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『燃える森、静かなる海、果てなき力』

物語も、もう中盤です。最後までお付き合い頂けたらと思います。

海洋国編は一話完結となります。


「みんな、神様と料理人さんに感謝して……」


 目を閉じ、手を胸の前で合わせる。


「いただきます」


「「「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」」」


 皆の声が広い食堂の中に響き渡った。うんうん! 朝はこうでなくっちゃね。

 上を見上げる。女王様の所まで声が届いたかな? 今日も皆は元気です。


「ケン、ミニトマト食べて~」


「俺だってやだよ。アンドリュー食べて!」


「好き嫌いは、駄目だよ。ってこらこら、入れちゃだめ」


「夜は食べるから! ね、お願いだよ」


 ケンは輝々(キラキラ)とした目で、お願い光線を出してくる。


「もう……」


 溜息を吐く。これをやられたらお手上げだ。

 ケンは嘘をついたことないし、いいよね。

 神様、女王様見逃してください。


「夕飯の時は、好き嫌いせず食べる。約束できる? ケン」


「うん、約束する!」


「私も私も!」


 事の発端(ほったん)のエレシーも便乗してきた。

 やれやれ、握っていたフォークをフォークレフトに置く。 


「仕方ないなー。二人共いいよ。僕のお皿に載せて」


「「ありがとう! アンドリュー!」」


 そう言い、隣の席にいるケンは座りながら、スプーンを使い僕の皿へ上手くミニトマトを落とした。

 一方ケンの隣にいる、エレシーは立ち上がって、こっちに来る。スプーンにミニトマトを入れて。


「お皿ごと持って来ればよかったのに」


「だって重いんだもん」


「それは確かにね」


 苦笑いしながら答える。

 女王様もこの食堂を使うから、食器一つとってもいいものばかりだ。

 いいものは重い。僕はそれを最近知った。


「ううん……うう」


 エレシーはスプーンに意識を集中しすぎてるせいか、手元が震えている。

 これは……落とすパターンだ!


「エレシーちゃんと――」


「あっ…………」


 注意をするまえに、ミニトマトが落ちていく。

 食べ物を無駄にしちゃいけない!

 左手で、白いテーブルクロスごと机を掴みながら、右手を出来るだけ伸ばす。

 間に合ええええええええっ!


「あっ…………」


 自然とエレシーと同じ言葉を口にしてしまう。


「アンドリュー、食べ物で遊んじゃいけないんだよ」


 ケンにそう言われ、僕は右手を見る。ミニトマトが潰れ、右手は赤く染まっていた。

 間に合った、間に合いはした。だけど、急いでいたせいで、つい力加減を間違えてしまった。

 口で取りに行くべきだったかな……頭を下げながら、僕は心の中で謝る。うう、神様、女王様、農家の人すみません! 食べ物を粗末にしてしまいました。

 

 謝ったところで、もう一度右手を見る。

 ……舐め取ればいいんじゃないか? 液状になったとはいえ、充分食べられるはず。

 ごくり、と喉を鳴らす。皆の前で恥ずかしいけど、食べ物を粗末にするよりは!

 口を右手に近づける、

 

「ごめんね……アンドリュー。食べ物を粗末にしちゃって」


 が、エレシーの言葉で行為を中断した。


「神様と農家さんに謝った?」


 落ち込んだエレシーを見て、ゆったりと優しい声を出すように意識して、問いかけた。


「うん、勿体無いことをしてごめんなさいって」


「よしよし。なら、許してくれるよ」


 左手でエレシーの頭を軽く撫で、席にお戻りと声をかける。

 その言葉に頷き席に戻っていた。

 ……この右手をどう処理するかな。飲む感じでいくべきか、それとも啜る感じでいくか、食器に一度戻すのもありかな?


「アンドリュー、手、洗ってきたら?」


「…………」


 ケイの問いかけに、ただただ頷くことしかできない。

 うん、そうだよね。潰れちゃったのを食べるのは、皆の教育上よくないよね。

 僕はもう一度心の中で謝罪をして、洗面所に向かうことにした。




「ふぅ……」


 タオルで手を拭う。先程まで右手に付いていた、ミニトマトの粒から液まで綺麗に水で洗い流した。

 もったいないけど仕方ないよな~。

 

「うぁ」


 腹の音がなってしまった。誰もいないとはいえ恥ずかしい。

 早く戻ろ、お腹すいちゃったよ。魚のフライおかわりあるかな、あるといいな。

 一つ目はそのまま食べて、二つ目はタルタルソースをたっぷり付けて食べる。

 うーん、最高だ。朝から幸せな一日って言えちゃうよ。

 

 想像を膨らませながら、小さな洗面所の扉を開ける。と、そこには院長がいた。


「こんな所にいましたか、アンドリュー」


「あれ、院長もお手洗いですか? でも、こっち側は男子のですよ」


「違いますよ。あなたを探していたんです」


「僕をですか? こんな朝からどうしました」


「ウールシア様があなたに用があるそうです。急いで、お行きなさい」


 女王様が! 院長の顔を見ながら驚く。女王様の用となれば急がないと。

 でもその前に、しっかりと身だしなみを整えたい。洗面所に戻って確認しようかな。それよりも、人に見てもらった方が確実か!


「院長! 僕を見て下さい! 寝癖は大丈夫ですか? 目やにとかはついてませんか? 爪の長さは適切でしょうか? 服は乱れてませんか? 靴は汚れてませんか? トマトの匂いはいい感じですか?」


 院長はどこか呆れたような顔をしたあと、トマト? とボソッと呟いた。


「大丈夫、大丈夫です。問題ありません。今日も最高ですよ、アンドリューは」


「院長に言ってもらえたなら、大丈夫ですね」

 

 よしっ。拳をぎゅっと握り締める。

 そして自然と上を見る。今行きます。女王様!


「あなたはウールシア様の事となると人が変わりますね。まあ、子供達の世話はしっかりしてますし、問題ありませんか」


「よくわからないですけど、ありがとうございます!」


 院長は顔を抑え、やれやれと言われた。

 褒められたと思ったんだけど、違ったかな。

 って、こんなことしてる場合じゃない。


「じゃあ、院長失礼します!」


「はい、行ってらっしゃい。あなたには必要のない言葉ですが、粗相のないように」


 こくりと頷き、数歩進んだところで、院長に言い忘れてたことを思い出した。


「すみません、院長。皆にご馳走様の号令をお願いします」


「ええ、わかってますよ」


「あー、あと魚のフライが余ってたら取っておいて下さい! タルタルソースも一緒にお願いします。……皆が欲しがってたら自分の分もあげていいんで!」


 院長に四五度のお辞儀をする。そうすると院長は笑いながら、わかりましたよ。と言ってくれた。

 これでもう僕を阻むものは何もない。女王様の部屋を目指し、小走りした。




「め、目が回ってきた」


 女王様の部屋を目指して、螺旋状の階段を見上げながら登ってたら、いつの間にか頭がぐるぐるとしてきた。

 歩くのを一旦辞める。少し休もうかな。いや、女王様が待ってるんだ。頑張れ僕! 自分にエールを送って、また足を動かし始める。

 それにしてもこの塔高いよな~、何メートルあるんだろ。一番下の階にある食堂や教会から登り始めたとはいえ、もう五分近く歩いてる気がする。

 外から見る分には、高くて、神秘的で、綺麗な塔なんだけど、生活するにはちょっと不便だよね。街に行くとこんな家ないもんな。って家じゃないか。

 つい居心地がいいから家だと思っちゃったけど、女王様の仕事場兼孤児院だもんね。あれ、いつか、女王様がここは皆の家ですって言ってた気がする。

 じゃあ、僕の考えは間違ってない? むむむ。


「あっ、そろそろかな」


 螺旋の数が、数えられるぐらいの距離に近づいてきた。今日も女王様に会える!

 胸の興奮を抑えてるつもりだけど、足は早くなってしまう。

 メイクリット海の透き通っている水と同じように、綺麗な青い髪、凛とした目、そしてあの全てを受け入れてくれるような優しさと相手の為を思っての厳しさ。今までも、これからも女王様以上の人とは会えないだろうな。あの人と会えて自分は本当に幸せだ。

 顔を思い出してると心配になってきた。女王様ちゃんと寝てるかな。昨日は下の教会まで来てたけど、仕事が忙しいと、ずっと頂上の部屋にいるから心配だ。

 無理をしてないといいんだけど、自分がもう少し仕事を手伝えたらな~。

 考えに耽っでいると階段は終わりを迎えてていた。遂に女王様の部屋の前まで来た! 大きな神様の彫刻が部屋の前に(まつ)られてるものを見上げ確信した。


 三回扉を叩く。そうすると、海の優しい風で鳴る風鈴のような声で、『どうぞ』という声が聞こえた。

 女王様だっ……! いつ聞いても、いいなぁ。扉の前で少し呆けてしまう。

 はっ、こんなことをしてる場合じゃない。


「女王様、遅れてしまってすみません!!」


 僕は扉を開けると同時に、体が倒れるギリギリまで頭を下げる。

 これが自分にできるたった一つの誠意の見せ方だ。


「頭を上げなさい、アンドリュー。私が想像してたより早く来てくれたこと、感謝します」


 女王様に言われ頭を上げる。


「…………」


 言葉を失ってしまう。いつ見ても綺麗だ、顔とか体のバランスとかだけじゃなく、雰囲気が綺麗なんだ。神様は凄いと思う。この人を女王に抜擢したんだから。

 それに僕に対して微笑みながら、感謝してくれてる。何度見ても体が空を飛びそうなほど、胸が躍る。人は慣れる生き物だっていうけど、僕は何度見ても全然慣れない。


「アンドリュー?」


「……っ、すみません。ついボーッとしてしまって。褒めてくれてありがとうございます」


「問題がないのならいいのです。何かあったら直ぐ私や院長に言うんですよ」


「はい。いつも心配してくれてありがとうございます! それで用件っていうのは、なんでしょうか?」


 仕事を手伝って欲しいとかだったら嬉しいなー。でも、急ぎの用だし届け物とかかな。


「私は明日から一週間、自国を離れ、他国へ向かい……行事に出席します。その間、アンドリューには申し訳ないのですが、この塔から出ないで欲しいのです」


 女王様は、真剣な目をしながらそう言った。

 予想外の言葉だった。まさかの外出禁止令だなんて。ここで生活を始めてからの三ヶ月は外出を禁止されたけど、それ以来だ。

 何で外に出ちゃダメなのか聞きたい。でも、女王様がこういうことをするには意味があるだろうし、聞かないほうが……

 悩む。聞くべきか、我慢するべきか。うう、よしこんなことで女王様の時間を割くのは悪い。我慢しよう!


「本来あなたには話すべきことなのですが、理由は話せません。申し訳ありません」


 席から立ち上がり、静かに頭を下げる

 女王様には僕の考えはお見通しだったようだ。それにしても頭を下げた姿まで美しい。

 って女王様に頭を下げさせちゃうなんて!


「か、顔を上げてください! 女王様に頭を下げられたら、申し訳なくてあの窓から飛び降りたくなっちゃいますよ!」


「命を粗末にするような発言を軽く言ってはいけませんよ。ですが、わかりました。そこまで言うのなら頭を上げます」


 頭を上げた女王様は肩をすくめながら少し笑っていた。

 つい、焦って馬鹿みたいなこと言っちゃったよ。神様、女王様すみません……


「塔から出られないとなると、その間買い物とかって」


「外でこなす仕事は全て院長にお願いしてあります。代わりといってはなんですが、あなたにして欲しいことがあります」


「なんでもしますよ! 任せて下さい」


 まさかの期待してた展開が来て、テンションが上がる。

 女王様の役に立てるなら、どんな仕事も輝いて見えるはず! 塔の中、全てを綺麗に掃除してと言われても完璧にこなしてみせる。


「私がいない間に、船を使って外の国から、来賓がいらっしゃいます。その来賓の子供の世話をして欲しいのです」


「世話っていうと、この塔で泊まられるんですか? ……うう、結構重要な役目で、お腹が痛くなってきました」


「ふふっ、ええ、ここで宿泊されます。それとあまり心配しなくとも大丈夫ですよ。あなたは一度会ったことがありますから」


「外の国の人で、一度会ったことのある子供……もしかしてエフィン兄妹ですか!」


「その通りです。来賓直々にあなたが良いと指名されました。頑張って下さいね」


「もちろんです、頑張りますよ~。それにしても久々に会えるので、嬉しいです」


「彼らもきっとあなたと会うのを楽しみにしてますよ。それと、まだ先の話ですが孤児院の件も今話しておきます」


「……わかりました」


 女王様は笑顔から、真剣な顔つきに変わった。自分もそれに伴って、背筋を伸ばす。

 話す内容は、何となく想像がついた。


「ケンを是非、我が家の息子として育てたいという申し出が先日ありました」


「その家に問題があったりしませんか?」


「現在調べてもらってますが、おそらく問題ないでしょう。最終的な判断は、私が帰ってきてから、いつも通り行います」


 最終的な判断とは、女王様とケン、そして家族になるかもしれない人との面談だろう。


「良かったです。また一人家族ができるのは。でも、やっぱり寂しいですね。別れは」


 もう手の数では足りないほどの子供達が家族という温もりを得て、ここを去っていた。

 何度別れを繰り返しても寂しい。でも、


「そうですね。私も朝のいただきます、という声からケンがいなくなるのを寂しく思います。ですが、」


 そうだ、


「彼の幸せの第一歩です。笑顔でいてあげましょう。お互いに」


 女王様の言う通りだ。笑顔で送り出してあげないと、ケンが困ちゃうよね。

 

「はい!」


「いい返事です。ケンのことは、まだ決定事項ではありませんが頭に入れておいてください。では、話は以上です」


 名残惜しいけど、女王様の為にも早く出よう。

 自分は頭を深く下げてる。そして扉に向かう途中、


「アンドリュー、くれぐれも塔を出てはいけませんよ」


「もちろんです」


 女王様の顔を見ると、普段の凛々しさは影をひそめていた。その代わり心配そうな顔をしてくる。


「あの、その……そんなに塔を出ると危ないんですか?」


 つい聞いてしまった。


「いえ、そんなことはありません。私が過度な心配をしてるにすぎませんよ。不安になるようなことを言ってしまいましたね」


「自分こそ要らない質問をして、時間を取らせてしまいすみません! では失礼します」


 部屋を出るために扉を開け、静かに閉める。

 静かに閉めたつもりだったのに、ギギギという音を立てながら扉は閉まった。

 

 とにかく女王様の言葉に従って、塔から出ないようにしよう!

 僕は心に誓いを立て、階段を下り始めた。

 


・海洋国(Ocean nation)

特徴:

唯一海に接している、海洋国。とても穏やかな国民性に、美人の王女が存在している。

国民の九十%以上が信仰している、宗教がある。

その宗教の教えにより、独占を良しとせず、

独り占めできる海洋資源を他国にも適正価格で販売している。


戦争には消極的であったが、いざという時の為に、

海を隔てた先の外国に応援を要請していた噂がある。


飯良し、人良し、王女良しと三拍子揃っている。

アンケートを取れば、住みたい国No.1は確実だろう。

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