勉強会 2
迎えた勉強会当日。紅葉が色づく並木道。勉強道具一式を胸に抱えた桜は、小走りで香月の家に向かっている。香月の家に着いた桜を、香月が出迎え、五人は無事集結する。
香月の部屋で顔を見合わせた五人は袖を捲りあげる。まず最初に勢いづいたのは夏樹だ。こう怪気炎をあげる。
「さぁ。さっさと片付けちゃいましょう」
勉強会はその夏樹の意気込み通り、夏樹と桜のリードでテンポ良く進んでいく。
夏樹は理系、桜は文系が得意で、皆の不得手なジャンルを補っていく。淡々と進む勉強会。だがやや単調になってきた気がしたのか、夏樹は試しにテコ入れをする。
物理の問題につまづいた美穂と香月に注文をつけたのだ。
「こんな問題も分からないの? やってらんない。やめたやめた」
桜が寂しげな表情を見せて、夏樹を止める。
「夏樹さん」
美穂は勝負魂の塊だ。ケチをつけられて黙って引っ込む女の子ではない。彼女は負けん気を前面に出す。
「ムッ!」
美穂が挑発に乗ったのを目に留めると、夏樹はさらに悪乗りする。
「あー、お馬鹿さん達を相手に勉強教えるのも大変ね。お手当貰わなくちゃ」
その言葉を耳にした美穂はいよいよ熱くなって香月に呼びかける。
「香月!」
「何? 美穂」
よく状況を掴めていない香月が、美穂にそう返事をすると、美穂は香月に言ってのける。
「物理をスムーズに解いて夏樹を見返してやりましょう!」
「うん。やっちゃいましょう!」
元旦は鷹揚な日だ。何かの対価としてではなくても、お年玉という小遣いをもらえるありがたい日だ。その鷹揚さで香月は固く美穂と手を握り合った。
夏樹は二人の様子を見て満足そうだ。笑みを浮かべる夏樹に、桜が小声でこう尋ねる。
「あの、夏樹さん。あんなこと言っちゃって良かったんですか?」
「大丈夫、大丈夫。これくらいの刺激なけりゃ、みんなで勉強する意味もないっていうね」
美穂と香月は必死に物理の問題を解いていく。夏樹が得心して桜に囁く。
「それに。見なよ。あの二人。効果ありありだったみたいだね」
「そうですね」
桜は夏樹の荒療治にフムと感心した。一方朱美だけは黙々と自分のペースで苦手分野の化学に励んでいた。こうして勉強会は順調に進んでいく。
一方その頃俊哉と健はゲームセンターで呑気に遊んでいる。健にはその時間が無性に無為に感じられたのか、時計を確かめると、サッカーゲームに夢中になる俊哉に尋ねる。
「なぁ。俊哉。お前、本当にいいのか?」
「何が」
俊哉はあっさりとそう返すだけだ。健はなおも俊哉を気遣いながら、彼の気持ちを尋ねる。
「『何が』って高樹のことだよ。違う高校に行っちゃうんだぞ」
「うん。それが?」
俊哉の言葉に健は呆れて、拍子抜けするしかない。
「『うん。それが?』って。あのなぁ」
俊哉は何事にも熱中する気質だ。カードを熱心に動かしながら答える。
「まぁ、とりあえずお前と同じ高校に行けるくらいにまでは頑張るわ」
その俊哉の声と交差するようにして、俊哉の操るサッカー選手がゴールを決める。ゲームの筐体からけたたましい実況が聴こえてくる。
「ゴォ―――ル!!!」
それは虚しくも悲しい、俊哉の心境と立場と対比するように華やかに響いていた。




