きづかい
ぼーっと彼の顔を見上げながら駅までの道を歩く。
「前髪、切ればいいのに。」
ふと漏れた本音にこちらを振り向いた白川くんと目があう。
正確には合ったようなきがする。
「…ずっと見てるなーって思ってたけど…そんなことか……。」
「うん。なんでそんなにのばしてるの?」
「それは……うん…。」
聞いちゃまずいことだったんだろうか。そしてまたふと疑問に思う。
「学校から出ると普通に話せるの?」
「ふっふふ…そういうわけじゃないよ。……別に学校で話せないわけじゃない…なんか馴れるまでに時間がかかるんだよ。」
人見知り…ということだろうか?
なにかツボにはまったのか、白川くんはクツクツと喉を鳴らしながら口に手を当てて笑っていた。
顔……見たいな…。
「花谷さんはなんだか、すごく純粋で裏なんて無さそうだから……だからすぐ馴れちゃったのかもね…。」
ズキッと胸が痛む。私はきっと、純粋なんかじゃない。人に嫌われないように、顔色を伺って生きてる。所謂、八方美人なのだ。
「でもね、今日でもう、こういうのはやめた方がいい。……さっきは、花谷さんの泣き顔にやられたけど…でもねやっぱりダメなんだ……。」
いつの間にか白川くんはいつもの無表情に戻っていた。
やっぱり、一緒に帰るのは何かがダメらしい。……何か、なんて本当は気がついてる。浮いてる自分なんかと一緒に帰るのは私にとって良くないことだと思っているのだ。
私は何故か、白川くんの前では素の自分で居られるような気がした。
ずっと気になっていたにせよ、初めて話したのはつい先日のことだ。
なのになぜか、そう感じているのだ。
「どうしても……ダメ…?」
「うん、ダメなんだ…。」
「そっか…。」
気がついたら駅の前にいた。
そのまま駅に歩いていく白川くんを横目に私は立ち止まった。
白川くんもそれに気がついたように振り返る。
「…どうかした?」
「う、うん…。私、駅で用事あったんだった!…ごめん!」
精一杯の作り笑顔。
「そっか…じゃあ、ここまでだね。」
「…うん」
白川くんは少し口角を上げて「また明日」と手をヒラヒラ振った。
私もそれに応えるように手を振る。
白川くんの背中を見て、私は用事のない駅のショッピングモールの方へと足を向ける。
しかし、少し歩いたところで腕を引っ張られる。
「大丈夫?……また泣きそうな顔してる…。」
振り返るとそこに白川くんがいた。
私、作り笑顔作るの上手な方なんだけどな…。
今までにバレたことなんか無かったのにな……。
「やっぱ、俺も付き合うよ。……俺、暇だしさ。」
「さっき、一緒に帰るのはダメって言ったじゃん…。」
「それは、明日から……ね?」
嬉しかった。私のことを気にかけてくれて、私の気持ちの変化に気付いてくれて。
「…ありがとう。」
私たちは用事のないショッピングモールに向かって歩き出した。
白川くんは心なしか、私を気にかけて歩いているように感じた。