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限界なんて、あるものか

火炎ほのおよ火炎ほのおよ火炎ほのおよ火炎ほのおよ火炎ほのおよ……!! くっ」


 五回目を唱え終え、六回目を唱えようとしたところで体全体を強い痛みが襲う。

 これ以上はダメなのかよ! 右手から魔法が発動されてしまう。

 制御されず荒れ狂う炎が、夜を焼き、練習場の半分を炎で埋め尽くした。

 こんなものなんの価値もない。


消滅きえよ


 俺は自身の不甲斐ない魔法を消す為に、きえよと唱える。

 その一言で炎は(またた)く間に消えた。いつ見ても不思議なもんだ。


「それにしても何がいけないんだ……六回以上唱えるにはどうしたらいい」


 練習量? 想像力? はたまた集中力か。それとも、才能が尽きたなんてことは。

 いや、そんなはずない。俺はまだ上にいける。強くなって、魔法の国を良くしなきゃ――

 そう考えたとき、頭に痺れを感じ、体がグラっとする。

 

「すーー」


 息を吸い、


「ふう」 


 吐く。

 そして、態勢を整える。

 時々起こるこの痺れはなんだ。練習のしすぎだとでもいうのかよ。

 休むか? まだだ、こんな所でやめたら強くなれない。

 俺は練習を続けようと右手に意識を集中する。


「もう練習は止めて、家に帰りましょう。アンドリュー」


 俺は後ろから聞こえる声を無視して、唱える。


火炎(ほのおよ)火炎(ほのおよ)火炎(ほのおよ)……!!」


 先程よりも強い痛みが襲う。

 まだ三回しか唱えていなのに、なんでっ!

 痛みに気を取られてる内に魔法が発動されてしまった。ああ、何て意味の無い魔法(ほのお)なんだ。

 きえよ、と唱える前に魔法が消えてしまう。もう魔力切れか……


「はぁ……」

「アンドリュー、無理のしすぎよ。朝から晩まで練習をするなんて……それに魔力が切れて、体は大丈夫?」

「魔力切れぐらい問題ないよ。レオナ姉さん」

 

 レオナ姉さんの方へ向き、今度は返事をする。

 相変わらず心配性だ。もう何度もなってることなのに。


「ぐらいって、最悪死んじゃうのよ! なんでそんなに……」

「次からは気をつける」


俺は軽く返事をし、足元に置いてたバッグを持つ。


「帰ろう、レオナ姉さん。休憩中に山菜を取っておいたんだ」

「もう……次からは本当に気をつけてね。……言っても聞かないでしょうけど」


 ああ、と俺は返事をし、歩き出す。

 入口から一番離れた所で練習をしてたから、歩くと十分ぐらいか。面倒だな。

 もう一つぐらい、入口なり出口があってもいいと思うんだけど。


「アンドリュー、もう少しゆっくり歩いて」


 後ろを振り向くと、夜の中でもよく見える金色(こんじき)の髪を揺らしながら、レオナ姉さんが小走りしていた。

 

「加速魔法は使ってないよ」


 俺はお決まりの冗談を口にする。


「そんなのわかってる! アンドリュー、髪だけじゃなくて、服まで黒いから、夜だと見失っちゃうのよ」


 それに、と少し笑いながら、


「身長も小さいから」

「なっ!? ……姉さんはいいよな。俺より身長高いし、髪の色も一番凄い魔法使いと同じでさ」

「もう、冗談でしょ、あまり怒らないで。それに私は身長が高くてもあまり嬉しくないわ」


 確か姉さんの身長は、一七〇以上はある筈だ。俺よりも高くて、ちょっと羨ましい。

 だが、それよりも髪の色の方が羨ましかった。唯一七回という詠唱回数を唱えた魔法使いも金色の髪だったらしい。七回唱えた時の威力は街一つを焼き滅ぼし、街の外にまで被害を与えたと聞いた。

 もし自分が金髪ならとつい思ってしまう。髪色で、もしかしたら潜在能力は決まってるのかもしれないし。


「何で俺は金髪じゃなかったんだろう」

「……それはお父さんが黒髪だからって何度も言ったでしょう。それに私はアンドリューの黒い髪、好きよ」


 レオナ姉さんは微笑みながら言った。父さんね……

 そう言われてもやはり金色の髪がよかった。だけど、まあ、黒髪でも有名な人はいるしな。

 髪の色なんて関係ないに違いない。


 そうこうしてる内にもう出口に着いた。薄い緑の膜のようなものを通り抜け外へ出る。


「凄いもんだよな。この膜が魔法を外に出さないよう防いでるなんて」

「なにしろ初代の王様が作ったものだもの。何よりこの魔法の凄い所は持続力の高さね」

「持続力ってだけなら魔獣もだけどな」


「戦争の時は重宝されてたみたいだけど、あれは……」 


 二人して緑の膜を眺める。

 初代の王様が亡くなって相当な年数が経つのに、今だに魔法が昔と変わらず発動してるのは普通では考えられない。

 入口を増やしたりしないのは、下手なことをして魔法を消さないためなのかもしれないな。

 

「今の魔法使いでこんなこと出来る人っているのか?」

「いないでしょうね。世代を追うごとに、魔法の力が衰えてるもの。

 そう考えると七回唱えた魔法使いは例外的な存在よ」

「何で魔法の力は衰えてくんだろう。普通成熟してきそうなもんなのに」


 俺は愚痴りながら、家に帰るため夜の鬱蒼(うっそう)とした森の中を歩き始める。

 

「今だに魔法を使える源がわからないもの。おそらく血が関係してるんじゃないかとは言われてるけど」


 血か。衰えてる理由も他国の人と結婚したりして、どんどん魔法使いの血が薄まってるから、と考えればおかしくはない。

 自分が調べた範囲では判明しなかったけど、他国では禁止されてる近親婚なんて許可してるぐらいだ。国はそう思ってるんだろうな。

 

「ねえ、アンドリュー。あなたは間違いなく頑張ってるわ。私の知ってる人の中でも、一番か二番を争うぐらいに」


 レオナ姉さんはこっちを見ながら、喋る。またいつものあれか……


「でもあなたが目指してる七回以上の魔法を唱えるのは難しいと思うの。

 何より戦争が終わった今、そんな力は必要ないのよ」


 昔に比べ、今は平和な時代だ。レオナ姉さんの言う通り必要な力ではないだろう。

 強力すぎて使う場面がない。魔獣を倒すにしても四回か五回唱えられれば、充分だろうしな。

 だけど俺は力そのものが欲しいわけじゃない。

 魔法使いとしての高みに行きたい。それだけだ。それだけなんだ。


「姉さん、何度も言わせないでくれ。俺の夢なんだ。七回を超えたその先の魔法を見てみたい。そしてこの国に少しでも貢献したいんだ」


 また頭が痺れる。


「夢があるのはいいことよ。でも、もう少しゆっくりでいいじゃない。今のあなたは間違いなく急ぎ過ぎよ」


 暗くてよくわからないけど、表情は手に取るようにわかる。

 心配してくれるのは嬉しい。だが、それだけだ。


「そんなこと言ってたら、夢に近付く前に老いて死んじゃうよ」

「今のあなたの方がよっぽど……!」


 小さく息を吐く音が聞こえた。

 

「気が変わったら、また学院へ行ってもいいからね。お金はあるんだから」


 俺は返事をせず、黙々と歩くことにした。

 今日は家に近い訓練場が使えた。もう少しで着くだろう。

 俺は冷たい風を感じながら、無数にある特徴のない木々を眺めた。



 着いたな。

 俺はいくつもあるツリーハウスの中から、一番見慣れた所を見つけ、階段を登り、扉を開けた。


「この階段を登るのはやっぱりキツイ」


 俺は荷物を床に置き、ボヤく。

 レオナ姉さんも続いて入ってきた。


「あれだけ魔法の練習をしてるのに、体力はないわよね」

「魔法は体力より集中力と想像力だからな。それにレオナ姉さんよりはあるよ」

「私は女よ?」


 苦笑いしながら、キッチンの方に向かった。

 ……恥ずかしいことを言ったな。まあ体力は無くても体は丈夫だし問題ないだろう。

 さてと、俺も荷物を一度キッチンに持ってかないとな。


「何か手伝うことはある?」


「んーー今日はないかな」


 そう言いながら、レオナ姉さんは、ほのおよ。と唱え、鍋の下に火を付けた。

 チラリと鍋の中を見る。今日はシチューか。まさかとは思うけど……


「キノコは入ってないよね?」

「心配性ね。あそこまで嫌がってるものを入れないわ」


 今だにキノコのトラウマが拭えない。

 仮にまた家出をするとしても絶対にキノコだけは食べたくない。

 ついあの時の思い出が蘇り、自分でもわかる程に苦々しい顔をしてしまう。

 

「あっ、そうだ! アンドリューが取ってきてくれた山菜、野菜室に入れて来てくれる?」


 嫌な記憶を思い出してると、レオナ姉さんが陽気な声で話しかけてきた。


「わかったよ。お腹空いたから、シチュー早めにね」

「はいはい」


 業者の人が温度設定を間違ったせいなのか、寒すぎるんだよな。

 自分も水系統の魔法が使えたら……少し憂鬱な気持ちになりながら、野菜室へ向かった。




「「いただきます」」


 俺はスプーンで具材を一通り確認したあと、シチューを口にした。

 冷たい所に居たせいか、いつもより美味しく感じる。


「レオナ姉さん、俺のことは気にせず先にご飯を食べてていいよ」


 そう言い、壁に掛けてある時計を見た。時刻はもう二三時だ。

 夕食というには遅すぎる。


「アンドリューが早く帰ってくれば何も問題ないのよ」

「それは無理だ。夜の方が集中力も高まるしさ。そもそも迎えに来る必要だって」

「魔力を切らすまで、練習をする人の言うことは聞きません」


 レオナ姉さんは頑固だ。同時に俺も頑固なのは理解してるつもりだ。

 していても改善する気は毛頭ないが。高みに行くには集中力が高まる夜の練習は欠かせない。

 互いに譲らないからこんな時間に二人して夕食を食べることになる。

 

「それに一人で食べるのって寂しいものよ」


 瞼を伏せながらそう言った。

 両親が生きていれば、自分達の関係性は違ったのかもしれない。

 姉さんが心配性なのも、親がいないからだと思うし。

 

 俺にはどんな人達だったか覚えていないが。


「結婚はしないの? 俺のことを気にしてるなら、家も出てくよ」

「知ってるでしょ。そもそも恋人がいないの」

「それ含めて、俺がいると作れないんじゃないかってこと」


 俺がそう言うと、レオナ姉さんは何かを思い出すように天井を眺めた。


「そんなの関係ないわ。それにアンドリュー。

 家を出たら今までみたいに魔法の練習はできないのよ。仕事もしなきゃいけないんだから」

「そりゃ仕方ないだろ。レオナ姉さんの幸せを奪うのもあれだし……そこら辺は譲るよ」


「そんなに困った顔して何言ってるの。

 でも、そうね、結婚についてはアンドリューにそういう大切な人ができたら考えるわ」

「……俺は恋人とかそういうのはいいよ」


 それより、誰よりも優れた魔法使いになって国に貢献したい。


「それじゃ姉さんいつまで経っても結婚できないじゃない」

「もしレオナ姉さんが結婚できなかったら、俺が貰うよ」

「理由は?」


 苦笑いしながら聞いてきた。多分俺の答えがわかってるのだろう。


「同じ血を持った同士が結婚すれば、魔法使いとして優秀な子が生まれやすいから」


 そういうこと他の女の子に言っちゃダメよといいながら、食べ終わった皿を台所に持っていった。

 そんなに間違ったことを言ったかな。と思いながら、俺もレオナ姉さんに続いた。

 



「もう朝か……」


 窓から差す光で目が痛い。それとは関係なく頭も痛い。

 大人しく寝るべきだったかな。つい本に集中しすぎた。

 色々な魔法学の本を読んだのに、魔法については今だにわからないことが多い。

 それは、自分だけでなく魔法国の住人全てがそうだろう。

 もしかしたら、王様や七回唱えた伝説の魔法使い……

 極みに達したMr.Ⅶ(ミスター・セブン)なら自分がわからないことも、知ってるいのかもしれないな。

 だけど、王様にはまず会えないし、Mr.Ⅶはもう死んでるだろうし、これ以上魔法について知るにはどうしたものか。


 魔法が、国が、衰えてる理由の一つは、わからないことが多すぎて、発展や改良ができないことだろう。

 力の源すら今だに曖昧なんだ、どうしようもない。

 昔は魔法国の住人の半数以上は六回唱えることができたという。

 今六回唱えられるのは、王様含めて五人しかいないはず。酷いもんだ。

 その点機械の国は発展目覚ましいと聞く。戦争の初期では最弱とまで言われてたらしいが、今では武術の国と肩を並べている。

 正直羨ましい。そして、その発展の凄まじさが憎い。

 魔法国と機械の国、真逆の歴史を辿っているといっても過言じゃない。かつての最強は、衰退し、かつての最弱は、繁栄している。


「ふう」 


 やめよう。他国を羨んだり、憎んでも仕方ない。眠ってないからこんな馬鹿な事を考えてしまう。

 少し寝よう。今日はレオナ姉さんの仕事を手伝う日だし、起こしてくれるだろう。

 寝て、また夜に備えなきゃ……な。




 頭が重い……やっぱり寝起きは辛いな。低血圧ってやつなんだろうか。

 それにしても何か部屋が暗い。


「ってもう夜!?」

 

 窓から見える空はもう真っ暗だ。

 何で姉さんが起こしてくれなかったのかは分からない。

 でも一つだけ言えることがある。


「時間を無駄にしたな……」


 窓越しから流れ星が落ちていくのが見えた。

 

 


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