文化祭 4
「演劇」と看板の立てられた教室で、舞台の最後のセッティングに追われる夏樹が不満げにふと零す。
「美穂、最後のセリフ。どうにかならない?」
「ん? どれ?」
「『ギャー! 私の美貌がー!』って奴。これって『美貌』が崩れちゃったってことでしょ?」
美醜にあくまでもこだわる夏樹の質問に、美穂は自信を持って返す。
「大丈夫よ。『魔女退散』! 『怨霊退散』! が一番盛り上がるんだから。任せなさい」
「何か私だけ損してない?」
美穂のピント外れのというより、はぐらかしに聞こえなくもない、返事に眉をしかめる夏樹。美穂は自信を持って妄執にも似た瞳で夏樹の肩を叩く。
「気のせいよ。夏樹」
「そう?」
腑に落ちない夏樹は目を寄せる。夏樹は少し気分転換に、とでも思ったのかふと稽古中の桜と香月を見た。
香月と桜は何やら二人でアドリブを楽しんでいる。香月が王女、桜の前に跪く。
「王女様、世界が平和になった暁には」
王女役の桜が胸をときめかせて両手の指を絡めあわせる。
「暁には?」
平和になった暁には、元の世界へと還る主人公の別れの言葉か、求婚か。だがその期待を裏切るように、香月はナンセンスギャグをかます。
「陽が昇ります」
「おー、何ということ」
桜もおどけて冗談に乗ったあとに二人は声を合わせて即興の歌を唄うのだった。
『今日も明日も陽が昇る♪ お天気ポンポン平和だねー♪』
夏樹が美穂に尋ねる。
「あの二人、放っておいて大丈夫?」
「大丈夫! だと思うけど。うーん、何だか不安になってきた」
美穂はメガホン片手に軽く舌を出すしかない。一方俊哉達、男子八人の精鋭部隊は、グロテスクな化け物に、更なる趣向を凝らしていた。彼らはその出来映えに自信満々だ。
俊哉達が目指すは、加賀先生一派を心底から驚かすこと。俊哉が大海原に漕ぎ出す船の船長よろしく皆に告げる。
「あー、我々の目的は、加賀先生を筆頭とする生徒指導一派の先生方を退散させることである」
俊哉は人差し指を立てて誇らしげだ。
「我々は、その為に最善を尽くした」
健が彼の話しっぷりに口元を抑え、笑を必死に堪えている。俊哉は話を締める。
「皆、心して掛かるように。健闘を祈る」
その言葉を聴いて七人は拳を振り上げて声を揃えるのだった。
『おー!』




