ふみこむ
「それじゃあ、各々調べ学習をするように。俺もそれぞれ見回りに行くからなーサボるなよ。」
その言葉と共に教室から多くの人が出て行った。
調べ学習をするために図書室やコンピューター室に行くためだ。
教室に残ったのは私達と別のペアが1組だけだった。
「白川くん、この前はごめんね。」
ずっと胸に引っかかっていた感情がスッと引いてく。しかし、白川くんはなんのことだかわかっていないようだった。
「あの子達、悪い子じゃないんだけど、ああいうこと言っちゃう所があるから……でも、私は白川くんが嫌だとか辛いとか思ってないからっ…あの……」
謝った意味を説明しようとしていたが上手くいかない。
「だから…その……えと………」
「………じょう…ぶ……」
白川くんは顔をあげる。
「…大丈夫……ありがと…。」
小さな声、それでも前より静かな教室ではハッキリ聞こえた。
「そっか、良かった!」
嬉しくて笑顔になる。長い前髪に隠された目ははっきり見えない。でも、白川くんも少し笑っているように感じた。
放課後、いつも一緒に帰っている皆は社会の課題で残るらしい。
私と白川くんは家で事前に調べてきたものを先程の時間にまとめてしまったからもう終わっていた。
「葵、ほんとごめんねー」
目の前で手を合わせて申し訳なさそうに謝る。
「ううん、全然大丈夫だよ。」
だからこそヘラヘラと笑って返した。本当に、大丈夫だから。
チラリと隣を見ると白川くんが帰る準備をしていた。
「じゃっ葵、また明日ねー」
そう言って皆自分のペアの所や目的の場所に散り散りになっていく。
白川くんが立ち上がったのを見て私も立ち上がる。いつのまにか教室に二人きりになっていた。
「ねえ、白川くんは電車で帰ってるの?」
「ふぇっ……あ、えと……うん…」
急に声をかけたからだろうか、大きく肩を揺らした。ずっと、俯いたままだ。
「そうなんだ!一緒だね。じゃあ、一緒に帰ろっ!」
そう言うとバッと顔を上げびっくりしたようにこちらを見た。
「………ん……ごめん…ダメだよ………」
また下を向いてしまった。急に距離を縮めすぎたのだろうか。
それにしても、断られるなど1ミリも考えてなかった。
予想外の返事に私は、驚きとショックでしばらく固まってしまった。