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Naked-Genius  作者: 芹沢一唯
5/9

食事中に騒ぎを起こすのはご遠慮下さい。

「この時間だと空いてていいな」

 呑気に感想を述べたのは、ヘイズである。

丘を下りて街に入ったのは、昼をずいぶんと過ぎてからであった。宿の部屋へは戻らず、そのまま一階の食堂に向かった。

奥まったところに席を取り、ようやく一息ついたところである。

「おなか空いたよう、ヘイズ」

「お前の口からはそれしか出ないのかよ」

 呆れながらヘイズ。メニューを覗き込んでいるのはヘイズだが、テフラもライアも、すでにメニューを決めているらしい。二人分の食事量を調整しつつ選ばなければならない。自分ひとりで悩むよりは、ライアの分が加わったのでいくぶん楽になったように思っていたのだが、ライアの方はあまり真剣に悩んでいないようなので、大して変化はないのかもしれない。

「ご注文はお決まりでしょうか?」

 やたらと明るい口調で、ウエイトレスがやって来る。時間が時間なだけに客は少ない。暇を持て余していたようだ。かといって、まったく客がいないわけでもないのだが、頻繁にウエイトレスを必要としているわけではないので、一定の仕事をこなしてしまえば暇になるのだろう。

「このサラダのセットと、若鶏のソテーと、パスタをクリームソースで。ヘイズは?」

「ああ、えっと……そだな、このセットで」

 メニューを読み上げるのが面倒なのか、指を差して注文する。

「あら、ヘイズそれだけ?」

「それだけ……ってな、そんなにたくさん頼んだら不自然だろ、俺たち二人しかいないんだから」

 半眼になってうめくように言う。テフラは、いつものように姿を消している。ライアは、中身はドラゴンだが見た目は普通の女性と変わらない。多少服のデザインが妙であるが、それは気にしないことにしておこう。……突っ込んで怒り出したら手が付けられなくなりそうだ。

「そんなに……って、テフちゃんの分が増えるだけじゃない」

 テフラの見た目から判断して、そんなに増えることはないのではないか、そう考えるのは素人である。

「見た目は可愛いけどな、こいつは俺より食うんだよ」

 うんざりしたように、テフラの気配の方向を確認しながらヘイズが言う。そう、テフラはヘイズよりも食べるのだ。どこにそれだけの量が入るのか、テフラと旅を続けてしばらく経つが、未だに疑問に感じる部分である。

「あら、そうなの?」

『えへへーっ、そーなの』

 さして驚いた様子もなく、ライアとテフラが言葉を交わす。現在この食堂ががらがらに空いているからまだいいが、いつテフラが見つかるかと思うと気が気ではない。そわそわしながら二人の会話の様子を見ているだけ、というのも情けない話である。しかし、ライアの機嫌を損ねることを考えれば、どちらが利口であるか、ヘイズは本能的に悟っていた。

 食堂にいる一般人がウエイトレスだけであれば、テフラも姿を隠さなくてすむのだろうが、現在食堂には、彼ら以外に三つのテーブルが埋まっていた。

二つには暇そうなおばちゃんたちが世間話を楽しんで座っている。もう一つには、一人の青年が座っていた。金髪の、あの青年である。ヘイズの気のせいか、何やら思いつめたような表情で、一人コーヒーをすすっている。

「ライア」

 ふと、ヘイズが切り出した。テフラとの話を中断させ、ヘイズの方を向く。

「何だって街に噂流したりしたんだ?」

 何となく聞いたようなことであったが、やはりはっきりした動機を知りたい。

「だから、暇つぶしだって言ったじゃない」

「それだけか?」

 少しだけ勇気を出して、さらに問う。やや困ったような表情で首をかしげ、何やら考えている様子であったが、それほど間をおかずにライアが答える。

「一緒に旅に出る仲間を探したかったのよ。ドラゴン退治に来るような勇敢な人間をね。それから……あの嫌な視線の正体も分からなくて、気味悪かったし……」

 どうやら、二つ目の理由はあまり人に知られたくなかったらしい。歯切れが悪そうにしている。名高いドラゴン種族が正体不明のものに対して恐怖心に近いものを抱いているのは、やはり恥ずかしいのであろう。

「そこに、俺たちが行ったってわけか……」

『でも、退治に来る人間が街の人じゃなくて良かったね』

 姿を消したまま、テフラが会話に参加してくる。途中で声のボリュームを落とすようにヘイズに小突かれてからは、頑張って声を抑えている。

「そうね、街の人間だったら旅になんか出ないわよね」

 街の人間が退治に来ることは頭になかったのだろうか。まあ、たとえ来たとしても、こちらが出て行かなければいいことなのだが、そうなるとドラゴンの噂はあっという間に消えてしまう。ライアにとっては運が良かったのかもしれないが、ヘイズにとっては必ずしもそうは言えない。誰かと契約し、報酬を貰うこともできない上に、無理やり旅についてこられたのだから。

「お待たせ致しました、サラダセットと若鶏のソテー、クリームソースでございます」

 店内に響き渡るような声で、メニューを復唱しながらテーブルに並べていく。テフラがテーブルの上ではしゃいでいるのが手に取るように分かるが、ウエイトレスの前で注意するわけにもいかず、ヘイズは冷や汗を流していた。そんなことにはまったく気づかないテフラとライア。早速スプーンとフォークを構えている。

「ふう……」

 苦労が増えたことを実感しながら、ヘイズも食事にとりかかった。テフラの姿は見えないが、テフラが持っているフォークは見えるので、フォークだけが不自然に動いているようで不気味である。ヘイズはもう慣れているし、ライアはそんなことはまるで気にしないのだが、やはり一般人に見えては困る。ヘイズの影になるように調整し、場所も壁際、影になるような場所を選んではいるが、安心してゆっくりと食事をする時間は、今のところヘイズにはない。

 しばらく無言で料理を口に運ぶ。

  ばんっ!

「!」

 急に入り口のドアが乱暴に開け放たれた。数人の人影が入ってくる。

「何よ……下品ね」

 パスタを口に運びながらライアが視線を向け、ぼやく。

『人間じゃないみたいだよ』

 テフラも入り口方向に目を向け、若鶏のソテーが口の中に入ったまま、もぐもぐさせながらヘイズの頭にしがみつく。

 テフラの言うように、人間ではないようだ。

「ワーウルフ……狼人間だ。今日は満月か?」

「そんなことどうでもいいわ……ご飯がまずくなるじゃない」

 だんだんと声に怒りがこもってくる。ふとヘイズは、自分の後ろにうずうずと動いている何かを感じた。自分の後ろを通って足元でうずうずしているものを目でたどる。それは、ライアの腰につながっている。

「お、おいライアっ、お前尻尾!」

 小声で叫ぶ。どうやら中途半端に変化が解け、尻尾がはみ出してしまっているようだ。ヘイズは、椅子の上で身体をよじりながら、尻尾にはたかれそうになるのをよけている。

「あらっ、嫌だわ、私としたことが」

 言いながら、少しは気を落ち着けたのか、尻尾は消え入るように見えなくなった。その間にも、乱入してきた狼男たちが、一つのテーブルとの距離を縮めていた。

「見つけたぜ……今度こそ逃がしゃしねーぜ……」

「覚悟しやがれ」

 交互に月並みな台詞を並べながら、金髪の青年に向かって持っていた武器を構える。大振りの円月刀や大きな棍棒。まるで山賊だ。

狼男は人間に比べるとやや大柄である。彼らが狙っている金髪の青年は、小柄とはいわないが、ヘイズと比べると少しばかり華奢である。狼男の相手をするには、体格からして少々不利な感は否めない。

「ここにはてめえを助けに来る部下なんぞ来ないぜ……そうでなくても、てめえの部下は命令なんかにゃ従わなくなってんだ」

「命運尽きたな、てめえも親父と一緒に墓ん中に入れてやるぜ」

「たとえ一人でも、そう簡単にやられるわけにはいかないよ……。それに、それに父はまだ生きている!」

 狼人間相手に、勇敢にも剣を抜き、構える。彼が携えているのは刀身の細い剣、レイピアだ。

「ほう……アイツ、剣を使えるのか」

 彼らの様子を観察しながら、食事の手を止めずに感想を述べる。

「ねえ、感心したりしてないで、助けてあげたら?」

 言ってはいるが、テフラも食事の手を止めない。ライアも同様である。

  がたぁんっ!

 振り回した狼男の棍棒がテーブルを丸々一個吹っ飛ばした。凄まじい威力である。青年は、何とか椅子を蹴り、その一撃をよけた。

「避けたはいいけど、レイピアじゃ太刀打ちできねーんじゃねーかな」

「そうね……狼男の皮膚は硬いもの……あんまりダメージは与えられないわね」

 やはり食事の手は止めないまま、ヘイズとライアが状況を分析している。状況は、青年にとってはあまりいいものとは言えないようだ。

手当たり次第に武器を振り回す狼男から逃げ回るのに精一杯のようだ。食堂内があっという間に瓦礫に埋め尽くされていく。まるで荒らされた材木置き場のように、砕かれた椅子やテーブルが床を支配していく。

  どんっ、がたがたぁんっ!

 よけた拍子に椅子につまずき、金髪の青年が派手な音を立ててヘイズたちのテーブルに突っ込んできた。

「痛う……っ」

『わああっ、危ないなあ、こっちこないでよ!』

「?」

 姿のない声に気づいたのか、一瞬ヘイズの方を見上げる。ヘイズと目が合ったようであったが、ヘイズは視線を動かし、その視線は狼男を捕らえていた。青年が飛び込んできた瞬間、ヘイズもライアもテフラも、すばやく反応し、壁際に非難していたので被害に遭わずにすんでいたようである。

「ふっ……さすがだなライア。ちゃっかり皿を持って非難するとは」

「あなたもね、ヘイズ」

 まだ少しばかり残っている皿を、それぞれがしっかりと手に持っている。

「人様の食事の邪魔するとは、いい度胸してんじゃねーか」

狼男たちから視線を逸らさず睨みつける。が、その手には料理の残った皿を持っているため、今ひとつ、迫力というか説得力がない。

「てめえ、皿持ったまま言える台詞かっ!」

 狼男のわりには気の利いた台詞である。ヘイズの態度が癇に障ったのか、今度はヘイズめがけて突っ込んできた。

「うりゃっ!」

 気合が入っているのか抜けているのか分からないような声を上げ、持っていた皿を相手の顔面めがけて投げつける! 

  がんっ!

 見事命中。まだ少しだけ残っていた料理は、すべて自分の口の中に収めている。もぐもぐしながら勝ち誇ったような顔で、自分が皿をぶつけた相手を見やる。

皿で攻撃されたことに腹を立てたのか、ヘイズの態度がやはり気に食わなかったのか、単純にもその場にいた狼男全員が、ヘイズに攻撃を仕掛けてきた。

ライアは、攻撃から料理を守るように、ヘイズから距離をとる。テフラもライアに続いて離れているようだ。

大きな動作で振り下ろしてくる円月刀をさらりとかわし、相手の喉もとに強烈な蹴りを放つ。もんどりうって倒れる仲間をよけ、棍棒で襲いかかってくる一匹に足払いをかける。バランスを崩した相手に向かって、手近にあった椅子をつかみ、その脳天に打ち下ろす。続いて襲いかかってきた一匹の顔面に肘鉄をかまし、最後の一匹には、顔面に強烈な拳を打ち込んだ。

「やるわね……」

 一連の様子を黙って見ていたライアが、感嘆の声をあげる。金髪の青年は、呆然とそれを眺めている。

「くそうっ、……一旦引き上げだ」

 やはり月並みな台詞で締めくくり、ふらふらになりながら仲間を起こして、狼男たちはその場を去っていった。

彼らが去った後は、竜巻でも襲ってきたのかと思うほどに、店内は荒れ放題。世間話を楽しんでいたおばちゃんたちの姿は、彼らが踏み込んできたときからすでにない。ウエイトレスは、カウンターの後ろに避難していたらしく、怪我はないようだ。

「どうしよっか」

 狼男たちを見送って、何気なく店内を見渡し、カウンターの後ろに隠れるようにしていたウエイトレスに声をかけてみる。

「あ、あの……お怪我などは……?」

「え? ああ、ねえよ、大丈夫だ」

「そちらのお客様も……?」

 と、立ち上がった金髪の青年にも声をかける。

「大丈夫」

 短くそれだけを答える。まだ呆然としているようだ。

「あの……ここは私どもが片付けますので、どうぞ、お部屋の方に……」

「へ? いいのかよ」

 思わぬウエイトレスの言葉に、逆に戸惑ってしまった。確かに、こちらが仕掛けたわけでもなく、言わば被害者的な立場にいるわけだが……。

「そうか……?」

 何やら釈然としないままのヘイズだったが、ライアが遠慮なく客室への階段を昇り始めたことと、金髪の青年が促したこともあって、結局何事もなかったように部屋に向かったのである。

 釈然としないヘイズは、部屋に戻る途中で当然のように切り出した。

「あんた、話聞かせてくれるよな」

「はい」

 もっとためらうと思っていたのだが、何事かを決心したような顔で答える。以外にも素直に応じる青年に驚きながらも、ヘイズが借りている部屋に入る。テーブルを囲んで落ち着いたところで、青年が深刻に話し出した。

「皆さん……、今この街に何が起こっているか、ご存知でしょうか?」

「ドラゴンがどうしたとかいうやつか?」

 言ってヘイズは、思わずライアの方を見やる。その瞬間ライアの目がぎらっと光ったような気がして逸らしたが。

「いえ、ドラゴンの話ではありません……」

 否定してから、青年が説明を始めた。

 彼の名はクリス。この街を治めている領主の息子である。ライアがいた丘よりも東よりの森の奥に、その城がある。

ことの始まりは、彼の父である現領主が、ある男を大臣として城に迎えたことであった。その男は、魔術師を名乗っていたが、領主はその男の言葉、『吉凶を占うもの』という言葉を信じたのだという。

「ヘイズ、魔術師ってそういうものだったかしら?」

 話の途中でライアが聞く。

「まあ、もともとはそういう仕事から発達したモンだからな」

 魔術師。その話の通り、もともとは占い師のようなものであった。ただし、魔術師と名乗る者たちは、精霊を使う。精霊を使って物事の吉凶を占うのだ。

 クリスの話によると、その魔術師、はじめはその言葉通りに吉凶を占い、領地のために尽くしているようであったらしい。しかし、彼は彼に与えられた部屋の奥で、召喚術を使っているのだという。その内、城内の兵士たちの様子がおかしくなった。主である領主の命令に逆らい、その男の命令に従うようになったのだ。

「多分それって、憑依されたんだと思うよ」

「うわっ、テフラ!」

 いきなりヘイズの目の前に姿を現して解説を始めたテフラに、思わず腰を浮かせる。クリスの目が点になっている。当然のことだろう。何もなかったはずの空間から突如翼の生えた小さな生きのようなものが出現したのだから。

「こっこれはこの物体は一体……っ?」

 かなり動揺しているようだ。若干腰が引けている。

「物体って言わないでよ、テフラだよ。火の精霊なの」

「せ、精霊……?」

「ああ、まあ気にすんな、普段は姿消してるんだ。話続けようぜ」

 ヘイズも負けずに動揺しているようだ。まさかテフラが人前に出てくるとは思わなかったのだ。普段のテフラなら、ライアはともかくとして、普通の人間の前には決して姿を現さない。例えそれがヘイズの親しくしている人間であっても同じことなのだが、何を思ったのか、突如として姿を見せたのだ。

 気にすんなと言われて、テフらはややふくれているが、クリスはヘイズの言葉に従って、あまり気にしないようにしながら話を続ける。

 父親である領主は、心労がたたったのか衰弱し、今は臥せっているという。そのため、父や近衛兵に代わって、その息子であるクリスが、大臣追放のために方法を探しているらしい。しかし、先ほど襲ってきたような輩に見つかり、街を出ることもできずにいたのだ。原則的に、現領主が生存している場合、本人の命令がない限り、領主の決定を覆すことはできない。例え実の息子で、次期領主であるクリスであっても、父が直接命令しない限り、クリスの意思で大臣を追放することはできない。しかし例外として、その悪行を暴く証拠さえあれば、クリスの権限で追放することができるのだという。

「それじゃあ、僕たちが手伝ってあげるよ。ね、ヘイズ!」

 元気のいい声を張り上げ、自信満々に胸を叩く。そうくることを予想していたのか、ヘイズは軽く溜め息をついてテフラを見上げる。その瞳は、すでに決意していたような輝きをもっている。

「ま、こんだけ話聞いちまったしな」

(珍しくテフラも人前に出てきたし……)

 ヘイズが胸中でつぶやく。テフラが姿を現したことに何かを感じていたようだ。

「い、いいんですか?」

 驚きと喜びが交じり合ったような複雑な表情で、身を乗り出す。

「私も構わないわよ。人間の召喚術っていうのにも興味あるし、それに……」

 言って視線をクリスに移す。

「な、何か……?」

 その妖しい視線に戸惑うように、乗り出した身を引っ込めるクリス。

「いい男だしねえ♡」

「……………………」

 この沈黙はヘイズである。クリスは確かに美形であるが、ヘイズも同じことを言われたのだ。ということは、同じような系統の顔なのだろうか……。ヘイズも整った顔立ちをしているが、彼はそれを自覚したことはない。改めてクリスの顔をまじまじと見つめてしまった。

(俺とこいつを一緒にしないで欲しいな……)

 いい男と言われて悪い気はしないが、やはり複雑である。

「それじゃ早速、作戦会議だぁっ!」

 妙な間を切り裂くように、テフラがかわいらしい声を張り上げる。

 かくして、作戦会議が始まったが、言い出したテフラは、クリスが簡単に図面を作りながら城の間取りを説明している間に飽きてしまったのか、眠そうにヘイズの頭にしがみついている。

「……と、城の間取りはこんな感じです。裏のこの通路を抜ければ、誰に見つかることなく玉座まで行けるでしょう。大臣の部屋は、こちらからだと、……ここですね」

 簡易地図を書き上げ、説明するクリスにうなずくヘイズ。

「よし、んじゃ行くか」

 不意にヘイズが立ち上がったので、頭にくっついていたテフラが前方に滑り落ち、ヘイズの顔面に張り付くかたちになってしまった。

「こんな夜に行くの?」

 ヘイズに顔面から引き離されながら、眠い目をこすって問う。すでに日が落ちてから数時間経過している。

「何も襲撃しに行くわけじゃねーよ。様子見に行ってくるだけだ。お前はもう寝てていいよ」

「やだっ、僕も行く!」

 置いて行かれそうになってばっちりと目が覚めたらしい。今度はヘイズの肩にしがみついて叫ぶように言う。

 クリスの話だけでは、その大臣がどんな召喚術を扱うのかまでは分からない。いきなり襲撃しに行ってこちらが憑依されてしまうことも十分に考えられる。返り討ちに遭わないためには、下見は必須条件である。城内の様子も知っておきたい。それでクリスから話を聞く際に、偵察できるルートを聞き出していたのだ。

「私はパスするわ。様子見だけなんでしょ? 睡眠不足は美容の大敵だもの。先に休ませてもらうわね」

 一応断っておくが、ライアはヘイズたちとは別に、部屋を借りている。食堂から引き上げてくるときに、宿泊の手続きをとってある。ライアは、人間の通貨を持ち合わせていなかったので、宿泊費はもちろん、ヘイズの財布から出ているのだが。

「それじゃ、行くか」

 ライアが行かないと言い出したことにテフラは不満の声を上げたが、眠たくなって気が緩んで、さっきの食堂のときのように尻尾がはみ出るようなことになったら、大騒ぎになりかねない。尻尾が出るどころじゃなくなったら……例えば突然ドラゴンの姿に戻って暴れだしたりでもしたら、もっと手に負えなくなる。

ヘイズの必死な姿を見て、少々恐怖が訪れたのか、テフラも駄々をこねることなく納得したようである。



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