アンドリューは、アンドリューとアンドリュー、そしてアンドリューに出会う
最終章となります。
どうぞ最後までお楽しみください。
“アンドリュー、必ず無事に帰ってこい”
“アンドリュー、一万回殴られた後に、針千本飲まされたくなかったら、ちゃんと帰ってきてね”
“ああ、ちゃんと帰ってくるよ。もう俺の故郷みたいなもんだし”
これは、夢か。
俺がエミリー達と別れた時の場面だ。
別れたあと依頼を受けて、魔法の国に行こうとして――――
あれ、その後俺はどうしたんだ……
「いたっ」
夢を夢だと認識した瞬間、ぼんやりと浮かんでいた過去の映像は消え去った。
もう少し夢を見てたかったなぁと思った直後、激しい頭の痛みと体全体が軋むような痛みを感じた。
なんだこの痛み。銃弾をくらった時より痛い!
「おえぇ」
俺は痛みに耐え切れず、椅子に座った状態のまま吐いてしまった。
幸い周りが暗くて、嘔吐物を直接見ずに済んだけど、やっちゃったな。
痛みが治まったら掃除しないと。
それにしても、ここはどこだろう?
俯きながら辺りを見回す。けど、暗くて何も見えない。
時間が経てば見えるようになるかな。
にしても、臭い。酸っぱい匂いが鼻を刺す。自分が吐いたせいだろうな……
周りに人がいないといいんだけど。
口呼吸をしながら、腕を持ち上げようとする――動かない。
なんだこれ。ガッチリとしたもので腕の部分が固定されてる……?
足も同様に動かない。両足首が何かで固定されてるいのか、これは。
拘束されていると意識した瞬間、冷たい感覚が汗を通して感じた。
「ふー、ふーッ」
頭や体の痛みを無視して、先程よりも強く体を動かす。
動かない。ピクリともしない。
縄よりもっと頑丈な物で縛られているのか。どうすればいい。
「ん……」
顔を上げて、辺りを見回す。
ダメだ、まだ何も見えない。ただ感覚的に分かったことがある。
俺がいる場所はかなり広い。倉庫とか狭苦しい場所じゃない。相当に広い。外と間違えそうなくらいに。
どうしてそんな場所に拘束されてるんだ。誰にやられたんだろう。わからない。
こういう時は、一つ一つ振り返るしかないな。
エミリー達と別れたあと、俺は依頼所に行った。
そこで運良く、魔法国までの護衛任務があって、引き受けた。ここまでは間違いない。
依頼を引き受けた俺は、護衛者との待ち合わせ場所である隣町まで行こうとした。
問題はこの後だ。装備を整えていたせいで、隣町に着くのが夜になっちゃたんだよな。
夜、着きそうになって――――思い出せない。この先がわからない。
街の入口が見えた所から先が、すっぽり抜けている。
「どうなったんだろう」
んー入口が見えた所で、倒れたか、はたまた襲われたか。
襲うにしても、誰が俺を……?
無差別で襲う集団なら、俺なんか襲わないだろう。
マニーを沢山持ってるような見た目じゃないし。……言ってて悲しくなってきた。
無差別じゃないとしたら、俺を狙って襲ったのだろう。
……心当たりは二つある、かな。
一つ目は、復讐だ。エミリーを襲った生き残りが、復讐で俺を襲う。
わからないでもない。でも、なんで殺さずにこんな変な場所で拘束したのか、ってなる。
二つ目は、ロイドさんが言っていた大きな組織の犯行だ。
俺の過去を知っているかもしれない組織が、俺を――――?
そう考えた瞬間、俺の冷たい汗が落ちる。
同時に、上から降り注ぐような強い光が俺を照らした。
「くっ……」
突然の光のせいで、暗闇に慣れようとしていた目がとても痛い。
いつだか、盗賊に顔面へパンチを食らった時みたいだ。
俺が光に呻いていると、周りからいくつもの声が聞こえてきた。
「……くっ」「ジジイ、寝起きにライト当てんのはやめろ……」
「ああああ、なんだこのやかましい光はよ!」
他にも人がいたのか。俺は顔を俯かせがら、ほっとした。
この異様な空間で一人なのは正直辛い。
それにしても、どうしてこんな場所に俺達はいるんだ?
目が光に慣れてきたので、顔を上げる。
まず目に付いたのは、大きな黒い板。あれはなんだろう、黒板百個分の大きさはありそうだ。
それにしても広い。俺は首を左右に動かして周りを確認する。
何もないが、とてつもなく広い。自分が見た建物でこんなに広いのは見たことがない。
床も妙に高そうな石で作られてるし、おまけに天井の周囲にあるライトの数。とてもじゃないが、数え切れない。
あの光のせいで、俺の目が! ……いくらするんだろう、あれ。
ライトの周りの黒い物体達もお高そうだし、一体ここは。
のんきに周囲を見回していると、黒い板が光を発した。
「うわっ」
つい声を出してしまった。
なんだ、あれ。
逸した視線を黒い板に戻すと、そこには銀色の髪をしたかなり高齢なお爺さんが出てきていた。
うわあ、凄いな。噂で聞いた、機械国の“テレビ”というやつだろうか。初めて見た。
俺が驚きながらテレビを見ていると、
「レディィィィィース! アンド ジェントルマァアアアアアアン!」
若々しいを通り越して、声変わりをしてない子供のような声が聞こえてきた。
えっ、まさかあの映像に出てるお爺さんの声じゃないよな。
お爺さんが出せるような声じゃないし。
「おっと、レディースはこちらにしかおりませんな」
またしても子供のような声が、テレビから聞こえてきた。
やっぱりあのお爺さんの声なのか? 信じられない。
そういう病気なんだろうか。それしても高そうな椅子に座ってるな。
「やあやあ、我が息子達よ。会うのは三年ぶりだねえ。立派になったじゃないか。
おや、一人足りないな。またまた、海洋国は不参加ですかな? ウールシア・メイクリット女王?」
子供の声に似つかわしくない、ねっとりとした声で誰かに語りかけていた。
息子? 女王? 何を言ってるんだ。眉を潜めながら、テレビのお爺さんを見た。
ボケているんだろうか。
「……ええ、そのようですね。残念ですが」
「ほうほう、残念? いやいや、そうでしょうな。私も残念だ。実に残念だ。
ここで会えないということは、もう息子に会えないということだからね」
息を飲みこむような美人ってどんな人だろうと今まで思ってた。
でも、わかった。今一瞬画面に映った人を言うんだ。
太陽で輝く水をすくってきたような、青色の綺麗な長髪。そして、何より一瞬見ただけで美人だとわかる雰囲気。
普通の人が出せるような雰囲気じゃない。
普通の人が出せるような雰囲気じゃない?
「いない息子を想っても仕方ない。君達との再会を喜ぶとしよう。
で、で、今の状況わかってるよね? わかっててほしいなぁ。僕の息子なら」
さっき出てきた女の人について考えているとお爺さんがまたボケたことを喋っていた。
息子って、年齢が離れすぎてるよ、まさかね。でも喋ってる人と映像の人が別人だとしたら?
だけどそれはそれで若すぎる、ないな。俺は頭を振った。
「……」
非現実的な状況のせいで、楽観的に呆けたことばかり考えていたけど、
この状況は決してよくない。
自分の体を見る。鉄のような物体でガッチリと拘束された両腕と両足首。剣で切れるのか、これ。
座っている椅子も木ではなさそうだ。感触からして、拘束具と一緒の材質だろう。きっと鉄だ。
逆に背中に当たる感触は、木か? 俺は首を曲げ、後ろを見る。
天井と地面を支えるように大きな木が一本そびえ立っていた。なんだこの大きさ。天然物でこんなサイズあるのか?
というか周囲の見た目にそぐわない。周りがハイテクだらけで高そうなのに、木って。
でもこのサイズとなると、高いのかな。
「そもそも、ここはどこの国なんだ……?」
テレビもあるし、機械の国かと思ったんだけどな。
この木を見た途端わからなくなった。魔法国の可能性もある。
いや、この土地の広さに加えて、俺が気を失った場所から考えると、中央国か?
俺が場所に対して検討を付けていると、テレビからまた子供の甲高い声が響いた。
「うーん、うーん、一人だけかな。今の状況をある程度理解できているのは、残念だ」
「王様! さっきから何言ってんっすか! なんでこんなことをするんです」
俺の右後ろから、声が聞こえてきた。声の感じからして同年代だろうか。
顔を右に動かすと、筋肉の化物がいた。
ま、間違いない……! 武術国の人だ! 俺は急いで顔を元の位置に戻す。目が合ったら殺されかねない。
あの体つき、見ただけでトラウマが……銃弾が効かないないなんておかしい。
それに、髪も随分と凄い。トゲトゲしていた、太陽をイメージしてるのだろうか、どうやったらあんな髪型に。
怖くなってきたので、右の人については考えるのをやめた。
右後ろの人を見ることは大木のせいで難しそうだし、諦めよう。また右に向くのは怖いしな……
それにしても、
「王様、か」
俺を襲った人達はもしかして……
考えたくはないが、この建物の規模からして、王様くらいの人じゃないと所持できない気がする。
つまり、俺達を拘束してるのは、王様又は相当な金持ちということか。
そんな人間が、俺を襲う理由なんてあるのか……? 検討もつかない。
‘大きな組織’ ‘三年ぶり’
‘王様’ ‘女王’ ‘息子’
わからない。でも、どれも繋がってるような気がする。
俺の過去にも……
王様ってどこの王様だ?
中央国の王様は、あんな見た目じゃなかったはずだ。何より人格者で有名な人が、こんなことをするわけがない。
女王様は一つの国にしか存在しない。海洋国だろう。
海洋国の王様は、目を見張る美人って聞いたことがある。実際そうだった。
つまり本物の可能性が高いのか、信じられないな。なんの理由があってこんなことをするんだ。
襲う理由なんてとてもじゃないが思いつかない。
「君は他の息子より先に俺と会ったのだから、推測ぐらいできるんじゃないのかな? して欲しいな~
ロボットを作るのにも推理力は案外に必要だよ」
「推測ってどうやって推測すりゃいいんすか!
技術者育成プログラムに受かったから城まで行って、イスタング王、あなたと話してたらと思ったら、
ロボットが後ろからおれを襲ってきたんですよ! わかるわけないでしょ!
おまけに身動きまで取れなくなってる。わけが、わからねえよ……」
震えた声が俺の耳に届いてきた。
右後ろの彼も襲われたらしい。あろうことか王様がいる前で。
城にまで行って顔を見たというのなら、今テレビに映し出されているお爺さんは王様である可能性が高い。
そして、機械の国の王様だ。ロボットを持ってる国なんてあそこしかない。
もしかしたら、俺を混乱させようと右後ろの人が、ひと芝居打ってる可能性もある。
だが、限りなく低いだろう。そんなことをして一体何になるっていうんだ。
確かに混乱はするが、それだけだ。
「黙って聞いてりゃ、何言ってんだオマエラ。
右側のやつも、このおっさんも何を言ってるのかさっぱりわからねえ。
とりあえずこの拘束具を早く外せ」
次々と入ってくる言葉を処理していると、右側からも声が聞こえてきた。
めちゃくちゃ低い声だ。筋肉か? 筋肉が声を低くしているのか?
声を聞いただけで汗がまた出てきた。怖い。
「いやいや、息子の頼みとはいえ外せ……うわっもしかして自力で外せちゃう?」
隣からミシミシという音が聞こえてきた。
マジですか、この頑丈な拘束具を外せちゃったりするのだろうか。
俺は仮に剣を使えたとしても、この鉄っぽい拘束を外せる気がしない。
「当たり目えだろ、俺様を何者だと思ってんだ? アンドリュー様だぞ」
次第にミシミシという音が強くなっていく。
これは本当に外せるんじゃ……それにしてもアンドリュー?
同名かぁ。初めてだな、名前が一緒の人。苗字はかぶったことあるけど。
「あああああ、タンマタンマ! 外す、外すからまず私の話を聞いて欲しい」
「……早くしろ。くだらねえ話をしてみろ、殺すぞ」
筋肉さんはそう言ったあとぼそっと、どちらにしろ殺すがな、と呟いていた。
怖い、そのドスの効いた声だけで俺が死にそうだよ。
でも、こんな凄い人をどうやって襲ったんだ?
戦って勝てる相手じゃないし、毒団子でも食べさせたのだろうか。
……毒を食べても効かなさそうだけど。イメージ的に。
「ごほんっ!」
お爺さんの咳払いと共に、ライトが全て消え、光を発しているものはテレビのみになった。
ひと呼吸の間をおいて、お爺さんは、いや機械国の王様は喋りだした。
深刻そうな表情をしながら。
「息子達に集まってもらった理由は一つだ。宿敵アメイジング・ボスを倒す旅に出て欲しい。そして人々に愛と勇気を取り戻してくれ」
「あれ、あれ? あーそっか。アメイジング・ボス知ってんの、うちの国の子だけだもんね。失敬、失敬」
「おっさんよぉ、殺されてえみたいだな」
簡単に殺すとか言うのはよくないけど、気持ちはわかりますよ。筋肉さん。
このお爺さんが何をしたいのか、さっぱりわからない。
「ひょおぉぉぉ、怖いなぁ。実に怖い。私の理想とは違うが、面白い成長をしたねえ。心も体も。
はいはい、話しますよっと」
口元を釣り上げながら、機械国の王様は喋り始めた。
とんでもないことを。
「率直に言おう、殺し合え。俺が生み出した息子達よ、殺し合え。
生き残れるのは一人だけだ。帰りたいなら、殺しあえ。感情と肉体の限界を超えてな。
はっはっはっ、ドワール・オーダー殿そんな顔をしないでくださいよ。言い間違えました。言い間違えましたよ、ええ。
生き残れるのは“一体”のみ。これでいいでしょう?
さあ、さあ、頑張っくれたまえ。
創造神である僕が作ったアンドロイドの最高傑作、アンドリューシリーズ達よ――」




