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俺様だ

僕は エタらない!(キリッ)

「俺様の名前はなんだァーーー?」


「「「アンドリュー!」」」


 周囲の喧騒に、負けない声が返ってきた。

 だが、その返事は頂けねえな。


「様を付けろボケぇ」


「「「アンドリュー様!」」」

 

 ミラーボールが、色を変える。赤、緑、青、黄色、そして、金色。

 色を変え、光を放ちながら下品に回り続ける。

 俺は固い机の上に立って、赤色の光を浴びながら、叫ぶ。


「そうだ! 俺の名前はアンドリュー・M・A・ロイド様だ!」


 ハハハハハ、と俺は笑う。そう、俺はアンドリュー・M・A・ロイドだ。

 誰も俺を止められない。倒すことなんてできねぇ。


「飲み足りねえな。じゃんじゃん、酒を持って来い!」


「はーい♪」


 一緒に座っていた三人の内の一人が返事をし、肉付きの良い尻を振りながら、カウンターの方へ向かっていた。

 チッ、あの黄色いバニーちゃんが行っちまうのか。一番好みなんだけな。

 

「ふう」


 腰を落ち着け、俺はコップに注がれた酒を飲み干して、気分を紛らわす。

 あー気持ちわりぃ。

 酒を飲んだのを見計らってか、馴染みのデカパイ女が話しかけてきた。

 こいつの顔は好みじゃねえが、相手を気持ちよくさせる術ってのを心得てる。


「ねえねえ、アンドリューって、どうしてそんなにお金を持ってるの?」

「あ? そんなことねーよ、普通だ、普通」 

「普通の人はー、来るたんびに、こんなにお酒頼めません~」


 机の上に置かれた、大量の酒。

 味なんてわからねえ俺には、どれが高くてどれが安いかなんてわからない。

 せいぜいボトルや樽とかの外側の見た目で判断するぐらいだ。


「どうでもいいだろ。お前らにとっては上客なんだから」

「そうだけど、この前聞いちゃったんだよね」


 そう言い、デカイ胸を俺の右腕に押し付けてきた。

 腕に反発して、乳がぐにゅりと潰れる。相変わずこいつのは極上だ。

 それに比べて、左側に座っている赤い服を来た女は何もしてこない。

 わかってねえな。


「お前も来い」


 赤い服を来た女を抱き寄せる。


「きゃっ、は、はい。すみません」


 初心な反応だ。これはこれでありだな。そういう売り方なんだろうか。

 全体的に貧相な体つきをしてるのが、余計にエロい。


「この子、今日が初めてなの。勘弁してあげて」


 俺の頬を慣れた手つきで撫でてくる。

 こいつは手つきからしてイヤらしい。たまらんな。


「色んなところに傷があるから、そういうことやってるんだろうな~と思ったけど」


 いちいち聞かれたくないが、仕方ない。ここの店は気に入ってる。この女も。

 俺はため息を吐きながら、話を進める。


「で、何を聞いたってんだ?」

「“あの”王子様と、一位、二位を競ってるんでしょ。そりゃ、お金だってあるわよね」

「あの人のお知り合いなんですか!?」


 赤い女も声を高くして、反応してくる。

 この国にいる人間なら当然の反応か。肩書きから何まで有名な人間だ。

 本当、アイツといるとロクな目に合わない。


「競ってるわけじゃねえし、知り合いって間柄でもねえよ」

「ライバルってこと?」

「ちげーよ」


 デカパイがアホなことを言いながら酒を注いでくる。

 俺は、コップに注がれていた酒をまた飲み干す。

 自分の気分はダダ下がりだ。


「でも、一位、二位って噂されるぐらいだから、将来の王様候補ってことじゃない」

「俺はそんなのに興味ねえんだよ。アイツがなりゃいい。それが一番だろ」


 そもそも大会に出るつもりもねーしな。そう付け加え、ワックスでベタついた髪を掻き毟る。

 

「えー勿体ない。もっと媚を売っておこうと思ったのに」


 柔らかく、熱い感触がなくなった。

 

「これ以上媚を売ってくるようなら、蹴り飛ばしてるさ。このメス豚がって言いながらよ」


 寂しくなった感触を補うために、俺は左腕で、赤い女をがっちりとホールドする。


「ひぅ」

「ヘルヴィちゃん大丈夫よ。この人酷いことはしないから」

「おう、安心しな。大事なモノを奪ったりしないからよ」


 俺はヘルなんとかちゃんの頬に舐めるようなキスをするな。


「あぅ、その……」

「ははは、いい反応だな。こういう店には珍しいな」


 赤みがかった茶色の髪を撫でる。

 年齢は見た限り一五ぐらいだ。親の借金とかで売られたのか。

 お気の毒だが、そういう世だしな。


「持ってきましたー♪」

「おおっ、きたか」


 俺の好みの黄色いバニーちゃんが、媚びた可愛らしい声を出しながら、酒をいくつか持ってきた。

 どれも高そうな酒ばかりだ。それにしても好みの顔に、声に、尻だ。


「ほらっ、酒なんてどうでもいいから、俺の股に座りな」

「お客さんエッチですね~。わかりました、失礼しまーす」


 俺は赤い子を離して、両腕を広げる。

 ガードが緩くて結構。さあ、早く来い……!


 俺は腰を動かしながら、バニーちゃんのぷりっとした尻を待っていると、

 後ろから強い力で肩を掴まれた。


「お前はどこで金を使ってるのかと思ったら、こんな所で使ってるのか」

 

 黄色いバニーちゃんは突然の来訪者に戸惑ってか、俺の股ぐらに座らず立ち尽くしていた。

 

「クソッ、せっかくいい所だったのに……お前もお楽しみか?」


 俺は後ろを振り向かず、そのままの体勢で喋る。


「そんなわけないだろう。お前がここにいると聞いて来た。

 せっかく力があるのに、こんな所で浪費して……」

「お前はストーカーか、何かかよ」


 俺は後ろを向いて、クソッタレの顔を見る。

 相変わらずこの国の人間とは思えない、整った容姿だ。

 下手な女より白い肌に、サラサラとした金色の髪、そして透き通る蒼い瞳。

 服装も高そうな白のカットシャツを格好よく着こなしていた。

 お前は絵本の王子様かよ。って実際に王子様か。

 余計にムカつく。服装ぐらい俺のレベルに合わせろや。


「えっ、この人ってもしかして……」

「…………」


 デカパイは驚いたような声を出した。赤い女もあ然としている。

 そりゃ、驚くよな。こんな所に顔を出すような人間じゃない。


「そうだ、さっき話してた王子様こと、グレイフィス・ライアン様だ。全員ご存知だろうがよ」

 

 かったるい声を出しながら、紹介してやった。

 俺は優しいやつだな。いい所を邪魔されても、怒らないんだから。


「うわー、実物ってこんなに恰好いいんだ……握手してもらっていいですか?」

「ええ、まあ、はい」


 デカパイは、俺のことなんて忘れたかのように握手をせがむ。

 グレイフィスも手馴れたように、握手に応えていた。

 こいつら……


「凄く立派な体ですけど、何センチあるんですか?」

「百九十ほどですかね、最近は測定していませんが」

「うわー、おっきい! アンドリューと大違い」

「うっせえ」


 俺は見慣れた光景から視線を逸らし、バニーちゃんのへそを撫で回す。

 

「きゃん、お客さん、エレナさんが取られたからって拗ねないで下さいよ~」

「俺は君と遊びたいだけだよ、バニーちゃーん」


 俺はバニーちゃんを抱きしめようとしたところで、シャツの(えり)を掴まれる。


「おい、そんなことはやめろ。店を出るぞ」

「ハァ!? お前に指図されるつもりは――――」


 だが、グレイフィスは俺のことを無視し、ズルズルと引きずっていく。

 振りほどくか? いや、それこそ奴の思うツボだ。

 何よりこの店内で戦いになったら、出禁(できん)になる。それは避けたい。

 俺は諦めて引きずられることにした。


「アンドリューお会計!」


 グレイフィスが扉を開けようとした時、デカパイが叫ぶ。そうすると、


「お金は置いておきました。足りなければ城まで請求してください」


 お騒がせしました、言いいグレイフィスは扉を開け、店を出た。

 その直後キャーという女の黄色い声がいくつも聞こえてきた。

 他のテーブルにいた女共も気づいていたらしい。

 お前ら、客を無視するなんていい度胸してるな……俺は心の中で呟いた。




「おい、もういいだろ」


 店を出て数分経った頃、今だに襟を掴んでいる、グレイフィスの手を叩く。

 どこまで引きずっていく気だ、こいつ。


「それもそうだな、すまない」

「うげっ!」


 いきなり掴んでた襟を離したせいで、頭を地面にぶつけてしまった。

 襟を離しますよ、気をつけて下さい。ぐらい言えやボケ。

 あードンドン気持ち悪くなってきた。

 俺はヨロヨロと砂利を踏みつけながら立ち上がる。


「で、なんだ用は?」


 答えは一つだろうが、念の為に聞く。


「アンドリュー、真剣な勝負をしてくれ」


 いつもと変わらない、真っ直ぐな目をぶつけてくる。

 反吐が出そうだ。もう勘弁してほしい。

 こいつと関わってしまったのが、人生において一番のミスだったな。


「嫌に決まってんだろう。

 俺は戦うのが好きだけど、お前とは五回も戦ってんだ。もう飽きたんだよ」


「頼む」


 自分の腹の位置まで深々と頭を下げてくる。

 長い金色の髪が、地面に着きそうだ。

 

「嫌だ。それに俺は王様を決めるあの大会には出ねえから、俺に勝てなくても問題ねえよ」


 これでこの台詞を言うのは三度目だ。

 こいつは俺の言うことを信じていないんだろうか。王になる気なんて更々ない。

 そう考えていると、グレイフィスは顔を上げ、


「そういう問題じゃない。

 お前に勝たないと王になれたとしても意味がないんだ」


 否定した。


「意味がわからん。それとだな、お前は俺に対して相性が悪いだけで、強さはお前の方が上だ」


「そんなことはない! 間違いなく――――

「あーすまん。もう我慢できん」


 俺は月に照らされた砂利の道を外れ、暗い森の方へ歩く。

 我慢はよくねえな。急がないと出ちまう。


「逃げる気か!」

「違う。戻ってくるから、ちょっと待ってろ」




「スッキリしたぜ。待たせたな」


 夜の冷たく新鮮な空気が俺の体に染み渡る

 我慢してたものが吐き出されたおかげで、かなり気分が良い。


「お前……吐いたな?」


 グレイフィスは高い鼻を手で隠し、眉を潜めながらそう言った。


「わかるか?」


 俺は声に出して笑う。


「この独特の匂い、わかるに決まってる。そう言えばお前、酒は苦手だったろう」

「まあな」

「なら、何故あんなに飲んでた? 飲む必要があるもんじゃないだろう」


「気分さ、気分。酒があると、何となく楽しいからな」


 俺がそう言うと、グレイフィスはため息を吐きながら、


「今だにお前の考えがわからないな」

「ぼっちゃまにはわからなくて結構。で、気づいてるか?」

「ああ、当然だ。出てこい、森に潜んでる者たちよ!」


 グレイフィスが甲高い声で叫ぶ。

 そうすると、ゾロゾロ森の中から人が出てきた。


「流石、若手のトップ争いをしている奴らだけあるな」


 黒い服を着た集団の中から、一人が前に出てきて、俺達に向かって偉そうに言ってきた。


「何が目的だ!」


 そんなの聞くまでもないだろ、と思いながら、俺は相手の数を数える。

 一、二、の……ちょうど十か。


「お前ら二人の命を奪い、王への道に近づく為だ!」


 最近こういう輩が増えて面倒だ。

 一対一で挑んでくる奴はそこそこ骨があるけど、集団で挑んでくるのはたいてい弱い。

 今回もそうだろう。雰囲気が弱者のそれだ。

 そう考えていると、俺は一つ疑問が浮かんだ。


「目的はわかった。だけど、何で俺とグレイフィスが別々にいる時に攻撃しなかった」

「一対十は卑怯だろう」


 アホらしい返事だ。二対十は卑怯じゃねえのかよ。

 俺は呆れながら、グレイフィスを見る。


「俺が六で、お前は四、この取り分けでどうだ?」

「何を言っている。平等に五人ずつに決まってるだろう。……ふぅ、これでお前と対戦する機会はまた次だな」

「仕方ねえな。ってかお前とはどのタイミングでも対戦する気はねえからな」


「何故そこまで拒むんだ!」

「お前と戦うと目立つからだ! なんだよあのギャラリーの数! 挙句にお前に勝つと俺は悪者扱いだ。

 一言で理由を言うならお前と戦うと損しかない」


 こいつと出会ってから、無駄に有名人になってしまった。

 街を歩いてるだけで、王子様に因縁をつけたクズとか、卑怯な手を使って王子様に勝ったとか噂される。

 何一つ嘘はないんだが、やかましくて仕方ない。

 目立ってからは恐喝とかが簡単に出来なくなってしまった。


「わかった、そういう理由なら、お前が悪者扱いされない場所で……」


 俺達が声を荒たげて話していると、集団のリーダーらしき男が恐る恐る話しかけてきた。

 

「そろそろ、戦ってもらってもいいですか……?」

「無駄に律儀な奴らだな……いいぞ」


 そう答えると、集団は雄叫びを上げ始めた。


「お前らやっちまうぞ!」

「性格変わりすぎだろ! 俺は左側のをやる」

「わかった。なら俺は右側をやる」


 取り決めをし、俺達は分かれる。

 

 早速一人俺に向かって突っ込んできた。

 武器(エモノ)はないのか、いい度胸だ。


「キィッーーー」


 奇声を上げながら、小柄な男が殴りかかってくる。

 それに対して俺は体を捻り、パンチが届く前に、回し蹴りを決める。


「おいおい、今のも躱せないのかよ」


 こりゃ五分もかからねえな。俺は星が浮かぶ空を見上げながら、溜息を吐いた。




「この国の力は随分と衰えたのかもな……」


 地面に倒れる者を見て、悲しげに、グレイフィスは言った。


「こんなもんだろ。俺達が強いだけさ」


 俺は一人一人の服を漁りながら、適当に返事をする。


「ちっ、どいつもこいつもシケてんな」


 全員して一緒の服を着てるし、あらかじめ金は殆ど置いてきたのか?

 そうでなきゃ、五百マニーはいくらなんでも少なすぎる。

 

 さてと最後の一人は、おっ、この肉の付き方からして、女だな。

 金はなさそうだし、その代わり揉んどくか。

 

 俺はひとしきり揉んだあと、グレイフィスの視線に気付いた。


「お前もいるか? 五百マニーしかねえけど」

「お前を見ているとこの国の現状がよくわかるよ……」


 首を横に振りながらそう答えた。

 どうにもこいつは今の国を憂いているみたいだ。それなら王様に直接文句を言えばいいのに。

 息子という立場なら簡単そうなもんだが。


「それと、殺しはしてないのか?」

「武器を持たない蛮勇さに免じてな」


 そもそも殺すほどの力を出していなかったが。


「確かに武器を持たずに戦う姿勢は好ましかったな」


 少し嬉しげにグレイフィスは言った。


「仮に武器を持っていてもたいして効果はねえけどな」

「そうは言うが、最近機械国で作られている武器は強力だと聞く」

「そんなのは当たらきゃ問題ねえさ。つうか動いたせいで気分が……」


 俺はゲロゲロとぶちまける。

 やべえ、男の方にしようと思ったら、女にかけちまった。


「お前……」

「殺しはしないが、お仕置きは必要だしな」 

 

 戦いの場に男も女も関係ないという、世間の厳しさを教えてやっただけに過ぎない。

 俺は自分の考えに賛同し、頷く。


「無駄な殺しをしないのは、お前のいい所だな」

「だろ?」


 俺は自慢げにグレイフィスを見る。

 ただ単に、殺すのは疲れるからという本音は黙っておこう。


「じゃあ俺は帰るから」


 グレイフィスに向かって手を上げる。

 ゲロを踏まないようにしながら、俺は先程歩いてた方向に、また足を進める。


「……わかった。だが、大会が始まる前には戦ってもらうからな」

「へいへい」


 グレイフィスの真剣な声に、俺は適当な返事をする。

 口元が気持ち悪いし、家に帰る前に川に寄って口をすすいでいくかねぇ。

 俺は口の中に残った気持ち悪さを地面に吐き出しながら、歩みを早めた。



 



 



  



 

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