番外編 『交わることのない運命』
もうそろそろで、お城が見えてくるはず。それにしても全部の国を回れなかったな~
中央国でダラダラしすぎちゃったのが原因かな。
あそこ、どこも居心地が良すぎるんだよね。それがいけない。
「うんうん」
私の計画性のなさが原因じゃないよね。
そもそも、会議がなければな~。あれって、必要なのかな。
私以外、オジサン、オバサンだけだから、居心地が良くないんだよね。
いっそ、サボって、そのまま旅を続けるのもありだった気が……
「って、王様の命令に背くわけにはいかないか」
なんとなしに顔を上げるとオレンジ色に輝く夕日が目に映る。
久々に見るこの国の夕日は中々に綺麗だ。何より森がいい感じにマッチしてる。
機械の国も、中央の国も、森がなかったからな~。機械の国なんて、緑自体が殆どなかったし。
この国出身としては、ちょっと寂しさを感じちゃうよね。
あっ、今何時だろう。右腕の時計をちらっと見る。うーん思ったより時間がある。
魔法の練習をしようかな。大規模なものは外じゃ練習できなかったしな~
確か練習場がこの近くにあったはず! 記憶を辿りながら、私は歩く方向を変えた。
人がいなくてよかった。まだ明るい時間なのに誰も練習をしていないのは、国に仕えてる身としては悲しむべきかもだけど。
まっ他の練習場でやってるのかもしれないし、気にする必要はないか。
「じゃあ、早速やりますかねー」
まずは手始めに簡単なのを、
「雷撃」
何もイメージせず、放出する。
バチバチという音と同時に、私のポニーちゃんが空へ飛ぼうとする。
「いたっ、いたたたた」
あちゃー、一回の詠唱とはいえ、やっぱりイメージしないとダメだなぁ。
「消滅」
魔法を解除すると、ファサ、という音と共に髪は元の場所へ戻ってきた。
ううー、ごめんよ、ポニーちゃん。乱暴な事して。髪を優しく撫でる。
この悲劇を繰り返さないためにも、次はちゃんとイメージしよ。
左手に意識を集中させる。そしてイメージする。
三方向へ伸びる電撃を。赤、緑、青と色がついた電撃を。
あと、曲げられたりできないかなー。
…………できそうだ。やってみよう。
「雷撃雷撃雷撃」
三回唱える。そうすると三方向に伸びる色が付いた電撃が平行に放出された。
よし、あとは曲げるだけだ。集中。
三本にどういった動きを持たせるか、再度イメージする。
左側の赤い電撃は地面にヘバリつかせる。真ん中の緑色の電撃は鞭のように左右へブンブンと動かす。
そしてもう一本は、先程のポニーテールのように上へ飛ばした。ううっ……痛みが蘇ってきた。
「消滅」
一応できたけど、一本、一本の電撃が短くなっちゃったなー。2メートルぐらいの長さしかなかった。
詰め込みすぎちゃったかな。でも、三回っていう詠唱回数だし、上出来でしょ!
さてさて、時間的に次が最後かな……なら、あれしかないか。この場所だとちょっと制御しにくいし、真ん中まで移動しよう。
広い練習場を歩きながら、旅行もとい視察の時に会った彼を思い出す。
お父様に他国を回るときは護衛を雇えっていわれて、適当に雇ったけど面白い子だった。話してて面白かったし、反応も良くて、可愛かったなー。
ああいう初心な子が好きなのかな~私。周りにそういうタイプがいないせいか、凄く新鮮に感じた。
本当は一ヶ月の契約だったのに、無理を言っ結局て三ヶ月も一緒にいてもらった。
他にも何人かの護衛を雇ったけど、延長をお願いしたのは彼だけだった。私が旅行で学んだことは、護衛を雇うときのポイントは強さより居心地のよさが重要ってことだよね。
アンドリューの両親は見つかったかな。過去は見つかったかな。と考えていたら、もう目的の場所に着いていた。
よしっ、やるか! 久々だからちょっと緊張するけど、何とかなるでしょ。
イメージする。このオレンジ色に輝く空を楽しげに、優雅に舞う竜を
「火炎火炎……」
竜の姿は美しく、シャープで、余計なものは何もない。
だけれど、その身には激しく炎を滾らせている。
「火炎火炎……」
徐々に体が熱くなるのを感じる。ここで意識を逸らしちゃダメ。集中。
空を見上げてる全ての人が驚き、感嘆のあまり溜息を零してしまうような存在を、今ここで作り出す。
「火炎火炎 舞え!」
体の熱を全て竜のために放出する。
「…………」
ついため息が出てしまう。成功だ。久々に見ると結構大きいなぁ。流石私だね。
そういえばアンドリューに最初に教えた魔法は火炎だったなー。
「おっと」
竜の姿が一瞬ぶれちゃった。
つい思い出に浸りそうになったせいかな。どれくらい制御できるかと、持続できるかも試さないと。
私は練習場に貼られている、緑色の膜に接触しないように気をつけながら竜を上下左右、色々な方向に動かす。
本当はもっと高く飛ばしたいけど、あの膜があるからなぁ。そういえば六回の魔法でも防げるのかな……
ぶつけてみたい……けど、止めておこ。防がれたら軽くショックだし。壊れたら両親どころか、王様にまで怒られるちゃうだろうしなぁ。
それから五分ぐらい竜を動かしてると、段々辛くなってきた。
唱えるのも大変だけど、維持するのもキツいな~。どんどん魔力が消費されていくのが、自分でもわかる。
汗を拭うため、左肩に視線を向けると一人の男の子がこっちを見ていた。
あちゃ~、見られちゃったか。できれば見られたくなかったけど、仕方ないか。
「ん……?」
どこかで見たような気がする。魔法を消したあと、もう一度男の子を見た。
「うわ、フェンスに顔がめり込んでて痛そう~」
って違った。違った。そこじゃない。しっかりと顔を見るため男の子がいる方へ近付く。
んーーんん? ん? ン! やっぱりそうだ! 少し違う気がするけど、間違いない。アンドリューだ!
私は思わず叫ぶ。
「もしかしてアンドリュー!? 魔法国で会うなんて運命的だな~」
「――――――――!」
うーん、何を言ってるのかわからない。元気が足りないぞ。アンドリュー。
わわっ、もっとフェンスに顔を張り付けてる。あれ絶対痛いよ。
アンドリューも私に会えて嬉しかったのかな。ってもうこんな時間!? 王様遅刻に煩いから、急がないと。
私は思いっきり頭を下げる。
「っとゴメン! 用事があるからまた話そうね!」
この国にいるならまた会えるよね。そう思いながら、城を見て唱える。
一部の人間にしか使えない、一方通行のテレポーテーションだ。
アンドリュー驚くだろうな~いきなり私の姿が消えちゃって。
それにしても家族は見つかったのかな? この国にいるってことはそうだと思いたいけど。
地面に上手く着地する。初めての時は転んだなぁ。昔の事が頭を過ぎる。
さてさて、玉座はどこだったかな。一年ぶりに来た城の中を思い出しながら、私は急いだ。
これにて魔法編完結となります。
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今日の16時にまた更新します。




