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香月  作者: keisei1
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夏祭り 2

 一方その頃、うだるような暑さの中、うだるような暑さの自室で熱を下げようと必死になっているのは俊哉だ。


 風邪で朦朧となりながら、薬箱を開けて風邪薬を探すも見つからない。俊哉は熱を下げるためにはあらゆる手段も厭わず、彼の首にはネギが巻かれている。 


 俊哉はぜぇぜぇと荒い息を吐きだしながら、額の汗を拭う。



「何としても治さなければ。浴衣が」



 看病をしているはずの真奈美は食材を買いに出掛けている。その隙を窺って俊哉は玉子酒を作ろうとキッチンへと向かう。首にネギ巻き、玉子酒。まさに手段選ばずである。


 おぼつかない足取りで、ふらつきながらもコンロに火を点ける俊哉。だが彼の計画は脆くも、その母の帰宅で打ち砕かれる。買い物袋をぶら下げて、帰ってきた真奈美は火を止める。



「あんた何してんの? 寝てなさいって言ったでしょ!?」



 ベッドへ首根っこを掴まれて、連れられていく俊哉は、うわ言のように呟く。



「た、玉子酒」


「玉子酒!? 未成年の分際でそんなもの作るんじゃないの。はいベッドに横になって」



 真奈美は俊哉をベッドへ強引に寝かしつける。あがけばあがくほど、俊哉の熱はより上がってしまったようだ。残念なり。欲望の行き着く果ては地獄の八丁目か、はたまた。俊哉はもどかしげ真奈美に訊く。



「母ちゃんこそ何してたんだよ」


「これ見て」



 真奈美の表情は嬉しそうだ。目を輝かせて手にぶら下げた買い物袋を俊哉に見せる。俊哉が覗き込むと、中には梅といわしが入っている。



「そんなもんどうすんだよ」



 梅といわしと「熱」のつながりに今ひとつピンと来ない俊哉は、半ば投げ槍気味だ。真奈美は嬉々として息子の回復を願い、話を聞かせてみせる。



「『いわしの梅佃煮』作ってあげる。風邪に利くらしいわよ」


「風邪に、利く」



 そう言い終える間もなく、俊哉は疲労と衰弱がピークに達したのか眠ってしまった。真奈美は優しく俊哉に毛布を掛けると、微笑む。


 真奈美が向かうはキッチン。息子をナイチンゲールよろしく救い出すための、「いわしの梅佃煮」作りが彼女を待っていた。


 その頃花火大会の場所取りに奔走する香月は、思わぬ苦戦を強いられていた。


 香月はまず目をつけたのは公園だ。公園からの見晴らしはとてもよく、花火をゆったりと鑑賞するには最適だからだ。


 しかしみな考えることは同じなのか、公園のめぼしい場所は既にキープされている。


 散々公園内を歩いてまわった香月は、大きな木の下にビニールシートが幾つも折りかさんであるのを見つける。香月は思案げに口元へ指をあてる。



「これは、まだ場所取りになってないわよね」



 そう一言勝手に結論付けると、香月はビニールシートを隣へどけて、図々しくも御座を敷いた。だがしかしそれはやはり無謀な策であったか、香月の後ろから男性の声が響く。



「こら! そこ。何やってんだ! その場所はもう確保済み!」


「ひぃぃぃい! すみません!」



 香月は平謝りするしかない。彼女は慌てて御座を仕舞うと次の場所へと向かう。このままでは「夏祭りの香月」の面目が丸つぶれになってしまう。


 香月は自分を再度奮い立たせると、花火の場所取りに臨む。


 次に香月が見つけためぼしい場所は、遊戯具近くのちょっとした砂地だ。だがそこには既にワイシャツ姿の男達が集まっている。


 彼らはもう場所取りをしているらしい。


 香月、無念。元旦の朝日昇らず。彼女がやむなくその場を離れようとすると、泣きっ面に蜂、悪いことは続くのか、ヤンキーのカップルに肩がぶつかってしまった。男が眉をしかめて香月を睨む。



「何だ、お前」


「す、す、す、すみません!」



 香月はひたすら頭を下げて一目散に逃げ出す。朧月夜を駆け抜けていく最中、込み合う公園と通りで香月は、たくさんの人にぶつかってしまう。その度に彼女は謝るしかない。



「おっと」


「すみません!」


「キャッ、何よ!」


「失礼しました!」


「わっ! 大丈夫? お嬢ちゃん」


「とんでもないです! 私が悪いんです!」


「ちょっと何よ! あなた!」


「ひぇえええ! お許しを!」



 そうして香月は息を切らして、世間の荒波にもまれる、新卒サラリーマンの如く、人波にもまれ、汗だくになり抜け出すと、何とか河川敷にまでは辿り着く。


 河川敷の人影はまばらだ。香月は少し肩を落としながら零す。



「ここじゃ花火あんまり良く見えないや。仕方ない。夏樹達にはあとで謝ろう」



 香月そう寂しげに呟くと河川敷の、辛うじて花火が見える場所に御座を敷くのだった。


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