三箇日 2
三箇日が過ぎて、香月は思い立ったが早く、美穂の家を訪ねた。美穂との絆、想いをより深めようという気持ちが働いたのかもしれない。
香月はいてもたってもいられなかった。美穂の家を訪れた香月を、美穂は弟の陸とともに出迎えてくれた。陸という子は4つ年上の姉、美穂を慕っていて「まとわりついている」という印象だった。
美穂は香月の突然の連絡、そして訪問に少し目を丸くしている。
「どうしたの? 香月。新年早々」
美穂は香月を自分の部屋に招き入れ、香月の話、気持ちを引きだそうとする。陸も「キーン」と飛行機の真似事をしながら、なぜか一緒に美穂の部屋に来る。
部屋に身を置くと、香月は躊躇いがちに美穂へ話を切り出す。
「美穂、あのさ。高校、別々になっちゃうよね。だからさ。何ていうか」
その話を聞いて、美穂は香月が訪ねてきた理由が朧げに分かったのか、右手を軽くあげる。美穂は思いのほかサバサバしている。
「あー、そのことね。大丈夫よ。心配いらないわ。みんなと連絡はいつだって取れるし」
美穂は立て続けに淡々と口にする。
「それに一か月に一度は宮崎に戻るから。みんなとも時折会えるし。平気よ」
「平気」。その言葉を耳にして香月は少し安心した。美穂は香月達とのしばしの別れに特別寂しがったり、胸を痛めたりしていない。そう思うと香月はほっとする感情があった。だが美穂にまとわりついていた陸が悪戯っぽく笑う。
「『平気』って、姉ちゃん全然平気じゃないじゃん。この前も『一人ぼっちになるからどうしよう』って泣いてたし」
陸のその言葉を聞いて、美穂は慌てて彼の口を塞ぐ。
「ちょっ! そんなこと言うなし!」
陸は小気味良い笑い声を立てている。美穂は居心地悪そうに髪の毛を「もぉー」と言ってくしゃくしゃにする。
その様子を、香月は心に染み入るかのように見つめていた。香月は美穂に優しく話しかける。
「美穂、ムリはしないでね。寂しかったらいつでも連絡してね」
美穂は照れくさそうな、申し訳なさそうな素振りで、短めの髪を掻き上げる。
「いや、まぁ、その。それは」
香月は、美穂を真っ直ぐ見据えてもう一度言う。
「連絡してね」
美穂は香月の実直さに触れて笑みを浮かべる。
「アリガト。香月」
そう力強く礼をする美穂の姿は、いつもの力強い美穂のそれだった。香月は美穂の両手を握りしめると、何度も何度もそれを揺さぶる。
「ちょっと香月」
「だって」
二人の仄かな友情の滲む様子を見て陸は笑って冷やかす。
「何だよ。これ」
そうして香月は美穂の心情、想いを確かめると、彼女の家を後にする。時間はもう昼過ぎになっている。
強い陽が照り付け、仄かな温もりが香月に与えられている。香月が帰路を急いでいると、彼女は自転車に乗った俊哉に偶然出会った。
俊哉に訊くと、彼はこれから叔母の家にお年玉を貰いに行くという。
「欲しいものは欲しいってはっきり言わなきゃな」
そう言って笑う俊哉は、香月の目元が赤らんでいるのに気が付いた。俊哉は少し言葉を無くし、あえて朴訥と香月に尋ねる。
「お年玉、たくさん貰ったか?」
その気遣いに満ちた、元旦娘を当の元旦のめでたさに引き込むかのような、俊哉の問い掛けに香月は少し笑顔を見せて、一言だけ答える。
「うん。アリガト」
香月のその言葉を聞いて俊哉は安心したようだ。自転車をゆっくりと漕ぎ出す。俊哉は最後にこう一言言い残す。
「そうか。なら良かった」
自転車で走り去っていく俊哉を見送り、香月は目元を袖で拭う。香月はまた帰り道を鼻歌混じりに歩き出す。もう彼女には先までの憂いはなくなっていた。
家路につく香月には穏やかな陽射しが降り注いでいる。
一姫二太郎。俗に最初に長女、次に長男が産まれることで、育児の負担が軽くなるのを期待する言葉。
そのせいで長女には何かと期待をかけられることが多い。ただ今日に限っては、美穂は弟の陸に救われたようである。




