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香月  作者: keisei1
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文化祭 5

 文化祭開幕。花火が打ち上がる中、他校の生徒、一般の顧客も招かれて盛大なスタートを切る文化祭。各主催者が趣向を凝らした催し物に一興を見い出す人々はそれぞれ悲喜こもごもだ。


 香月達の舞台の開演時間は、午前一時と午前四時の二幕。開演前までセリフの確認、稽古に励んだ香月達はいよいよ第一幕を迎えた。夏樹が柄にもなく唇を青くして緊張する。



「上手くいくかしら」


「大丈夫よ。セリフは至極簡単。中身もシンプルイズベストなんだから」



 余裕綽々の美穂に、朱美が茶々を入れる。



「金返せコールが起こったりしてね」


「ふぐ。それはないとは思うけど」



 そう言って気丈に振る舞う美穂。美穂は香月と桜の二人に視線をやる。



「あの二人を見てると、若干心配になるわね」



 香月と桜は開演前だというのに、相も変わらずアドリブの「あの歌」を歌っている。



「今日も明日も朝日が昇る♪ お天気ポンポン平和だね♪」



 やがて舞台開演。テンポよく話は進み、一つのとちりもなく、手際よくまとまった感のある香月達の舞台。だがやはり、というか致し方なしというか。予想外の裏切りが最後に待っていた。


 クライマックス。香月演じる勇者は、王女役桜を前にして口にする。王女が眠りから覚めないのだ。



「やや! これはどうしたことか! 折角魔女から助け出したというのに」



 そこへ「謎の秘薬売り」に扮した朱美が登場する。朱美は「イヒヒ」とあさましい声を立てて笑う。



「まだ魔女の魔法が解けていないのです」


「魔法? それを解く方法は?」



 マントを翻し、颯爽として、秘薬売りを問い質す香月。朱美扮する秘薬売りは紫色の飴玉程度の薬を取り出す。



「この『秘薬』を魔女の口に放り込むことです。ほら噂をすれば」



 舞台袖の美穂が雷鳴の効果音を流す。と同時に魔女役の夏樹が姿を現す。



「王女は私の『若さの源』! 決して渡すまじ!」



 舞台袖で美穂はここまで上出来の芝居に、感極まっている。彼女は拳を握りしめる。



「迫真の演技ね! 夏樹」



 夏樹の華麗なる演技、独壇場は続く。



「それを邪魔立てする勇者よ。ならばまずはそなたを平らげてしまおう!」



 そう言って夏樹は大口を開けて香月に食らい付こうとする。大きな影を背後に伴い、香月に覆いかぶさろうとする夏樹。


 その瞬間。



「ホイ! コーロー」



 そう言って香月は秘薬を夏樹の口に放り込んだ。同時に身悶えを始める夏樹。彼女は顔を覆い叫ぶ。



「私の美貌がー!!」



 舞台袖に逃げて行く夏樹。見事元旦勇者、香月の手によって魔女夏樹は退散させられ、駆逐されたのである。全ての罪と罰を浄化するような声色の、美穂のナレーションが入る。



「こうして魔女は退散していく。平和の戻った異世界で、勇者は果たして王女の愛を選ぶのか、それとも現実世界へ戻るのを選ぶのか。いかに!?」



 美穂の力の籠ったナレーションをBGMに、香月は目覚めた桜に跪き呼び掛ける。その表情は憔悴しながらも、全てをやり遂げ、達成感に満ちた顔だ。



「王女様、この世界に平和が戻った暁には」



 桜は瞳を輝かせて、香月の腕の中、問う。



「暁には?」



 その様子を見た美穂は思わず口に出す。



「げげ。何かヤな予感」



 悪い予感。悪い予感とは往々にして当たることがある、と先人が言ったとか言わないとか。美穂の予感は見事的中してしまう。


 香月と桜の二人は本番前のアドリブを取り入れてしまったのである。



「陽が昇ります」


「おーなんということ!」



 二人して愛らしいダンスを踊って締めくくる香月と桜。



『今日も明日も陽が昇る♪お天気ポンポン平和だねー♪』



 美穂は無表情に幕を降ろした。まばらな客席からの拍手。美穂は舞台袖に戻った香月と桜をたまらずに咎める。



「あそこは最後二人のラヴシーンだったでしょ!」



 二人は悪びれる様子がない。香月が、そして桜が返す。



「だって歌いたかったから」


「はい! そうです」



 美穂は台本片手に頭を抱える。



「これじゃ折角作った台本が台無しね」



 桜が握り拳を作って宣言する。



「『ミュージカル』でしたね」



 その様子を見て、美穂はがっくり肩を落とす。



「まっ、いっか」



 その会話を横目に、顔を覆い続けていた夏樹が呻いている。未だ絶世の美女の設定である魔女の役柄から抜け出せていないらしい。夏樹はおどろおどろしい声色で叫ぶ。



「私の美貌がー!」



 場所変わって、加賀を筆頭とする生徒指導一派は、俊哉達の「お化け屋敷」に集まっていた。加賀はあの失態を二度と仕出かすまいと心に決めているようだ。


 加賀は皆に発破を掛ける。



「この間はとんでもない醜態を晒してしまったが、今日は身を引き締めて行こう」


『はい!』



 そう一致団結すると、加賀ら四人の教師は俊哉達の「お化け屋敷」に恐る恐る入っていく。



 まず最初に彼らを出迎えたのは血染めの花嫁人形だった。



「どわぁあああ!」



 一人、先生が退散していく。だがまだ加賀は後退しない。意を決して足を踏み出していく。続いて現れたのはパワーアップした化け物。今度は口に、もがれた足をくわえている。



「ぎぇぇぇええ!」



 今度は二人、先生方が退散。そして最後の留め。残った一人、加賀に襲い掛かったのは、少女を飲み込みかけた蛇の化け物だった。



「どわぁあああ!」



 これで加賀ら先生方は皆、駆逐されてしまったのだった。蛇の張りぼてに入っていた俊哉が、そして健が零す。



「随分、呆気なかったな」


「ねぇ」



 香月達の二度目の舞台も無事幕を降ろし、俊哉達のお化け屋敷は中々な好評を得て、文化祭はグランドフィナーレへと向かった。


 グランドフィナーレで執り行われるのは「歌ってみた」大会。つまりカラオケ大会だった。


 多くの歌い手達がボカロやアニソンを選ぶ中、ただ一人、演劇での鬱憤を晴らすかのように夏樹はハードロックを熱唱した。


 皆が耳を塞ぐ中、同じくハードロック好きの高橋だけが喝采を送る。



「いやぁ! 今村。良かった! 最高!」



 温故知新。時には古くを訪ねて、新しきを知るも良いようである。

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