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13話

 



 お腹がいっぱいになって落ち着くと、首根っこの毛がカピカピしているのに気が付いた。


 なにこれ、なにこれ?


 慌てて後ろ足で首ねっこをかこうとするが、場所が悪くて足がとどかない。

 決して足がみじかいわけではないぞ!

 必死にもがいていると、ころんと横に倒れた。

 足みじかくないもんっ!


 首をできる限りひねってカピカピのところをふんふん嗅いでみる。

 もう乾いているからかだいぶ薄くなっているが、草をすりつぶしたような臭いがする。

 いつの間にこんなのついたんだよ!ともう一度後ろ足でかこうとすると、狼さんが顔でブロックしてきてとめられた。


 なんで? これ、とっちゃダメなの?


 狼さんの顔を見つめると、狼さんはそんなわたしにおかまいなくカピカピしている首根っこに顔をよせて臭いをかいだ。

 そういえば、そこは野犬に噛まれた傷のあたりだ。

 意識してみれば、昨日は熱をもってじんじんしていたのに今日はなんだかスースーして気持ちいい。

 狼さんが傷のてあてをしてくれたの?


 そして首をかしげる。

 でもどうやって?


 わきあがった疑問は、それよりも強くこみあげてきた尿意によってあっけなく霧散した。


 ダッシュで横穴にとびこんで必死でもがいて前にすすむ。

 だめ、お尻を押したらぜったいだめ!!


 狼さんをうしろに従えて外に出ると、昨夜のように吹雪いていた。

 うぅ、これじゃ母さんや父さんの様子を見に、ちょっと村に帰ることもできない。

 そんなことを考えていたら突風にあおられて、わたしの身体はころころと転がりだした。


 あ~れ~~、雪玉になっちゃう~っ!


 狼さんがすかさず回り込み、それ以上転がらないようにとめてくれた。

 おかーさん、本当に手のかかるわたしでもうしわけないです……。

 これじゃ村にいくどころか巣穴のまわりをうろつくことすら出来ないや。


 雪玉の危機をだっしたわたしは素早くからだについた雪を振り落すと、狼さんを風よけにして爆発寸前のおトイレをすませた。

 背中をむけている狼さんをかくにんし、座りこんでけづくろいをする。

 これが本当のお母さんと子どもの関係だったら、おトイレのあとを綺麗にするのはお母さんの仕事だ。

 頭が勝手にその光景をわたしと狼さんに変換してしまい……、全身の毛がぞわぞわと逆立った。


 するところは抜かりなくするし、控えるところはしっかりと見定める狼さんはとてもできるイケメン狼、いやイケメンおかーさんだ!


 前世では親が子供を甘やかしすぎて問題になることがあると、テレビで見たような気がする。

 だけどこのおかーさんなら、甘やかすだけじゃなくてビシッと突き放すところはしっかりと突き放してくれそうだ。


 なら、安心してとことん甘えてもいいかなぁ……。


「くぅ~ん」


 わたしはいまだ背中を向けている狼さんにそっと近寄り、甘えた声をだしながら頼りになる大きな背中に頭をすりすりしてみた。

 びくっとして頭だけ振り返る狼さん。

 すりすりし続けるわたしをしばらく見下ろして……。


「わぷっ!」


 背中にすりすりしていたわたしは、思いきりぶんぶんと左右にあばれだした狼さんの大きな尻尾にはねとばされた。

 吹き付ける風のいたずらもあり、そのまま雪の上をころころと転がりだす。

 そんなわたしを慌ててとめてくたおかーさんの尻尾は、はち切れんばかりにぶんぶんと暴れまくっていた。


 おかーさん、わたしが甘えたのがそんなにうれしかったか……。


 舌をだして白い息を吐きながら尻尾をぶんぶんと振っている狼さんをみると、わたしも嬉しくなってくる。


「……へっくち」


 狼さんを見上げながらわたしも尻尾を振りかえしていると、くしゃみが出て身体がぶるるっと震えた。

 だいぶ雪風に当たっていたせいで身体が冷え切ってしまったようだ。

 狼おかーさんにうながされて急いで横穴に顔をつっこむ。

 当たり前のようにお尻を押してもらって中に入った。

 中に入れば、当たり前のように体中についた雫を舐めとられる。


 わたしが甘えれば甘えるほど、狼さんの尻尾はぶんぶんと暴れてわたしも嬉しい。



 そんなこんなをしながら、また狼さんにくるまって眠りについた夜のことだった。




「…………?」


 巣穴に充満するものすごい臭いに目が覚めた。

 まだ半分ゆめの中で目が開かないまま、鼻をあげてすんすんと臭う。


「! ……けふっ、けふんっ!」


 吸い込んだにおいのあまりのきつさに思わずむせた。

 だいぶきつくて濃ゆいが、これはわたしの首根っこについていた草の臭いだ。

 狼さんか?


 背中がこころぼそくて背後をさぐれば、狼さんはいなかった。


「きゅ~ん……」


 さみしくなって寝ぼけ眼のまま狼さんの姿をさがす。 

 巣穴のはしっこで丸くなっている狼さんの影を見つけ、おぼつかない足でよたよたと駆け寄った。


 すぐに狼さんのしっぽがわたしを迎えてくれ、大きくてふさふさで温かい感触にすり寄った。

 尻尾から伝わるぬくもりに自然と瞼がとじてくる。


「やっぱり臭くて目が覚めたか。昨日は起きなかったら大丈夫と思ったんだけど、悪かったな」


 そんな声とともに頭をなでられた。

 何度も何度もなでられ、その感触がとても気持ち良くてもう自分が起きているのか眠っているのかすらよくわからない。


「外でしようと思ったんだけどさ、雪の中で人化して裸じゃさすがの俺も死んでしまうし。乾いたら臭いもだいぶましになるから、許してくれよ?」


 んふふ~、あなたいい声してるねぇ~。いいよいいよ、なんのことかわからないけど許しちゃうよぉ~。


 気を抜くと鼻からすぴすぴと寝息がもれる。いや、もうこれは夢の中かな。


「ま、お前の傷も熱が引いたみたいだし、この傷薬もこれで終わりだろ。こんな雪の中じゃなかなか生えてないからな。草をすりつぶすためとはいえ、何度もこの格好になってたら穴の中でも風邪ひいちまう…………」


 なんかまだ声がしてるなぁと思っていたら、首根っこにひやりとした何かが塗られる感触がした。

 それを最後に、わたしはかんぜんに眠りについた。




 次の日の朝起きると、わたしを見つめる狼さんの青い瞳が目の前にあって一気に目が覚めた。

 いやん、寝顔をみられちゃったぁ、と我ながらきもちわるく心の中で言ってみる。

 でもわかってる。

 狼さんは眠るわがこを見守るやさしい気持ちで眺めていたのだ。

 べつに恥ずかしがることはない。

 寝起きのかおを前足でわしわししながら、そういえば昨日変な夢をみたような?と思ったがよく思い出せなかった。


 朝の身支度がおわり狼さんの方をみると、すでに朝ごはんが置かれている。

 狼さんはあいかわらず自分は興味ないという態度で寝そべっていた。

 狼さんが何かを食べているところをわたしは見たことがない。

 いらないの?、と狼さんに鼻先を近づけてふんふんしたが、はよ食べろとばかりに顔で押しやられた。


 では遠慮なくいただきまーす。


 さて、いつもならここでがっつくところだが、今日のわたしは一呼吸おいた。

 いつも食べかすをつけて食べていては、成長がないおバカな子とおかーさんに呆れられてしまうだろう。

 今回は最初からおちついてお上品に食べてみた。



 結果。


「あひゃん、ひゃんっ!」


 いつものごとく、べろんべろんっに舐められました。

 次こそは頑張るからね、わたしはやればできる子なんだからね! おかーさんっ!



 その後、おトイレのためにお尻をおされながらお外に出た。


「わんっ!」


 いつも風や雪が凄かった外は、一面の雪景色は変わらないものの日が差して穏やかな天気になっていた。

 風でころころと飛ばされる心配はない!


 気づけばわたしは、まっさらな雪の上を飛び跳ねながら駆けまわっていた。

 ふとわれに返り辺りをみまわすと、わたしが埋もれたりはねまわったあとがてんてんとついている。

 なんだか体に違和感をかんじて首をかしげた。


 ……なんだかとってもスッキリしている……。


 もういちど注意深く雪原に残したわたしのあばれた跡を見る。

 ところどころ、……黄色くないかい?


「きゃいぃいいいいいいいんっ!!」


 なんと、わたしはうれションをして更にそれをあちこちにまき散らしていた。


 いやぁあああああああ、わたしこれでもおんなのこぉ!!

 何やっちゃってるのぉおおおお!!

 いや、犬だから今までマーキングしたりとか、もっとあちこちにマーキングしたいという欲求もあったよ!?

 だけど意図してまきちらすのと、気づかずに漏らしちゃってまき散らすのとはかなり違うよぉ!?


 思わず雪の中で激しくもだえうちながら、ごろごろとそこらじゅうを転がりまくる。


 い、いや落ち着けじぶん! わたしは身体はおんなのこだが、中身は男だ!

 だから何も恥ずかしいことはないんだ! 

 男だと何がセーフかは自分でも全くわからないが、そういうことにしておこう!

 うん、おれは恥ずかしくない!


 そう心にいいきかせ、ふと顔を上げるとじゃっかん引き気味の狼さんと目があった。



 あれ、何かデジャヴ?




青臭いカピカピ、何度か書き直したんだけど……(・ω・)

薬じゃなくてナニか別のと勘違いされた方いますか?

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