勉強会 1
リオネル・メッシ。リーガ・エスパニョーラ、FCバルセロナ所属。イタリア系アルゼンチン人サッカー選手。2009年から2012年まで世界最高峰のサッカー選手に贈られるパロンドールを四年連続受賞。
名実ともに認める2000年代後期から2010年代初期のサッカー界のスーパースターである。
俊哉はサッカーゲーム機で使うメッシのトレーディングカードを見つめて、ブツブツとメッシの華麗なるキャリアをそう語っている。健は健で、俊哉のいうことにはさほど関心がなさそうに自習に励んでいる。
元旦にはやはり日本晴れがよく似合う。そんな二人の様子を見届けたのか、香月は晴れやかな表情で、向い合った夏樹達四人に切り出す。
「と、いうことで」
弁当を食べる真っ最中だった夏樹らは香月に振り向く。夏樹は箸をくわえて訊き返す。
「いうことで?」
香月は頬を緩ませて、破顔一笑、みなに伝える。
「私、勉強次第で進学校に行けるかも、だって!」
「へー、そりゃスゴイ」
朱美はいつも感情を余り表に出さない。そのせいで無感動な子という印象を持たれがちだが、決してそうではない。取り澄ました顔で心の底から朱美は感心した。美穂も言葉を添える。
「よかったじゃない。香月」
美穂に祝福されて、香月は両手を叩く。
「ありがとう! でさぁ」
『でさぁ?』
夏樹達四人が訊き返した。香月は合いの手で提案する。
「私のウチで勉強会やらない? 決起集会も兼ねてさ」
夏樹は「団結」とか「集結」とかいった、みなが一丸となる言葉が、多分幼い頃観た戦隊ものの影響だろう、意外に好きだ。彼女は即座に反応する。
「いいねー。それ。決起集会ってとこがまた!」
だが事情は人それぞれ。美穂が少し困ったように口にする。
「ちょっと待ってよ。推薦決まってる私は? 仲間外れ?」
夏樹がストレートに美穂に告げる。
「美穂も一緒に勉強すればいいじゃない。カッコ悪いわよー。頭の悪いアスリートって」
美穂は引きつった笑いを浮かべて、箸を強く震える手で握る。
「随分、言いたい放題ね」
いつもの夏樹と美穂の茶化し合いを見ていた朱美が、徒然と話し出す。
「そのアイデアいいかも。私も進学校行けるかどうか『ギリギリかも』って高橋先生に言われてるの」
「そうなんだ」
香月が朱美に心を寄せた。朱美は香月のアイデアに乗る。
「みんなと高校別れたくないし。桜と夏樹がいるなら勉強もはかどるし。やりましょう? 勉強会」
朱美が賛成したのを見て、美穂が自分を指さす。
「私はどうしたらいいのかな?」
「頭の悪いスプリンター」
夏樹が美穂の耳元で囁くと、美穂は吹っ切れるものがあったのか、彼女は即座に返す。
「よっしゃ、やる」
こうして次の日の日曜、香月宅で五人総出の「勉強会」が行われることになった。五人が一致団結する光景をぼんやりと見つめていた健が俊哉に訊く。
「勉強会だってよ。熱心だな。俺達はどうする?」
俊哉はトレーディングカードのメッシに夢中だ。何やら一人実況をしている。
「メッシ! 切り込んで! ここで一旦ボールキープ! そして左足で!」
自分の世界に没頭している俊哉に健がもう一度呼び掛ける。
「なぁ、俊哉。どうする?」
「ん? 何? FCバルセロナのことか?」
どうやら俊哉は本腰を入れて受験勉強をするつもりはないらしい。そんな彼を前に健はこう零すしかない。
「夢中ってのは大事だよ。夢中ってのは。何事もな」
「何のこと?」
無邪気に俊哉はそう返すだけだった。




