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会えて嬉しいです

 俺はいったい何者なんだ……? どこで生まれて、何をしていたんだ。

 家族や恋人はいたんだろうか? 金属の音が鳴り響く。

 自分自身について知っていることは何もないのか? いや、一つだけあった。俺の名前は――


「――アンドリュー、起きないか。飯が出来たぞ」


「ああ……アレスさん。俺寝ちゃってたのか」

「おう、そりゃグッスリとな。よくこんなにうるさい場所で寝れるな」


 我ながらそう思う。三十ある店内の席はほぼ満席で、おっさん達がてんやわんやと騒いでる。

 そのため、かなりうるさい。今回の仕事はキツかったからな。そのせいかも。


「昔と変わらず繁盛してるようで何よりです。じゃあ頂きます!」


 うーん、美味い!

 やっぱりここのチキンの味付けが一番だ。思い出の味ってのもあるしなぁ。


「おう、食え食え。酒、飲むか? おごりだぞ」

「俺、酒飲めないって知ってるじゃないですか~それなら飯代奢って下さいよ」

「飯代は別だ。にしてもまだ飲めないのか、冒険者失格だぞ?」

「ケチ。酒が飲めないからって失格になるなら、冒険者辞めますよー」


 冒険者って言っても護衛の仕事しかしたことないし。

 中央国から出たこともない。名ばかりの冒険者とは俺のこと!

 

「実際に冒険者を辞めたらどうだ? こんなうるさい酒場で寝るなんて、相当疲れている証拠だ」

「いやいや、冒険者辞めたら俺食べてけませんよ」

「そうじゃないんだ。なんていうんだ、その……だな」


「パパは仕方ないなぁ。昔みたいにウチで働いたらってことでしょ? 久しぶり! アンドリュー」


「おお、エミリー、久しぶり! 店にいなかったけど、どこに行ってたんだ?」

「お酒の買い出しー」


 日に焼けた体を見せるようにして、荷物を見せる。

 重そうなのにエミリー1人でよく持てたな。

 

「んん。で、どうだ? 飯も住む場所もタダ。もちろん給料も出す」

「是非! って言いたいんですけど、今の仕事も気に入ってますから」


 何より自分自身の過去を探すためにも、冒険者という仕事は都合が良い。

 中央国の街もほぼ回り尽くしたし、そろそろ他の国に行くことも考えないと。


「そうか……」


 アレスさん寂しそうな顔だ……俺を心配してくれてるんだよな。ちょっと嬉しい。

 せっかく戻ってきたんだし、少しこの街に滞在しようかな。


「あーアレスさん。少しこの街に滞在しようと思ってるんですけど、昔使ってた部屋って空いてませんか?」

「空いてるぞ。昔のままにしてあるから、遠慮せず使え。

 だが、その分働いてもらうからな」


「昔のままにしてあるなんて、アンドリュー感激!! バリバリ働きますよ!」

「誰も使う予定がなかっただけだ」


 ふっふっふ、そう言いながらもちょっと笑顔が(こぼ)れてますよ。

 口にしたら怒るから、言いませんけども。


「アンドリューとまた一緒に住めるんだ! 嬉しいなー。けど、パパ? お客さんが料理を待ってるよ」

「むっ、話し込みすぎたな。アンドリュー、食べ終わったら、部屋に行ってて構わないぞ」

「わかりました。少しの間お世話になります」

「ああ」


 そういうとアレスさんはドタドタと急いで厨房に戻っていった。

 つい話し込んじゃったけど、料理を作るのはアレスさんだけだもんな。もう少し俺が気を使えばよかった。

 

「じゃあアンドリューあとで部屋に行くから!」


 俺が頷くと、エミリーもアレスさんに続いて、とてとてと厨房に向かっていった。

 おそらく荷物を置いて、アレスさんの手伝いをするのだろう。料理の手伝いか接客かまでは分からないけど。

 可愛らしい後ろ姿を見送りながら、少し冷めた料理を口にする。やっぱり美味い!




 俺の名前が書かれたプレート……この部屋か。


「おお、本当に昔のままだ」


 俺が育ててたサボテンや酒場の旅行客から貰った時計も残ってる。

 それに部屋の前のプレート、エミリーが作ってくれたんだよな。

 面倒臭いからそのままにしてたのかもしれないけど、なんか嬉しい。

 さてと、エミリーが来る前に荷物の整理でも――


「アンドリュー? ベットカバーとか持ってきたよ」


 ドアからひょっこりとエミリーが顔を出していた。


「エミリーありがとう。それにしても随分早いな。仕事は大丈夫なのか?」

「うん! もうピークは過ぎたから、お父さんとウェイトレスさんだけで大丈夫だって」


「そっか、ならこっちに座りなよ」

「えー私ベットの上がいい~」


 そう言い、エミリーはベットの上にダイブする。

 中々と気持ち良さそうじゃないか。


「俺より先にベットを使うだと!? 怒ったぞ! こちょこちょの刑だ」

「だ、だめくすぐったいよ! あはははっふふふふ。謝るから許して!」


「懲りたようだし、やめてやろうー。 それにしてもエミリー大きくなったな」

「もう私も13歳だからね。大きくもなるよ~」


 エミリーはそう言うと、ベットの上に立ち上がり自慢げに胸を張る。

 身長の事を言ったんだけど、勘違いしてるのかな。ませたなー

 きっと将来はナイスバディになってるよ、多分。


「もう初めて会った時から3年だもんな。どう? 俺は変わった?」


「んー少し男らしくなったね!」

「おお、どんなところが」

「顔とかかな? なんかシュッとしたような……あっ身長は変わってないね」


「ふっ冒険者の仕事は大変だからな」


 身長の事はスルーしながら、冒険者の仕事を思い出す……あと3センチは欲しかったなぁ。

 

 護衛者を襲う敵は様々だけど、大体は普通の獣や魔獣、それに盗賊だ。

 慣れれば案外死を感じる機会が少ない仕事だけど、あの時は死を覚悟したね。 

 それは、襲ってきた盗賊の中に武術の国の人が混じってた時だ。

 運良く護衛の人と命からがら逃げられたけど、あれは規格外だった……

 銃弾が効かない人間がいるなんて、俺知らなかったもん。


「私ずっと気になってたんだよね! アンドリューは家を出た後、何をしてたの?」


 昔のことを思い出していたら、無邪気なエミリーの声が聞こえる。なんて話したもんかな。

 武術の国の話は面白いというより、怖かったしな。普通に説明するか。

 

「人を護る仕事かな? このウエストタウンから別の街に移るときにも色々な危険があるんだけど……

 エミリーはこの街以外に行ったことある?」

「ううん、ないよ。危険ってどういうの?」


 そうだよな。仕事もあるし、何よりウエストタウンで大体の物は揃うしな。首都の次に大きいだけある。


「例えば、エミリーが今日、お酒の買い出しに行ってただろ?」

「うん。いつもの所に行ってたよ」


「その酒屋に行くまで、危ない獣や人がいるかもしれない。そういう時は自分の出番。

 危ない獣とかを追い払って、エミリーを守るんだ」

「そんな仕事してたんだ。アンドリュー凄いね! 昔から喧嘩も強かったもんね~」

「あれは8割方相手が酔っ払ってたしなー」


 なんでか喧嘩が強かったから、店の用心棒に近いこともやってた。

 あの経験があったから、冒険者として生き残れてるのかも。


「そういえば俺がいなくなってから、柄の悪い人への対処は大丈夫?」

「大丈夫だよ! パパや常連さんが追い出しちゃうもん」

「一人除いて、他の人達は普通の仕事してるはずなのに強いよな……おっと、そうだ。エミリーに見せたいものがあるんだよね」


 これを見たらエミリー絶対驚くだろうな~! 今からリアクションが楽しみだ。


「なになに? お土産?」


「その……ごめん、お土産は買ってきてないんだ」

「えーアンドリューにはガッカリだよ」

「ぐっ、これを見たらエミリーは驚くぞ。ガッカリも吹き飛ぶ!」


「本当かな~?」

「エミリーに嘘を言ったことはないだろ? ……右手の指先を見ててくれ」


 俺は右手に神経を集中し、イメージする。



火炎(ほのおよ)


 俺が炎よ、と言葉を唱えると、右手の人差し指にに小さな火がゆらゆらと現れる。

 成功だ、良かった。慣れたとはいえ出力の調整が難しいんだよな。

 いつだったか、洞窟の明かりとして使おうとしたら火炎放射になっちゃったし。

 あれはビビったね。護衛者が前にいなくて良かったなー。危うく丸焼きにする所だった。

 

 エミリーはキラキラと青い瞳に炎を(とも)して、こちらを見る。

 もう消してよさそうだな。


消滅(きえよ)


「今の魔法!? 凄い! 初めて見たよ」

「驚いただろ? 護衛した人が魔法の国出身の人で、遊びで教えてもらったら出来ちゃったんだよな」

「魔法なんて話でしか聞いたことなかったよ。あれ? でも魔法の国の人しか魔法って使えないんだよね」


「そうそう、だから最低でも両親のどっちかは魔法の国の人ってわけだ」

「そっか。ならアンドリューの両親が見つかるかもしれないってことだね! おめでとう!」

「まだ見つかったわけじゃないけど、一歩前進って所だ。ありがとう」


「じゃあ両親を探しに魔法の国に行くの?」

「近いうちにな。あそこは入国が厳しいらしいけど、その程度で諦められないしな~」


 聞いた話によると、それなりの金や身分がないとダメらしいからな。

 どうしたもんか……まっ色々方法はあるか。


「そっかー……パパとママが見つかるといいね。あっ、もしかしたらアンドリューのお姉ちゃんや弟がいるかもね!」

「そういやそうだな! 姉はイメージできないけど、弟がいたら一緒にサッカーとかしたいな」


「もしお姉ちゃんや弟がいたら、一緒にお店に来てね?」

「もちろんだ。アレスさんとエミリーには恩返ししないといけないしな」

「もう、パパも私もそういうのはいらないって言ってるじゃん~」


「そんなわけにはいかない。二人がいなかったらどうなってたか……」


「大げさだな~じゃあさっきの魔法見せて!」

「あー……実はさっきの魔法、家の中で使うと危なくてな。また今度見せるよ」

「ええー! もうアンドリューのケチ!」


「ごめん、ごめん。お詫びに次は別の魔法を見せてあげるからさ」

「むーそれなら許してあげる」


「ありがとな。エミリーさんの広い心に感謝!」

「もうバカにしてない?……あっ学校の宿題あるんだった」


 もしかして自分のバカって発言で思い出したんじゃ……

 エミリーは同年代の子より大人びてるけど、頭は今もその……バカなのだろうか。


「そりゃ大変だ。先生は今も元気?」

「うん! 元気だよ。明日一緒に会いに行く?」

「明日はお店を手伝わないといけないからなあ」


「そっか。じゃあ私は宿題があるから自分の部屋に戻るね」

「おう、宿題頑張って」

「ありがとう~。んーお店? 何かアンドリューに伝えようとしてた気が……」


 エミリーは何かボソボソと呟きながら部屋を出て行った。

 何を言ってたのか気になるけど、気にしても仕方ないな。




「さてと荷物の整理をして寝るかな」


 荷物の整理をしながら、アレスさんとエミリーについて考える。

 約一年半ぶりの再会だもんな。久々に会えてよかったー。

 冒険者として働いてる時、特に護衛者との雑談の中で家族の話をする時は、自然と二人の顔が浮かんだ。

 寡黙だけど、優しいアレスさん。元気で父親思いのエミリー。

 実際の家族じゃないけど、自分にとっては同じぐらい大切な存在だった。


「よし、これぐらいでいいか」


 整理を終わりにして、ベットにカバーを付ける。


「久々のベットは気持ちいいな」


 疲れた、もう眠っちゃいそうだ。

 それにしても、俺の家族はどこで何をやってるんだろう。俺を探してくれてるのか、死んでいるのか。記憶喪失になって三年近くになるけど、今だにわからないことだらけだ。色々な街を巡っても情報らしき情報は見つからないしな。唯一と言ってもいい手掛かりは、両親のどっちかが魔法使いってぐらいか。

 それに、家族だけじゃなく、自分自身についてもだ。わからないことが多すぎる。

 どこで何してたんだろうな、俺。

 何百回と考えたことなのに、つい考えてしまう。


「わかんねー」


 結論はいつも同じだ。わからない。

 やめやめ、明日は店の手伝い頑張ろう。少しでも二人の助けにならないとな!




「えっ! 今日休みなんですか?」


 何か伝えようとしてたのはこれか…………

 頑張って早起きしたのに、エミリーのおバカ!!


 








 

 


中央編は4話+αでお送りします。

完結させますので、どうぞ最後までお付き合いください。

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