読書週間 3
やがてみなが読書感想文を提出し終えた、次の現国の授業。高橋は優れた感想文を書いた二人を選んで、その子に読ませた。
選ばれたのは香月と意外にも俊哉だった。
香月は所々照れくさそうに感想文を読み進めていく。そのことからディズニーの描くヒロイン像に、香月が心底からは同化出来ていないことが窺える。だがやがて感想文の締め括りに入ると、香月は言葉に力を込める。
「私の『理想のヒロイン像』は」
ここは提出間際まで、香月が書き淀んでいた箇所だ。そして夏樹達の助け舟で香月がラストを仕上げたのを、多くのクラスメートが知っている。みなが息を大きく吸い込む香月に注目する。
「王子様やダイヤモンドより『友達を選ぶ女の子』です!」
その言葉にクラス中は色めきだち、高橋は目を細めて微笑ましげに香月を見つめている。香月は滑らかに読み進める。
「友達のためなら例え火の中、水の中、地球の果てのブラジルにだって飛んでいく。そんなヒロインが私の理想です」
夏樹達は互いに目配せしあい、香月の感想文の完成度に満足している。香月は最後にこう付け加える。
「友達を苛めるモンスターが現れようものなら、それが例え火を吐くドラゴンだって成敗してみせる。私はそういうヒロインになりたいです。以上高樹香月でした!」
元旦の後光再び。彼女の感想文は白けムードの一部の子でも、皮肉屋でニヒルな子でも心を揺り動かすに十分だった。元旦、打ち震える。こうして大きな拍手に包まれて香月の発表は終わった。
拍手の只中、席に腰を降ろす香月。ひと仕事を終えた香月は、俊哉に視線を送る。今度は俊哉の番だ。香月は夏樹に訊く。
「俊哉君、どんなの書いたんだろう」
「どうせくだらない悪ふざけよ」
「そうかなぁ」
香月は夏樹の嫌味を真に受けられず、鵜呑みにすることも出来ずに、俊哉の感想文を読み上げる声に耳を傾ける。
俊哉は息を一つ大きく吸って、いよいよ感想文を読み始める。俊哉を注視するクラスメート。俊哉は声をあげる。
「僕にとって最高の本とは。それは『お母さん』です」
教室が意外過ぎる俊哉の切り口にややどよめく。俊哉は構わずに読み進める。
「どんな派手なアクションがあるSF小説よりも、どんな巧みなトリックが仕掛けてある推理小説よりも」
香月はその間、俊哉のある種の優しさに触れるにつけ、穏やかに彼を見つめている。俊哉は声に抑揚を持たせて言い切る。
「それは『お母さん』という本には敵いません」
健は、俊哉の暴かれた手の内に観念したのか、やや照れくさそうに頬を掻く。俊哉は感想文を読み進めて最後を締めくくる。
「僕はそんな『お母さん』という本が世界で一番好きです。以上西島俊哉でした」
しばらくの沈黙。そしてぽつぽつと起こる拍手。そして大きな喝采。
見事に奇抜なアプローチの、俊哉の感想文はみなの心を打ったのだ。満足げな高橋はこう言葉を添えて授業を終える。
「みんなの感想文、それぞれ趣向が凝らしてあってとても良かった。西島と高樹だけじゃない。みんなの思いは先生の宝物だ。だから感想文は先生の家宝にさせてもらうよ」
高橋の包容力にみながほだされて、満足げにしていると、高橋は教室を出ていく。それと同時に男子生徒が冷やかし半分に俊哉のもとに集まってくる。
男子生徒はからかいながらも俊哉の感想文を褒めちぎっているようだった。
その様子を見た夏樹は右肘をついてこう零す。
「あいつも中々いいとこあるじゃない」
「だね。そうだよね! 夏樹」
そう返事をした香月の瞳はとても輝いていた。
某著名人の話。感想文を書く手間を省くために「桃太郎」という誰もが知る題材を選んだ彼。
彼と同じく誰もが知る題材「母親」を選んだ俊哉は、本を読む手間を、感想文を書く手間を省こうとしたのだろうか。
その真相はクラスメートに頭を小突かれて嬉しそうにしている俊哉に現れているようである。




