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アンドリューが過去へのこだわりを捨て、今を見つめた時、未来への戦いが始まる。

ブ、ブクマが増えてる……!

もう望むものはなし、完結させるのみ。

ありがとう……そしてありがとう。

「家族、か」


 胸ポケットにしまった一枚の写真を取り出す。

 作業服さんから預かった大切な物だ。

 笑顔の三人と倒れそうになってる作業服さんが写っている。


「本当の家族じゃない、それでも」


 家族だったんだろう、彼らは。

 俺達には家族がいない。

 死んだとかではなく元々いなかった。


「はーもうやってられないよ」


 小さな白い部屋に取り付けられたテレビを見る。

 さっき突然と画面が暗くなってしまったせいで、俺の表情が見えた。

 中央国の砂漠のように、乾いた笑顔を浮かべていた。


「ははは」


 俺は過去を家族を自分を探し続けてきた。

 結果、見つけることはできた。

 俺に過去はなく、家族も存在せず、自分という存在はアンドロイドだってことを。

 

「ふー」

 

 これがアレスさんの誘い(幸せな日常)を断ってでも、知りたかったことの結末だ。

 あんまりな結果だと思う。後悔だってした。

 でも、今はもう後悔なんてしていない。


「作業服さん達は家族っていえば家族なのかな」


 兄弟って感じかもしれない。

 俺は末っ子かな~、作業服さんは長男だろうな。

 苦労性な感じがするし、はは。


「…………」


 作業服さん俺は必ず生き残ります。

 エミリー達のもとに帰るために、そして約束を守るためにも。

 例え自分の行いが罪だとしても、自分を信じ続けます。


 目を閉じ、決意を固めていたら、


「あーあー、聞こえてる? 

 モニターが映らなくなっちゃってごめんね。魔法がそりゃもう凄くて……」

「要件は?」


 機械国の王様に付き合ってると頭が痛くなってくる。

 俺は断じてこの人の息子じゃないって主張したい。

 生みの親って言っても、俺ロボットだしなぁ。


「な、なんか冷たくない? まあ、いいや。

 勝負がつきました。で、で、次が決勝ってこと。

 これさえ勝てれば生きて帰れるよ」


 今更だけど本当に帰れるのだろうか?

 一応聞いてみるか。


「……確認しておきますけど、嘘じゃありませんよね」

「そんな目をしないでよ。

 もちろんさ! 親は子に嘘をつかないよ。

 残りの人生は好きにしたらいい、好きにね」


 意味のない質問に、王様は不敵な笑みで応えた。

 その笑みが胡散臭いんですよ……


「詳しいことは戦いが終わったら話すから。

 で、決勝なんだけど場所を移します! 

 理由は戦いを見てたら、何となくわかると思うけどステージが滅茶苦茶でね」


「わかりました。どうやって移動すれば?」

「そのまま座ってて、移動させるから。

 じゃあ健闘を祈るよ。ラブリーサン!」


 そう言った後、音は消えた。

 

 この椅子便利だなー、座ってても移動できるなんて。

 一家に一台欲しい。でも、木に備え付ける必要があるなら不便だな。


「だけど、どこに移動するんだろう」


 また床が開くんだろうか……うーん考えても仕方ないか。

 それよりもどっちが勝ったんだろう。

 無難に考ると筋肉さんな気がする。

 けど、試合で見せたドラゴンや風を纏った剣を使える魔法使いさんが勝ってもおかしくない。


「どうすればいいんだ」


 仮に筋肉さんが勝ってた場合、遠距離戦をするべきだろう。

 でも俺が選んだ武器は短剣と投擲ナイフ五本セット、それに銃だ。

 遠距離戦をするには心もとない。ミサイルとかあったけど、使うの怖いしな。

 どうしたもんかな、勝てる気がしない。


「や、やめよう」


 まだ筋肉さんが相手と決まったわけじゃないし!

 そうだ、魔法使いさんが相手だったらどうするかな。

 やっぱり近距離戦をするべきだろう。でもあの加速魔法に追いつける気がしない。

 一応俺も使えはするけど、うーん。魔力切れを狙うのが一番だな! よしっ。

 

「おっと」


 椅子が動き出した。

 どちらが相手にしろ恨みっこなしだ。

 俺は、生きる! 

 

 ……今までテレビだと思ってたのって、モニターって言うんだな。恥ずかしい。




「赤いし、狭いな」


 俺は椅子から立ち上がり辺りを見回した。

 まず目に付くのが、光の色だ。赤く暗い光が四角い建物の全体を照らしている。

 壁の色も赤く塗られている……気がする。よく分からない。

 モニターなどは、最初の場所と同じように設置されていた。

 

 それにしても狭い。最初の場所の半分以下の大きさだ。

 天井に手が届かないかジャンプしてみる。


「ほっ!」

 

 届かなかった、流石に厳しいか。

 でも身長の高い人がジャンプしたら、天井にギリギリ手が届くんじゃないか。

 横幅も狭い。端から端へ向かって銃を撃っても威力が減衰する前に届きそうだ。

 ある意味有利なのかな? 射程を気にせず撃てるし。 


「うーん……」


 この場所に来てまだ数分しか経ってないのに、気分が悪くなってきた。

 なんというか重いよ、ここの空気。

 この暗く赤い光のせいなのか、それともこの狭さのせいなのか……

 生きることを拒むような空気がこの空間を包んでいる。


「らーらららーふん!」


 こういう時は歌って気分を変えよう。

 ロイドさん作の鼻歌だ。お気楽な感じがして気が紛れる。


「ふう」


 早く誰か来ないかな。

 殺し合う相手だとしても、この空間に一人でいるよりよっぽどいい。

 ……もし俺が死にそうになった作業服さんの写真を渡さないとな。

 

 密かな決意を心に宿していると、自分の後ろからガタンという音が聞こえた。

 音を聞いた瞬間、嬉しさと悲しさが胸を包み込んだ。 

 筋肉さんか魔法使いさん、どちらが来たんだろう。




「よう、待たせたな」


 このドスの効いた声、筋肉さんか!

 俺は勢いよく振り向く。

 と、そこには信じられない見た目の人がいた。


「ちょっ、え? 筋肉さんですか……!? 

 その怪我どうしたんです! ボロボロじゃないですか」

「あー? これぐらいどうってことねえよ」


 そんなわけがない。

 全身が黒く赤焼けて、皮膚が剥けてしまっている所もある。

 見ているだけで痛々しかった。

 俺が回復魔法を使えれば……


「こんな怪我よりも髪だよ、髪。

 酷いと思わねえか? 自慢の髪型が台無しだぜ」


「ええっ、そこですか。

 確かに台無しですけど、めちゃくちゃチリチリですけど……

 太陽をイメージした髪型ですよね? あれ」


「いや、ちげえよ。

 ライオンだ、ライオン。

 まっ、言われてみりゃ太陽にも見えるな」


 白い歯を出しながら筋肉さんは笑った。

 まるで自分は何ともないと言わんばかりに。

 普通じゃない……この人は一体どんな人生を送ってきたんだろう。

 聞きたいけど、聞かない。決意が鈍るから。


「ライオンですか、自分も言われてみれば納得です!

 筋肉さんの性格とか体付きとかライオンっぽいですもんね」


「おいおい、なんだその筋肉って名前は」


 この空気ならいけるか? と思って試しに言ってみた。

 そしたらこの睨みですよ。

 ひぃ、怖っ。


「いや、そのですね、心の中でみんなのニックネームを付けてたんですよ。

 作業服さん、魔法使いさん、筋肉さんって感じで。

 ほら! みんなアンドリューだから紛らわしいでしょ」


「あー俺も魔法使いって呼んでたわ、そういや。

 ニックネームを付けるのは構わねえけど、もっと恰好いいのにしろよ。

 アンドリュー様とかライオンキングとかさ」


「ははは、善処します」


 下を向いて考る。

 ライオンキングってカッコイイかな? うーん。

 いいや、このまま筋肉さんって呼ぼう。


「まっ粋な雑談はここいらで終わりにしようや。

 顔を上げろ、冒険者」


 言われるままに顔を上げると、筋肉さんは余裕の笑みを浮かべていた。

 そう、ただそれだけなのに俺の体が強ばってしまった。

 

「な、なんですか?」


 声を無理矢理に出す。

 恐怖で体が支配されたんじゃないかと思うほどに、体が動かせない。

 昔似たような感覚に陥ったことはあるけど比べ物にない。

 逸らしたい視線を逸らせずにいると、 


「お前、今の内に負けを認めねえか?」

「なっ!」

 

 そんなことをするわけがない。

 俺はもう決めたんだ、生きてここを出ると。

 震える左腕を右手で押さえ込みながら、声を出そうとしたが、


「今認めるなら優しく殺してやるよ。

 お前が殺した作業服と同じようにな」

「――――ッ!」


 引き金を引いた時の感覚が蘇る。

 いつもよりも重い引き金の先には、彼がいた。

 俺は首を大きく横に振る。


「認めません!

 帰るんです! 俺は!

 あなたを倒して、約束を果たします!」


 筋肉さんと戦うのはこわい。

 圧倒的な強さもそうだし、俺の心にまた作業服さんの時のような記憶が刻まれるのもこわい。


「それでも……俺は生きたい」

 

 俺の言葉に筋肉さんは溜息を吐いた後、こう言った。


「ッチ、そうかよ。

 死なずとも怒ってくれりゃあ良かったのによ。

 いらねーことをしちまったな」


「怒りませんよ、俺に怒る資格なんてありません」

「魔法使いの野郎にしろ何にしろ、元が俺様だもんな。

 そりゃ、タフだ……おい、クソジジイ! 戦いの時間だ」




「「…………」」


「返事、ありませんね」

「おう」


 二人して顔を見合わせていると、


「ごめん、ごめん! お待たせ。

 一応設備のチェックしてて。

 それじゃあ、ステージの中央にある大きな円に行ってくれる?」


 甲高い声が聞こえてくる。

 俺と筋肉さんは指示された通り、円に向かって歩き出す。


「恨みっこなしですよ」

「お前こそな。俺はぜってえ負けねえから」




 数分も経たないうちに、中央の円に到達した。


「どこに立てば?」

「白い線を踏みながら、真向かいに立ってくれればどこでもいいよ」


 俺は首を縦に振ったあと、筋肉さんの方へ顔を向けた。


「最後に握手してくれませんか?」


 俺は手を差し出す。


「……お前、本当にホモじゃねえだろうな」


 文句を言いながらも手を出してくれた。

 彼の手は傷だらけで、それでいてゴツゴツとしていた。

 自分とは大違いだ。同じ存在であっても、歩いてきた道は違う。

 改めて感じずにはいられなかった。


「ありがとうございます。では」

「おう、じゃーな」


 俺は筋肉さんの真向かいに立つために歩き出した。

 真向かいに立とうと相手との距離はあまり離れない。

 どうやって間合いを取って戦うかな……


 考えている内に、真向かいへ到達していた。

 俺が筋肉さんに向かって振り返ると同時に、


   ‘認証シマシタ’


 という声が聞こえた。とてもメカメカしい声だ。

 その声と共に、足元から淡い白と青の光の粒子が出てきた。

 筋肉さんの方も淡い白と緑の光の粒子に照らされていた。なんだか神々しい。


「な、なんだこれ」

「演出、演出! 特別な意味はないから。

 認証しましたって意味はあれね、生体反応が無くなるまで終わらないってこと。

 それだけだから、じゃあ最後だし自分がカウントするね」


 三、という声が聞こえる。

 呑気な声だ。これから祭りでも始めるんじゃないかという声。


「二」


 だけど、違う。

 これからするのは殺し合いだ。


「一」


 俺は生きる。あなたを殺してでも、俺は帰る。

 彼の殺気に怯まないよう、足に力を込める。

 こい。


「ゼロ!」


 その掛け声に合わせて足を前に踏み込む。

 彼もそうするだろうと思っていた。

 だが、違う。




「筋肉さん!?」


 彼は――――倒れていた 






 

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