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番外編 ~耐える狼と自重しない犬~

 



 今日は何だか朝から頭がぽわ~っとしている。


 理由はわかっている。

 昨日、とうとうヒューイ君とつがいになったからだ。


 うっひゃぁあああ、このわたしが男の子と付き合うなんて!

 しかも年下の、気持ちの上では同性の?

 うっはぁあああああ!


 つい熱い顔を押えてしゃがみこむ。


 胸に押し寄せるのは恋にときめく甘酸っぱい気持ちと、男の子に恋愛感情を抱いちゃってるという冷や水を浴びせられてるような相反する気持ち。

 いや、でももう悩まない!

 だってヒューイ君は「今のわたしが好き」って言ってくれたもの!

 わ、わたしのことを「女の子らしい」って!


 そこでもう一度悶絶しながら頭を抱える。お尻のしっぽもぶんぶんと暴れている。


「女の子らしい」って言われて嬉しくて恥ずかしい気持ちと、そんなこと言われて喜んでいいのかって気持ちと……。


 昨日からずっとこんな感じで悶えている。正直言って自分が気持ちわるい。

 お母さんは「あらあら微笑ましいわね」って感じで生暖かく見守ってくれてるし、お父さんは「良かったな……」と一言だけ言ってあとはお母さんに慰められていたような気がする。

 本当なら親の前で、特にお父さんの前でこんなふやけた娘の姿なんて見せたくないんだけど、どうしても自分の感情をコントロールできない!


 そんなことも含めてわたわたしていると、お母さんがそっと隣にきて「それが発情期なのよ。たくさん悩んでたくさん楽しむのよ」とアドバイスをくれた(?)

 うぅ、当たっているし、当たっていないし……。


 ベッドの中に入っても、頭はぐるぐると考え続けて全然気が休まらない。

 わたしが純粋に女の子だったら、この状況を素直に喜んでただろうに……。

 嬉しくってドキドキする女の子な気持ちと、同性とこんな感じになってどうしよう……と思う男な自分でぐちゃぐちゃだ。


 大きくため息をついて腕で目を覆った。

 眠気はまったく訪れない。

 だって明日もその次の日も、ヒューイ君と二人きりで過ごすことが決まっているのだ。

 少し離れて気持ちの整理がしたいけど、そんなことをすればまたヒューイ君を傷つけてしまうだろう。

 ぐるぐるまわる想いは、どんなに大きく息を吐き出しても胸から出て行ってくれない。


 わたしは何度も寝返りを打ちながら眠気の訪れを待ち、しまいには枕を抱え込んでベッドの上をゴロンゴロンのたうち回っていた。


 明日はヒューイ君とどんな顔して会ったらいいんだろう~~~っ!?





「ミモザ、大丈夫か?」


 次の日、うちに来てわたしの顔を見たヒューイ君は開口一番そう言った。


「んん……、昨日よく眠れなかった」

「そうか……。きついなら無理するなよ」

「うん、ありがとう」


 なんだか頭がぼーっとして返す言葉も力ない。

 そんな働かない頭でヒューイ君の顔を見る。

 心配そうにこちらを見つめている顔がなんだかセクシー……。

 とたんに心臓がバクバク言い出して思わず胸を抑えた。

 ううっ、刺激が強いわ……。

 これじゃ恋する乙女を通り越しておばあちゃんだよ。


「ミモザ、本当に顔色が悪いぞ」

「うわ!」


 ヒューイ君がずいっと近寄って来て戸惑っている間に、ぺたんと大きな手がわたしの額を覆った。


「うわっ、やっぱり熱があるじゃん!」

「そ、それはヒューイ君といるのが恥ずかしくて……」

「いやいや、本当に熱があるって……」


 ヒューイ君は呆れたようにそう言うと、いきなりわたしを抱き上げた。

 こ、これはお姫様抱っこ!!

 落ち着かない体制に慌てて腕を伸ばし、掴まりやすい場所に腕をからめる。


「はう!」


 結果、ヒューイ君の首に腕をからめて思いきりしがみついていた。

 顔がっ、顔が近い!!


「は、はわわわわわ」

「ミモザ、足元ふらついてたぞ? きついなら無理するなよ、ほら、部屋まで連れて行ってやるから」


 ヒューイ君はそんなわたしにおかまいなくずんずんと歩いて部屋まで運んでくれた。

 お姫様抱っこってさ、男の負担がすっげーでかいんだよね。

 あれ笑顔で出来る奴は化け物だと思う。

 実際は腕も膝もぶるぶる震えて、ものすごい顔も必死な感じでしかできないよ。

 ……お姫様抱っこなんてしたことあったっけ?


 もうろうとした頭は余計なことを考えない。


 気が付いた時にはベッドの上におろされていた。


「……ミモザ、腕を離して」

「んう?」


 気が付けばヒューイ君の首に腕をまわしたままベッドの上にいた。

 そのせいでヒューイ君はわたしに半分覆いかぶさるような格好になっている。


「ミモザ」


 困ったような声と顔に。

 意地悪な想いがむくむくと起き上がって。


「えいっ!」

「うっわ!」


 思い切り腕に力をこめて引っぱった。


 不意をつかれたヒューイ君はバランスを崩してわたしの上に倒れこんできた。

 伝わる暖かさとずっしりとくる重さが心地よい。


 ふふっ、まいったか。お姫様抱っこのしかえしだぁ!

 そのまま逃がさないように、強張っている身体に腕をまわしてぎゅっと抱き込んだ。


「ちょっ、ミモザ!」

「ふっふっふ! 参ったって言うまで離さない」

「参った! よくわかんないけど参ったから離して!」


 密着して抱き付いているからヒューイ君の顔は見えないけど、上ずった声からは焦っているのがめちゃくちゃ伝わって来てわたしは嬉しくなった。

 抱きしめている腕に力をこめてくっくっくと笑えば、鼻先をヒューイ君の髪の毛がくすぐって更におかしい。


 あぁ、思いっきり笑ったらなんだか眠たくなってきた……。


「横になったら眠たくなってきちゃった」

「そ、そう! なんか今日は様子がおかしいからちゃんと寝るんだぞ!」

「うん……おやすみぃ」

「! ちょっと、この手離して寝て!」


 ……はぁ、あったかい。はぁ、いい匂い。いい夢見れそう……。





「……ザ、ミモザ」

「んう?」


 目を開けると、お母さんがわたしを覗きこんでいた。


「目が覚めた?」

「あ、わたし眠ってたんだ……」


 横になったまま顔を動かせば、窓から夕陽が差し込んでいるのが見えて、だいぶ眠っていたことを知る。


「あれ、ヒューイ君は?」

「…………」


 わたしの質問に、お母さんは微妙な笑顔を浮かべながらわたしのベッドをゆびさした。

 そういえばわたし毛布みたいなのを抱きしめてて……。


「うっひゃあああああ!」

「……ぐるるるぅ」


 服とズボンがピッチピチに体に食い込んでいるおっきな黒い狼をがっちりとホールドし、さらに両足でもしっかりと挟み込んでいた。

 狼さんは情けなく耳を伏せた状態で、途方に暮れた顔をしてわたしにされるがままになっている。

 これってもしかしなくてもヒューイ君だよね!


「うっわぁああああ!!」


 なんで自分がこんなことしているのか思い出せなくて、慌てて狼さんを解放してベッドの端に飛び退く。


「ミモザ!」


 急に激しく動いたせいか、めまいがしてベッドから身体が落ちる。

 床にぶつかると目を閉じた瞬間、がっしりと抱き留められた。


「ミモザ、大丈夫!?」


 お母さんの声に目を開けると、心配そうにわたしに寄り添うお母さんとわたしを抱えるヒューイ君が見えた。


「あの、ミモザの調子がおかしくって。それで熱があったのでベッドまで運んだんですけど、その……」


 そこでヒューイ君は口ごもってしまった。

 あぁ、思い出した! っていうかヒューイ君、そこで黙ったらいろいろと誤解されちゃうでしょ!


「あのねお母さん! わたしがいたずらでヒューイ君をベッドに引きずり込んだの! 何か頭がぼーっとしてて……」

「いや、ちょっとミモザ!」

「……いえ、ヒューイ君。大体わかったわ。本当にごめんなさいね」

「……いえ」


 なんだか必死に説明をしようとしているわたしをよそに、お母さんとヒューイ君だけで気まずそうに会話をしている。

 ちょっと、わたしの説明をちゃんと聞いてよぉ!


 身体を起こして更に説明をしようとしたわたしの額に、お母さんの柔らかい手がおかれる。


「まだ熱があるみたいね。昨日から様子はおかしかったけど、発情期だからと思ってたわ……。本当にヒューイ君ごめんなさいね」

「いえ、俺こそ何かすいません……」

「……うちのお父さんにもヒューイ君のご両親にも黙っておくから」

「……本当にすいません」

「いえ、こちらがうかつだったわ」


 何か二人とも小声でごしょごしょ言ってる。


「あの、だからわたしが――」

「「ミモザはちゃんと寝てなさい!」」

「……はい」


 二人にすごい剣幕で言われ、ヒューイ君に身体を支えられながらふらふらする身体でベッドに寝なおした。

 二人とも顔がこあい、息ぴったりしすぎだよ……。


 結局その日は、のどの痛みも鼻水とかもなく、お医者さんを呼ぶまでもなく寝てれば治るでしょ、とご飯を食べてぐっすり眠った。


 次に日の朝になればわたしはけろっと元気になっていた。

 お父さんも安心したようにわたしの頭を撫でると、いつもの畑仕事に行ってしまった。


 玄関でお父さんを見送ると、真剣な顔をしたお母さんに椅子に座るように促された。


 お母さん曰く、いくら成獣前に本番はしないとはいえ男の子をベッドに引きずり込んじゃいけません!ということと、発情期を迎えた男の子は女の子よりも繊細というか、まぁあっちの欲が強くなっているのでヒューイ君は可哀想な時間を過ごしたんだってことをやんわりと怒られた。


 さんざん雪の巣穴で寄り添っていたけど、あれはお互い獣姿だったから親愛の情はわいても性欲まではわかなかった。

 だけど本番は人型で行うので、人型の相手にはそういう欲が湧いてくるものなのだそうだ。


「ミモザにはまだまだ色々な説明が必要ね……。そうじゃないと発情期のヒューイ君が可哀想だわ……」


 とお母さんは額を押えて呟き、わたしへのお叱りを締めくくった。



 更に次の日、元気になったわたしを見てヒューイ君は安堵のため息をついた。


「やっぱあんな寒い所で何度も裸になってたから熱が出たんだろうな。すぐに良くなってよかったな!」

「……むぅ」


 そこは、いろいろあって一気に疲れが出たとか、ヒューイ君とつがいになって知恵熱が出たとか言ってくれ!

 断じて雪の中のマッパが原因じゃないやい!


 更にその次の日、今度はヒューイ君が熱を出した。


 あれ、わたしがうつした?

 ってことはやっぱり雪の中でマッパになって風邪ひいてたってことか?



つがいになっても進歩なし……

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