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ハツコイ  作者: 菅原夕陽
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まえがみ

 なんだかいろいろなことがありすぎて、今日は疲れた。

自分のベッドに勢い良くダイブして、身体を沈める。

学校から出た後、思っていたよりも普通な白川くんには少し驚いた。

「普通に、しゃべれるじゃん…。」

前髪、明日切ってくるのかな?

今日からはさっき買ったシャンプーを使おう。

クレープを食べている時に盗撮した写真をぼんやり眺めながら今日のことを一つ、一つ、思い出す。

この写真撮るとき、一瞬ばれたかと思って焦ったな…。

ふふっと思わず出た笑い声は私以外誰も居ない部屋に響いて壁に吸い込まれた。

クレープを食べた後、半ば強引に聞いた連絡先を眺め、メールの編集画面を開く。

『今日はありがとう!すごく楽しかった(^^)

クレープもありがとう。本当はイチゴスペシャルが一番食べたかったから嬉しかった!

白川くんはダメだって言ってたけど、、、やっぱりまた一緒に帰りたいな。

おやすみ。』

自然と指が送信ボタンを押していた。

送信ボタンを押した後にまずいと思って中止ボタンを押したけど間に合わなくて後悔した。

〝また一緒に帰りたい〟なんて迷惑に決まってる。

「はー………。」

後悔したってもう遅くて、モヤモヤしながら枕に顔を埋めた。

それから1時間程経って、ピロリンとメールの受信音が鳴る。

バッと勢いよく起き上がって恐る恐る携帯画面を見る。

そこには白川奏多の文字。迷惑とか、もうメールするなとか嫌な言葉ばかり浮かぶ。

怖くて目を細めながらメールを開く。

『こちらこそ、今日はありがとう。

俺もすごく楽しかった。

そうだね、また一緒に帰れる日が来るといい。

俺、花谷さんにつり合うように少しずつ変わっていくね。』

想像していた悪い言葉は無く、安堵した。

「なに、つり合うようにって……。」

つり合っていないのは私の方だ。ワガママばかり言って今日も、今も、困らせてばかりだ。

でも、また一緒に帰れるかもしれない。

そう思うと嬉しくなって表情が緩む。

「そうだ!良いことを思いついた。」

我ながら名案だと思った。

私は、明日だって、明後日だって君と帰りたい。

だって今日は、久々に帰り道が楽しいと思えたのだ。

 朝、いつもより少し早いからか教室には何人かの生徒しかいない。教室の端の席、いつも通り彼が居た。だけど、雰囲気が違う。

私は嬉しくなって彼の元に駆け寄る。

「前髪!!!」

白川くんはビクッと今までにないくらい跳ねた。

「……花谷…さん。………おはよう…。」

すっかり学校モードな白川くんに少し残念な気持ちになる。

「うん。おはよ!」

だけどめげない。やっと見えるようになった彼の表情ににやけが止まらない。

「前髪、嬉しいな。」

「ぅ……うん…喜んでくれてうれしいな…。」

ふわりと笑った白川くんに目が釘付けになる。

「葵おはよー!」

教室の戸の方から聞こえて慌てて振り返る。

多分、私いま、顔赤いんだろうな。

「うん。おはよー!」

不思議に思われないようにいつも通りに挨拶をする。

少しずつ友達が来て、いつもの日常に変わる。

いつもと違うのは、授業中思わず白川くんのことを盗み見てしまうことだけだ。

 いつも一緒に帰る子は、学校から家が近いため、いつも駅前で別れる。なので電車に乗るところからはいつも一人だ。

通常であれば、すぐに来た電車に乗りこむのだが、今日は改札口の近くのベンチに腰を下ろした。

私の予想ではもうすぐ、もうすぐ。

ほら、白川くんだ。

彼が改札口に入ったのを確認して後を追う。

住宅街へと向かう方面の私たちの電車は反対方面へ向かう電車よりも人が少ない。

この時間帯は部活をしていない学生がちらほらと乗る程度だ。

階段を登りきると丁度電車のドアが閉まるところで少し焦って乗り込む。

「……あ!」

乗り込んだ扉の真正面の扉に背中を預けて立っていた白川くんと丁度目が合う。

「……花谷…さん…。今、帰り?」

「うん!偶然だね!」

彼の元へと駆け寄る。

うちの高校は帰宅部の方が珍しいほどに皆、部活動に励んでいる。

だからこの電車の中に、私たち以外、同じ高校の生徒は居なかった。

「うん…ほんと、偶然。」

白川くんは最初、驚いた顔をしていたけど状況を飲み込むと少し目を細めて笑った。

「駅まででいいから、少しお話しして帰ろう?」

「…うん。」

これが私の作戦。

私は、きっといつでも自分のことしか考えてなくて、白川くんにつり合う日なんて来ないかもしれない。

でも、白川くんは優しいから、少しずるいかもしれないけど今はその優しさに漬け込んで同じ時間を共有したいと思った。



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