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サヴァイブ 生き残りをかけた容赦なき殺し合い

 木に持たれ掛かっている屍を見る。

 機械国のだ。眉間から血を流し、死んでいる。

 地下の小さな部屋で戦いの様子を見ていたから、死んだのは知っている。

 仕方がない死だとも思っている。俺達が悪いわけではない。

 だけども、実際の死体を見た時、胸の奥に小さな隙間ができたように感じた。


「ふう」


 吐く息はない。

 選んだ武器を確認しておくか。

 短剣一本に発煙手榴弾が二個だ。

 出来ればミサイルなどの遠距離兵器が欲しかったが、使い方がわからない。

 

「ふッ」


 短剣を振るう。

 軽く、持ちやすい。

 空気を裂く音からして、切れ味もいいだろう。

 だけど、できれば使う場面がないといいんだけど。

 武術国の相手に近接戦は危険すぎる。

 壁の壊れ具合からして、人体に一撃でも喰らったら即死だろう。


「……」


 もう一度、屍を見る。

 力がないから彼は死んだ。戦うことを選ばなかったのも結局はそれが原因だ。

 人を殺せないという理由も結局はそこに起因する。

 俺も人を殺したことはない。だが、殺す。

 生き残れる力があるから。成し遂げたいことがあるから、帰りたい場所があるから。

 俺は極みに到達するためにも、レオナ姉さんに会うためにもこんな所で死ねない。


 ガシャンという音がした。

 武術国が来たのだろう。




「よう、待たせたな」


 まるで朝の挨拶でもするかのように、武術国は手を上げ軽く声を掛けてきた。

 ……手に持っているのは、サブマシンガンというやつか。


「遠距離兵器を使うんだな、意外だ」

「だろ?」


 笑いながらそう言った。

 緊張が全く見られない。戦い慣れているんだろう。

 

 俺は自分の足が震えるのを必死に堪える。

 殺し合いをすること自体にも恐怖はある。だけど、その程度で震えたりはしない。

 俺が震えている理由は、この男が発する得体の知れない何かに怯えているからだ。

 これが殺気というやつか……中央国のは運が良かったな。初戦でこの男と戦わずに済んだのだから。


「おい、もう始めちまっていいのか?」


 スクリーンに向かって叫ぶ。

 二回戦からはカウントがあるはずだけど……


「あーあー、ごめん。

 その前に息子の亡骸を最初に座っていた椅子に置いてくれる?

 こっちで手厚く処理するから」


 スクリーンから耳障りな声が聞こえてきた。

 異様な声だな、何度聞いても。


「どちらがやる?」


 黒いロープを頭まで被せた後、武術国に尋ねる。

 顔を見なければ怯えもマシになるかと思ったが、関係はなかった。


「お前のが近いんだから、お前が運べ」


 それが当然だと言わんばかりに腕を組みながら言った。

 ……武術国にやってもらいたいところだが、どうするか。

 俺の力では屍を持ち上げられる自信がないし、ここで力を消耗したくはない。


「…………」


 俺は黙って腕の筋肉を晒す。

 おそらく、四人の中で一番非力だろう。


「どういうつもりだ」

「…………」


「つまりはだ、僕は筋肉がないから死体一つ持てません><

 アンドリュー様、代わりにお願いしますぅってことでいいんだな?」


 その通りだ。

 俺は何も言わずに頷く。


「チッ、冷静な野郎だな。わーったよ、運んでやる」


 そう言い、マシンガンを置いたあと木に寄りかかる屍の方へ向かった。

 冷静、か。相手から見たらそう見えるらしい。ならよかった。




「お前も可哀想な野郎だよな、生まれが悪かったせいで、こんな目にあってよ」


 屍を椅子に乗せた武術国が、しみじみと物言わぬ屍に語りかけていた。


「これが宿命ってやつなのかね、お前はどうだと思う? 魔法使い」


 屍が置かれた椅子はガタンという音と共に、地下へ向かって動いていった。

 きっと、俺がさっきいたような部屋に繋がっているのだろう。


「同情はする。

 だけど、俺は生まれが悪いと思ったことはない。

 君の言う宿命がどんな物かは知らない。

 けれど、宿命があったからこそ、会うべき人と会えて、目的を持てた。

 それだけで充分だ」


「そうかい。話を聞くたびに思うわ、

 俺達が元は一緒の存在って事が嘘なんじゃないかってな」


 マシンガンが置かれた場所へ歩きながら、そう言った。

 俺自身今だに信じてはいない。だけど、そんなことはどうでもいい。

 俺は、俺だ。


「一つ教えてやる。

 俺にとっての宿命っつうのは、恰好よくて報われるもんなんだよ」

「なぜそう思った」

「絵本に書かれていたからだよ」


 こちらを見て不敵な笑みを浮かべた後、彼はマシンガンを右手に持った。 


「おい、死体は運んでやったぞ。

 早く始めさせろ」


「私に一番近い息子が死んでショック、衝撃! なんだから、待ってよ~」

「……お前を先に殺してやろうか」


「こわっ! 本当我が息子ながら、何という怖さ。

 エクセレレレレエエエエント!

 よし、始めようか。五つカウントされたら開始だから、頑張ってね」


 狂人は狂人らしく、狂ったことを言ってスクリーンから去っていった。


「お前が死んでも、あいつは叩きのめしてやるから安心しな」

「俺は、死ぬつもりなんてない」

「はっそうかい」


 会話が途切れたと同時に五という音が聞こえた。

 

「すーっ」


 俺は息を吸い、


「ふう」


 吐く。

 俺は、生きる。




 開始の合図が聞こえると否や、赤い煙を発する発煙手榴弾を俺と武術国の間に投じた。

 またかよ! という声が聞こえたけど、意味はわからない。

 今のうちに距離を離さないと。


疾風(かぜよ)疾風(かぜよ)


 加速魔法を唱える。遠距離戦をする為にも今は逃げないと。

 建物の中心点であり、開始地点であった大木から離れる。

 

「壁か」


 数分間全速力で移動し、壁際にまで逃げることができた。

 これで随分と距離を稼げた、と思いたい。

 

 あの時見せた超人的スピードを考ると油断はできない。

 が、安心していいだろう。

 煙幕の効果は思いのほか強い。今だに赤い煙が建物の大部分を包んでいる。

 いくら足が速くても場所がわからなければ攻撃のしようがない。

 今のうちに詠唱を済ませよう。煙幕が消えた時、俺の勝ちは決まる。


火炎(ほのおよ)火炎(ほのおよ)……」


 唱えている途中で、一つ疑問が湧いた。

 なぜ彼は銃を撃たなかったのだろうか、と。

 まさか扱えないってことはないだろう。


火炎(ほのおよ)火炎(ほのおよ)……」


 撃っても無駄だと思ったのか?

 それにしたって、一発も打たないなんてことあるのか。

 ……考えても仕方がない。今は想像に集中するんだ。


火炎(ほのおよ)


 炎を纏うドラゴンをイメージした瞬間――――

 煙幕の中から、尋常ではない速さで何かがこっちに来ている。

 不味い。


消滅(きえよ)! 疾風(かぜよ)


 来るべき攻撃に備え、体に風のクッションを纏った、はずだ。


「オラよッ!」

「ぐっ、なんと」


 地獄の底から響いたような声と共に、俺の左肩を強打された。

 風のクッションのおかげか、はたまた別の要因か、死なずには済んだ。

 が、想像以上の痛みだな、これは。

 

「ッ」


 大理石の床に、背中から倒れてしまったのか。

 背中も左肩も焼けるような痛みだ。脂汗がじわっと髪から落ちる。

 痛みで気絶してしまいそうだ。だが、気絶した瞬間俺は死ぬ。

 不味い、まずは距離を離さないと。


「……疾風(かぜよ)疾風(かぜよ)


 言葉を捻り出し、体全体に加速魔法をかける。

 痛いが、ここは我慢しなくては。

 唇を噛み締める。いくぞ。


 俺は倒れた状態のまま、床の上を素早く動く。

 本来なら地面から多少浮くはずの加速魔法も重さに耐え切れないようだ。

 背中を強く擦りつけながら、動く。気分は雑巾だ。

 辛く、痛い。


「おらおら、そこにいんのはわかってんだぞ!」


 マシンガンの音と共に、武術国の声が聞こえた。

 床を滑っているせいか弾は当たりそうにない。

 だが、マシンガンの発射音が一向に遠くならない。


治癒いたみよ治癒いたみよ治癒いたみよ

 

 回復魔法をかけながら思う。

 どうして彼はこちらの位置を正確に把握しているんだ。

 音が離れないということは、こちらに正確に近付きながら撃っているということだ。


「何かがあるのか」

 

 武器の中に発信機なんてものはなかったと思うが、

 一体どうやって。


「チッ、当たってねえみたいだな。

 って、ハハハハハハハ! なんだその移動の仕方はよ。

 ヒィィイィ、ここ最近で一番面白いぜ! ックハハハハ!」


 煙幕が晴れ、お互いの姿が見えた時、奴は腹を抱えて笑った。

 まあ、いいだろう。動きを止めてくれるなら幸いだ。

 今の内に少しでも離れよう。




「…………」


 床を滑りながら思う。

 予想通り、武術国は俺を捉えていた。煙幕の中でも。

 理由はどうであれ、残っている発煙手榴弾は役に立たないな。

 武器の選択ミスだが、仕方あるまい。

 左腕以外の傷は癒えてきた。反撃させてもらおう。

 疾風魔法を消し、立ち上がった瞬間、


「…………っ」


 弾が飛んできた、遥か頭上に。


「我ながらひでえ腕だな、こりゃグレイフィスを笑えねえわ」


 つい先程まで笑っていたはずの姿はなりを潜めていた。

 今ではこちらに殺気をぶつけながら、銃口を向けている。

 銃は凄いな、この距離からでも何食わぬ顔で届くか。


「見ていないと思ったが」

「馬鹿かよ、殺し合いだぞ? 目を離すわけねえだろうが」


 俺は足の震えを感じながら、なんとか立ち続ける。

 恐ろしい存在だ。だが、奴を殺さないと終わらない。


「そうか。一つ聞きたいことがある、どうして俺の場所がわかった」

 

 俺は小声で呟く。火炎(ほのおよ)と。


「教えるわけねーだろうがと普段なら言うとこだが、いいぜ、教えてやる。

 気配だよ。お前、戦いはまるっきりの素人だろ」


「その通りだ。だが、気配なんて曖昧なものであそこまでわかるのか」

「俺様ぐらい経験が豊富だと、それぐらい余裕だ。

 それに俺からすりゃ、魔法だって曖昧なもんさ」


 その通りかもしれない。

 魔法を使っている自分ですらわからないことだらけだ。

 曖昧な物だと言われても仕方がない。


「そういや、さっき武器を使うなんて意外だって言ってたよな」


 奴はマシンガンを上に掲げながら言った。


「ああ」

「俺も最初は使うつもりなんてなかった。

 そもそも、拳での戦闘こそ至上なもんだと思ってるしな。

 けれど、使った。わかるか? 理由が」


「俺が遠距離攻撃の使える魔法使いだからか?」

「外れちゃいないが、違うな。

 お前に対する敬意だよ、お前は間違いなく強い。

 あの時見せた魔法はまさしく強者のモンだ」


「超人に褒められるなんて、光栄だ」

 

 ……火炎ほのおよ

 四回の詠唱が完了した、残り一回だ。

 悪いが死んでもらう。

 

「生き残るためには手段を選ばねえ。   「ッ! 火炎ほのおよ、奴を焼き滅ぼせ」

 ――――コソコソと企んでるな、シネ」 


 奴はマシンガンを素早く下ろし、弾を撃ってきた。

 それに反応し、咄嗟に魔法を放出する。

 歪な火の塊になってしまったが、人を焼き殺すのには充分だ。


 形は歪だが、速度は速い。この距離でも回避はできない。

 火の塊は自分の胸に向かって正確に撃たれた弾を打ち消しながら、

 奴を飲み込んだ。


 勝ったよ、レオナ姉さん。

 あと一人だ、あと一人で帰れる――――

 

変更が多くご不便をおかけします。

何卒よろしくお願いします。

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