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22話

すいません。これが最終話とか言っておきながら、投稿前に推敲していたらに長くなってしまったので分割しました。次回が本編の最終話となります。本当にすいません。

 


「だから、俺が好きになったのは、目が覚めてからのミモザなの」


 ぽかんとして鼻をぐずぐずいわせているわたしを見つめ、ヒューイ君は少し顔をしかめて言った。

 少し怒っているようにも見えたけど、顔も首も真っ赤だったから照れてるんだってすぐにわかった。


「記憶が無くって混乱してるだろうに、いろいろと頑張ってるミモザを見てて可愛いな、守ってやりたいな、って思った」

「う、え。で、でも、わたしが目を覚ましたあと優しくしてくれたのも、小さい時からミモザのことが好きだったからじゃ……」


 混乱しているわたしに、ヒューイ君はあろうことか我慢できないというように噴出した。

 え、なんでここで笑う?


「小さい時って、いくつのころの話? まだ完全に人型にもなれないようなガキの頃の『好き』って、発情期の『好き』とは違うから。もしガキの頃に『好き』だとか『つがいになりたい』とか誰かと言ったとしても、10年間も本気でそれを信じつづけるほど俺ガキじゃないし……。それに今言うのもなんだけどさ、『仮のつがい』の時だって本気でそいつが好きで付き合ってるけど、『真のつがい』は別の奴と、ってのも多いし……」


 最後は気まずそうにごにょごにょ言うヒューイ君を、何も言えずにただ見つめる。

 いつの間にか涙も鼻水もひっこんでいた。


 確かに、小さいころに『結婚しよう』なんて約束しても、大きくなった後もそれを本気で信じている人なんてほとんどいないだろう。

 なかには長年の幼い恋心を成就させる人もいるかもしれないし、10年後に成長してばったり会ってまた恋心が再燃するような話も聞いたような気もするし、正直なところそういう話の方が大好きだ。


 そして、付き合う相手と結婚する相手は違うってのも、実体験はないがまぁ理解できる……。

 それを自分より年下のヒューイ君から聞かされるのは内心複雑だけど。


 ぼけっとヒューイ君を見ていると、彼は何かを思い出したように苦笑いした。


「ん~、さっき自分で言っといてなんだけど。10年ぶりに会った奴に『10年前に一緒にいようって約束しました。だから今から俺とずっと一緒にいてください』なんていきなり言われたら逆に怖くないか?」


 そう言われると10年前の約束をいきなり迫られたり、10年前にしか会ってない相手にいきなり『10年前に好きだったから今から付き合おう』って言われるのは怖いかも……。


 でもでも、あの天使なヒューイ君に純粋な目で見つめられながら「10年間ずっと好きでした……」なんてもじもじしながら言われたらきゅんときちゃうかも。

 それにあんなに純粋な目でミモザを見てたじゃないか……。


 小さなころの天使なヒューイ君に比べて、凛々しく男らしくなったヒューイ君の顔をちらちらと眺める。

 ヒューイ君は真面目な顔になってわたしを見つめた。


「そもそもどうして俺が小さい頃のミモザのことを好きだったら、今のミモザはつがいになる資格がないって話になるんだ? 今のミモザが小さい頃とは別人だって言うなら、俺だってあの時ミモザの後ろをついてまわるだけだった俺とは別人だと思うけど」

「で、でも。成長して変わったとかじゃなくって、厳密にいえば小さい頃と人格が違うというか……」

「人格とか記憶が別人とかいうけどさ、10年ぶりに目が覚めたのに中身は4歳のミモザのままで、10年経ったことが受け入れられないって方がミモザも周りもつらいと思う。10年間が抜けてるぶん別人のように感じるのはしょうがないと思うし、そんな状態でも頑張っているミモザだから俺もそばにいて支えたいと思う」


 うぅ、ヒューイ君を説得しようと思っていたのに、何だか気が付けば自分が説得されている。

 精神年齢はわたしのほうが上のはずなのに何だか情けない。


「10年間ずっと好きでしたとか、ミモザってそういう一途なのが好きなんだな。ぷっ、やっぱり男じゃないよ。男ならそんな発想出てこないよ! ミモザはめちゃくちゃ女の子らしいよ」

「は、はぁああああ!」


 お、女の子らしいですと!?

 やだ、なにこの展開!


「ほら、顔真っ赤にして恥ずかしがってる。男ならそんな反応しないって! ついでに言えば、ガキの頃のミモザもそんな可愛い反応しないし。可愛いなんていったらきっと殴られてる」

「な、なぐればいいんだな! 殴ってやる!」

「あっははははっは! そんなプルプル震えた手でやられてもミモザの方がきっと痛いぜ? あぁそうだな、小さいころのミモザが夢中で飯食ってるのを見るのは好きだったな。それは今も変わらない」

「なっ!!」


 ま、またさらっと好きとか言った!


「なんだかんだ言って小さい時のミモザと変わらないな、って思うこともあるし。いきなり大きくなって、あのミモザがいきなり女らしくなったなってドキッとすることはあるけど、ミモザを見てて別人でさらにおっさんなんて思ったことは一度もないぞ」


 お、女らしくなった? わたしが?


「ほらまた喜んでる。顔も尻尾も正直だな」


 はっと慌てて尻尾を抑え込む。ええい、落ち着かんか!


「それで?」

「え?」


 ヒューイ君の笑顔に追い込まれているような気がする……。


「他になにか問題ある?」

「え……」

「俺はミモザのことが好きで、ミモザも俺のこと好きなんでしょ。それでまだ何か問題ある?」

「え!! な、なんでヒューイ君のことが好きって……」

「俺の告白を断るのにそんなに泣いてて、そもそも俺に好きって言われてそんなに喜んでて」

「う、わ、わ、わ、……!」


 言葉もなく口をパクパクするしかないわたしの目の前で、ヒューイ君は意地悪な笑顔で指を見せつけるように折っていく。


「俺の部屋までおしかけて、俺が他の女の子とつがいになるのは嫌だって泣いて、俺の匂いがいい匂いとか言って、それから……」

「ぎゃぁあああ、ストップ! それ以上はすとぉおおおおっっぷ!!」


 今までうつむいていたのに、気が付けばヒューイ君へ掴みかからんばかりに身を乗り出していた。

 そんなわたしを、ヒューイ君はにこにこしながら見上げている。


「これってもう、俺が好きだって言ってるようなもんだろ? それどころか、俺はミモザに先に言われてしまったって落ち込んでたぐらいなんだけど」

「うぅ……、あうぅ」


 ひたすら笑顔のヒューイ君がとても……。

 そう、とても怖い。

 何だろう、肉食動物に獲物認定されたような、罠にはまったのを目の前で確認されているような……。

 あの出会った頃の、素朴で優しい村の少年はどこいった!?


「あの、ヒューイ君。何か、人が変わってない……?」

「そう? 部屋に押し掛けてきて、人が夢かと思って何もできないのをいいことに好き勝手やって。あげくに俺からも村からも逃げ出して。やっと追いついたと思ったら野犬に襲われてるし。ミモザの獣化した姿を俺より先に他の奴が見たのも腹立つのに、あろうことか……。あの時はもうブチギレすぎて訳わかんなくなってたし……」


 やだ、ヒューイ君の笑顔がギラギラしてこわいっ!


「そんでもってやっと助けて、素直に甘えてくれてると思ったら何か母親扱いされてるし。ようやく村に帰って母さんたちに会ったら、いきなりドギツイ話をしはじめて俺の立場ないし。今日から何の心配もなく発情期をゆっくり過ごせると思って告白すれば、よくわからない理由で断られるし。そんなこんなあってさ、俺、学んだんだ」

「へ、へぇ何を……」


 ヒューイ君、笑顔なのに目がすわってる! こんな顔ができたんだね!


「ミモザに少しでも逃げ道をつくったらいけないって」


 ひぃいいいいいい、全部わたしが原因ですね!! 

 ごめんなさぃいいいい!!




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