三者面談 2
それから三日後に始まった三者面談は順繰りに行われて、いよいよ香月の番となった。香月、高橋の間に同席したのは、香月の母の沙織だ。
沙織は少し浮足立って、高橋の口にする娘の学校での様子に耳を傾けている。
沙織の赤を基調にした服が、彼女の落ち着かない心持ちをより一層際立たせていた。
高橋は頬を一度軽く掻いたあと切り出す。
「あー。娘さんの学校での生活態度は大変よろしいです」
「そうですか。ありがとうございます」
安心したように沙織は胸を撫で下ろす。香月は嬉しそうに母の様子を見ている。沙織は未だ紙芝居の続きをねだる子供のように、両掌を合わせている。
次いで高橋は香月の学校での成績に触れる。
「それに娘さんは意外に学業優秀でしてね。これからの勉強次第では」
「次第では?」
沙織が目を輝かせて身を乗り出す。高橋は乗り出してきた沙織の体から身を引くようにして応える。
「県内一の進学校にも行けるかもしれません」
「ホントですか!?」
沙織はその話を聞いて色めきだつ。香月は悪戯っぽく、くるくると変わる母の表情を見守っている。その他の要点について高橋がまとめたあと、香月の三者面談は無事終わりを告げる。
その帰り道。沙織の運転する車の中で、沙織は興奮気味に話す。
「香月、あなたって勉強出来たのね。いや通知表から何となくわかってはいたんだけど」
沙織の話を聞く香月は、後部座席で軽く腰を浮かせてバウンドしている。その瞳は楽しげだ。沙織は香月に発破をかける。
「進学校行けるなんて夢じゃない! お願い。家計を助けるためにもガムバッテ!
」
「はーい。わかりました」
血相を変えた様子の沙織からの要望に、香月はそう間延びした声で応えた。だが香月自身満更でもなさそうだった。
一方俊哉の三者面談。俊哉と一緒に高橋と向い合うのは勿論、母の真奈美だ。彼女は心配げに高橋に訊く。
「で、どうでしょう? 息子の学校での様子は」
高橋は気楽な感じで髪を掻くと答える。
「あー、至って健康な男子生徒です。友達関係も良好です」
「良かった!」
彼女は両掌を合わせて喜ぶ。だが申し訳なさそうに高橋が付け加える。
「あー、しかし勉強の方なんですが」
「ですが?」
真奈美もパブロフの犬の如く、沙織同様身を乗り出して訊く。
「少し。あのー、何というか。あまりよろしくなくて。このままじゃ高校に進学するのがギリギリかと」
「げげんっ!」
思わず真奈美の口から奇声がついて出る。だがしかしすぐにおしとやかに取り繕う真奈美。
「失礼しました」
「いや、結構です」
高橋も軽く彼女を落ち着かせた。そのあと俊哉の三者面談は、今年俊哉が随分と生徒指導の加賀に目をつけられていた旨を告げて終わった。
帰りの車の中。真奈美は燃えていた。彼女の瞳に炎が灯る。
「俊哉ー! 頑張らないと困るわよ。今からでも遅くはない。目指せ進学校!」
俊哉は気負わずに答える。
「進学校は無理だよ。母ちゃん。まぁ、困らせない程度に頑張るけどな。気楽に行きましょー」
その間延びした声を聞いて、真奈美はがっくり肩を落とすしかない。
「やっぱり私とあの人の子ね。どう転んでも」
「それ言うなし」
俊哉はまたしても同じセリフを口にせざるを得ない。真奈美は気を取り直して俊哉を奮い立たせる。
「よぉし! 今日は焼肉奢っちゃる! ガンバってくれないと困るわよー」
「ひぇえぇええ!」
そう俊哉の悲鳴を残して夜の繁華街へ、真奈美の運転する車は走り去るのだった。
やがて三者面談は、夏樹、美穂らと順調に進み、三者面談ウィークは終わった。。




