悪の結果なんて考えもしてなくて、この時はただ、自分の幸せのためだけに行動していた。
それは、俺と花谷さんが一緒に帰るようになって丁度一カ月が経った日のこと。