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過酷な宿命の中でも、確かにあった素晴らしき思いで

「おれはさ、さっき話したように機械国の出身で、今もそこで生活している。

 どんな場所に住んでるかってと、工場の集積地帯と住宅街の丁度間ぐらいで――――」


「ちょ、ちょっと待って下さい。いきなり何の話を?」


 “皆に話したいことがあるんだ”と作業服さんが言ったとき、

 俺は微かに希望を感じた。もしかして脱出の手段があるんじゃないか、と。

 だけど、今話していることはそんなことじゃなくて、自己紹介の続きだ。

 

 どうして今そんな話をするんですか? と聞こうとしたところで、


「悪い、最後まで話を聞いててくれ」


 作業服さんに止められてしまった。

 俺は口を開くのを止めて、静かに頷いた。

 何か考えがあるのだろう。


「続けるぞ。

 場所はそんなところで、えーっとゴルドベルグ修理店って所で三年間お世話になってる。

 今の所は重要だから覚えておいてくれよ」


 俺は何も言わずに頷いた。

 他の二人といえば、筋肉さんは髪を弄りながら、

 魔法使いさんは腕を組みながら話を聞いていた。……聞いてますよね?


「ありがとう。

 そこで住んでいる人は、ジジイ、いや、ジイさんとバアさん、それにアンドロイドのアンゼだ。

 この三人との思い出はおれの人生の全てって言っても嘘じゃないだろうな。

 特にジイさんには色々と世話になったんだ。

 おれが店の前で倒れている時、手を差し伸べてくれた。

 記憶がなくて、帰る場所がわからないおれに、一緒に生活してくれないか? って言ってくれた」


 こんな重々しくは言ってないけどな、と、どこか泣きそうな顔をしながら、笑って言った。

 きっと俺にとってのアレスさんなんだろう、そのお爺さんは。


「おれが暇そうにしていた時は、アニメを見させたり、機械の仕組みについて教えてくれた。

 普段人のことなんて見てなさそうな性格してんだよ、そのジイさん。

 だけど、案外見ててくれたんだよな……

 記憶が思い出せなくて憂鬱になってた時には、スパナ渡されて一緒にラジオの修理とかさせられてさ。

 それが高じて、今じゃジイさんの手伝いをしている修理屋ってわけさ」


「いい、お爺さんなんですね」


 俺はいつの間にか胸の前で右手をグッと握りしめていた。

 他人事とは思えない話だった。


「まあな。だけど喧嘩はよくするんだよ。

 おれとそのジイさんで」

「ええっ、どうしてですか? 仲が良さそうに聞こえたんですけど」


「喧嘩の内容は正直恥ずかしくて言いにくいんだけど、

 まあ、料理に入っている肉の量が少ないとか多いとか、些細な理由でしょっちゅうな」


 言ってて本当に恥ずかしいわ、と言いながら頬を掻いていたいた。

 俺は笑いながら、


「そんな理由で喧嘩しちゃうんですか? でも、よく言いますもんね。

 喧嘩するほど仲が良い! って」


「ははは、そういうことなのかもしれない。

 まあ、喧嘩が起こったらバアさんが仲裁してくれてすぐに仲直りするんだけどな。

 互いに鳥頭というかなんというか」


「そのお婆さんはどういう人なんだ?」


 作業服さんが自分の髪を撫でながら、困ったような顔をしていると、

 今まで無言だった魔法使いさんが口を開いた。


「バアさんかぁ、一言で言うなら優しい人だな。

 喧嘩が起これば上手く収めてくれるし、辛い時には黙って話を聞いてくれるしな。

 何かとお世話を焼きたがるのが玉に瑕ってやつだな」


「……そうか。話を中断させてすまない」

「気にするなよ。話したかった内容の一つだしさ。

 で、もう一人の家族がアンゼだ。最近一緒に住むようになったんだけどな。

 こいつが中々困った奴でな。ゴミ一つ消すのにミサイルを使うんだぜ、信じられるか?」


「ミ、ミサイル!? 日常生活で出てくる言葉じゃないと思うんだけど」


 そもそも、どうやってミサイルを持ってきたんだろう。 

 まさか体の中から出したりするんだろうか。

 もしそうだとしたら、俺達の体の中にもミサイルがあるんじゃ、まさかね。


「その反応が普通だよな。いや、本当おれもビックリしちゃってさ。

 まあ、でも、三日が経った頃にはマシになったんだけどな。あくまで、マシ、だけどな」

「ふふふ、マシですか。常識を知らないと、大変そうですね」


「まあな。ってこれだけだと、ただの困った奴になっちゃうな。

 困ったところはあるけど、結構、なんだ可愛いところが多いんだよ」


 ん? 今可愛いって言葉に筋肉さんが反応したような。

 というかアンゼさんって女の子だったんだな。


「いいですね。どういう所が可愛いんですか?」

「そうだな……アイスを食べる仕草とか、おれの後ろをちょこちょことついてくるところかな。

 ……あと見た目も。くそ、言ってて恥ずかしいな、これ」


「おいおい、アンゼちゃんって女なのかよ。

 どんな見た目なんだ? 教えてみろ」


 作業服さんが恥ずかしがっていると、

 筋肉さんが目を輝かせながら話に食いついてきた。

 そういえば女が好きって言ってたもんなぁ。

 というかちゃんと話を聞いてたんですね。意外と真面目なのかもしれない。


「可愛いと綺麗を混ぜた感じで、肌は凄く白いって、ああああ!

 ダメだ、すまん! これ以上は恥ずかしくて言えない」


「恥ずかしくて言えないってどういうことだよ。興奮してきたぞ、おい。

 今の情報だけを聞いてもかなりの上玉みたいだな。もっと詳しく聞かせろ」


「か、勘弁してくれ!」

「あん? お前から話してきたんだろ。最後まで聞かせろや」


「ま、まあまあ! 無理強いするのは良くないですし、ね? 

 外に出たらみんなで会いに行きましょうよ!」


 今俺の言葉で作業服さんの表情が強ばった気がするけど、気のせいだろうか。


「……チッ、仕方ねえな」

 

 はぁ、怖かった。間に入るにしても、酔っ払いの喧嘩とは訳が違うな。

 


「「「「…………」」」」



 げっ、無理矢理会話を断ち切ったせいでまた会話がなくなっちゃった。

 ここは適当な話を出そう。


「それにしても、アンドロイドのアンゼさんがそんなに可愛いなら、

 俺ももっとカッコよくして欲しかったです。あ、あと身長も」


「あははは、確かにな。それはおれも思ったよ」 「……格好良さはともかく、俺も身長が欲しかったな」

「俺はどうでもいいな。今の俺でもかなり恰好いいしよ」

 

 筋肉さんはモテるだろうな。あの筋肉凄いもん。

 個人的に言うなら、魔法使いさんもカッコイイな。雰囲気がクールな感じだし。 

 でも、魔法使いさんも身長とか気にするんだな。ちょっと意外。

 

「凄いですもんね、体。少し触ってもいいですか?」

「あー? 気色悪いこというんじゃねえよ。お前ホモか?」

「ちょっ、違いますよ! ただここまで凄い筋肉は見たことがなくて」


 意外だった。反応がなかったことに。

 みんな意外と自分がアンドロイドってことを受け入れてるのかな。

 大人だな、俺はまだ受け入れ切れてないよ。

 もっとロボットっぽかったらすんなりと受け入れられるのに。

 怪我をしたら、機械のコードが出てくるとかさ。血も赤いのが普通に出てきたし、納得しきれない。


「ホモだったら容赦しねえぞ? おら、触れよ」


 そう言い、筋肉さんは筋肉が完全に露出するようにシャツの袖を捲った。

 す、凄いな。仮に一緒の存在だとしたら、俺もこうなれるのか……


「いいんですか?」

「普通なら顔面に拳を食らわせてる所だが、兄弟みたいなもんだしな」


 兄弟、か。


「じゃあ少しだけ……」

 

 ! こ、これが筋肉の感触だって……?

 信じられない。


「……」


 自分の右腕の筋肉を触ってみる。

 柔らかい。別物だよ、こんなの。

 どうしてこんなに差が、冒険者だし一応鍛えてるんだけどなぁ。


「二人も触ってみませんか?」


 つい人の筋肉を勧めてしまう。

 それぐらい、驚きの感触だった。


「え、えぇ? まあ、じゃあ少しだけな」

「…………」


 作業服さんは引いたような表情を浮かべながら、筋肉さんの筋肉を触った。

 魔法使いさんは表情を変えずに首を横に振り、時計を取り出した。


「確かに凄いな、人の筋肉ってここまで増幅するもんなんだな」

「お前らも鍛えりゃなれんだろ、多分」


 想像上でも似合わないな。

 エミリーに男らしくなったって言われたけど、流石にこのレベルだと厳しい。

 俺が筋肉ムキムキになったところを想像していると、



「時間はあと一五分しかない。機械国の、もういいのか?」



 時計を見ていた魔法使いさんが、静かに作業服さんへ向かって話しかけた。


「いや、まだだ。肝心なことを話していない」

「肝心なこと?」

「ああ」


 作業服さんはそこで一度口をつぐんだ。

 ひと呼吸したあと、彼はみんなに向かって頭を下げた。



後編に続きます。


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