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香月  作者: keisei1
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サバイバルゲーム 3

 香月達と俊哉、健がニアミスを起こして二日後。いよいよ休校日。サバイバルゲーム実戦の日が来た。夏の涼しげな風が吹きすさぶグラウンドで、香月達は胸にセンサー、手に光線銃を装備している。


 香月達は輪を囲むようにして向い合い、ルール説明をする夏樹の話を聞いている。夏樹は得意げにその場を取り仕切ってみせる。



「まず一人倒すごとに三Pね。幸運にも最後生き残った人は五P。それから順に四、三、二、一Pとポイントを獲得出来るわよ」



 互いに視線を交わし合い、ライバルとして認め合う香月達は頷く。夏樹はルールを纏め上げる。



「獲得ポイントが一番多かった人が優勝。だから逃げ回ってばかりじゃ勝てないってことね」



 香月が、そのシンプルだが絶妙なポイント配分制を耳にして、拳を握り締める。



「積極的に相手を倒しに行かなくちゃいけないのね」



 夏樹は肝をわきまえた香月に満足そうだ。気取って人差し指を顔の手前で揺らしてみせる。



「そう、その通り」



 夏樹は、みながルールを了承したのを確かめると、両手を大きく広げて、解散を命じる。



「さぁ、みんな校舎に散らばって。使っていい場所はあえてA校舎のみ。今から10分後に始めるわよ」



 夏樹の号令に鼓舞されたのか、黒炭火焼チーター、美穂が本気印の勝負のトレードマーク、白い鉢巻きをする。美穂は猟奇性さえ漂う瞳をぎらつかせる



「みんな容赦しないわよ」



 夏樹も負けていない。軽く顎を上げて、美穂を挑発してみせる。



「こちらこそ」



 火花が一通り夏樹と美穂の間で散ったことを皮切りに、五人はA校舎内に散らばって行く。青空に吹き上がる気持ちのいい風をグラウンドに残して。



 俊哉は母子家庭だ。母の真奈美が子育てと仕事を両立させて、すくすくと育つ俊哉を見守っている。


 俊哉と真奈美の関係は兄弟のようで二人の会話はいつも軽く、テンポがいい。俊哉は、渡されたお金とメモを見て、真奈美にお遣いの中身を確かめる。



「母ちゃん、お好み焼きと大根って、今日の昼飯どんなんだよ」



 真奈美は快活に笑い飛ばす。



「風呂吹き大根をお好み焼きに添えるのよ。豪華じゃない」


「食べ合わせってのがっ」



 俊哉がそう言い掛けるも、真奈美には俊哉は敵わない。彼女は俊哉をけしかける。



「ほらほら、ゴチャゴチャ文句言ってないで買いに行く。レッツゴー!」



 そんな一部粗雑にも見える扱いをされるのも、俊哉は真奈美との信頼関係からか嫌いじゃない。俊哉は渋々承諾する。



「分かったよ」



 そう言い残して俊哉は、学校近くのお好み焼き屋「鉄板」に向かった。


 一方その頃、A校舎では早速サバイバルゲームが始まっていた。みな緊迫感の中で、相手の出方を窺い、ポイントをより多く獲得しようと、相手の動きを見極めている。


 この手の身体能力と運動神経が試される遊び、ゲームではやはり最初に狙われるのは桜になってしまうようだ。黒炭火焼と、オールラウンダーの夏樹は案外に強敵だと目されているらしい。


 それゆえかまず最初に香月が、渡り廊下を拙い足取りで歩いていた桜を仕留めてみせる。桜は自分も結構やれる、戦えると思っていたのか心底残念そうだ。


 「あらー」と言って肩をガックリと落としうなだれる。香月は右掌を掲げて、桜に詫びる。



「ゴメンね。桜」



 桜は自分のどん臭さを嘆くしかない。



「いいえ。鈍い私が悪いんです」



 桜は恥ずかしそうに頭を下げる。幸先よく、見事三Pを獲得した香月はすぐに次のターゲットを探すため、渡り廊下を駆け抜けていく。


 次に動きが出た、つまり決着がついたのは炭火焼チーター、美穂対朱美だった。


 足の速さで遥かに勝る美穂が、下駄箱周辺で標的を今ひとつ絞り切れずにしていた朱美の胸元に飛び込んで、光線銃を撃ち込んだのだ。


 センサーが鳴り響くのを確認して朱美は珍しく勝負根性を出す。



「あーあ。やってらんなーい。面白くなーい」



 美穂の瞳は爛々と輝く。獲物をしとめるのはチーターの定め。幼い我が子達が血肉を求めているのだ。美穂はサバンナの掟を知らない朱美に言い放つ。



「悪いわね。朱美。これも勝負の内よ」



 そう言い残して美穂は颯爽と「宿敵」夏樹を探しに行くのだった。


 その頃、夏樹は更衣室に身を潜めて作戦を練っていた。オールラウンダーであることが特徴である夏樹は、頭を使えば、ある種狡猾にでもなれば、身体能力で夏樹に勝る美穂を仕留めることが出来ると考えたのだ。


 「考えることにかけては所詮美穂は単細胞」と、夏樹は胸の内であえて罵詈雑言を美穂に浴びせかけて、考え抜く。


 まずまともに行けば瞬足の美穂には敵わない。向い合って勝負するにも動体視力のいい美穂に分があるだろう。ましてや、走りながらの勝負となると美穂に一日の長どころか一億年の長がある。


 そう考えた夏樹は、美穂を倒すには「不意打ち」しかないと結論付けていた。


 自分で仕掛けるには余りに危険。そう考えて、更衣室で夏樹が息をひそめて美穂を待つこと数分。夏樹の思惑通り、美穂が彼女を探しに廊下へとやってくる。



「チャーンス!」



 瞬間、そう大きな声をあげて、夏樹は美穂のセンサー目掛けて光線銃を発射する。


 美穂の運動神経ならかわせないでもなかったが、残念ながら余りの至近距離。胸で鳴り響くセンサーを前にして美穂は手を広げる。



「『不意打ち』なんて卑怯よ。夏樹」



 夏樹は舌を出してみせる。



「ふふーん。勝負に卑怯も何もないのだ」


「あら、そう」



 「宿敵」夏樹に舌を出されて、やや苛立った美穂だが、彼女はスポーツマンシップの塊。あっさりと負けを認める。



「仕方ない。不意打ちと言っても勝ちは勝ちよね。ずる賢いのも美点の一つねー。夏樹」


「ハッハッハ。言ってなさい。美穂」



 そう高笑いを残して夏樹は最後のターゲット、香月を探しに行くのだった。


 これでここまで香月、夏樹ともに3P。最後に相手を仕留めた方が勝ちという情勢だ。


 夏樹はまた一つ知恵を絞って、純粋無垢な魂の塊である香月を、階段の踊り場で待ち伏せる。階段の陰に姿を潜ませた夏樹は呟く。



「ここで勝負よ」



 その頃、俊哉はお好み焼き屋、「鉄板」でお好み焼きを買い終えて、スーパーに向かっていた。俊哉が学校近くを通りかかると、校舎から女生徒達の声が響いてくる。これには少し俊哉も訝しむ。


 何か用のある女性徒達が校舎に残っているのか。不思議に思った俊哉は首を傾げる。



「何だ? 今日、休校日だぞ」



 そう。そうなのである。俊哉は香月達のサバイバルゲームのプランなどすっかり忘れていたのだ。俊哉は興味本位に門扉をよじ登って校舎内へと入っていく。


 彼もやはりルール違反を自分の許容範囲内で犯してしまうタチではあるらしい。


 俊哉は声の聞こえてくるA校舎内へと向かう。俊哉は、彼独特の野性味と嗅覚で人の気配のする方へとひたすら足を運んでいく。


 「ここに人がいるな」と呟いた俊哉が、二階へと続く階段をのぼり終えた時だった。



「覚悟!!!」



 そう大声をあげて俊哉の胸元に光線銃を放つ女性がいた。それは夏樹かと思いきや、香月だった。全ての日本国民の頭がすっからかんになる、めでたき元旦といえども、勝負事となれば、頭が少しは働くらしい。


 香月も階段の踊り場で夏樹を待ち構えていたのだ。俊哉は光線銃を胸に浴びせられて、呆気に取られたように香月に訊く。



「何やってるの?」



 香月は自分のミステイクに気付いたのか、恥ずかしげに光線銃で頭を掻く。



「あれ? 言ってなかったっけ?」



 ここに来て俊哉は二日前の出来事をようやくにして思い出したようだ。



「サバイバルゲームか! マジでやってたのか?」


「アハハ。そう」



 朗らか元旦モードに香月が戻ったその時、二人の背後から忍び寄る影があった。その影は夏樹か、はたまた。影の主は二人に呼び掛ける。その声は意外にも男性の声だった



「こら! そこの二人。何してる!」



 俊哉と香月が振り返るとそこには、影の主、声の主でもある高橋が立っていた。香月は光線銃を額にあてて、顔をあげる。



「あちゃあ」



 俊哉は左手を軽くあげて仕方なし、といった様子だ。



「なっ。だから言ったろ? 『やめとけ』って」



 そう二人が観念した時、香月の懐に飛び込み、光線銃を放つ女の子がいた。夏樹だ。夏樹は高橋がいるというのに勝負に熱中する余り、彼に気が付かなかったらしい。


 夏樹は香月を仕留めると得意げに光線銃を指先でくるくると回し、懐に仕舞う。



「へへー。これで私の勝ちね。香月」


「うん。それはそうなんだけど」



 香月は意外や意外、勝負とは別の意味で消沈気味だ。



「どったの? 二人とも」



 そう言って不思議がる夏樹の視線を、俊哉が高橋を指さして動かさせる。夏樹は苦笑いとも引きつり顔ともいえない表情でこう言うしかない。



「あら。先生。これはご機嫌よう。ご気分はいかが?」


「よろしくない」



 そう高橋が口にして、香月達五人は高橋に職員室へと呼び出されることと相成った。そこには休校中の校舎内に入ったという理由で、俊哉も一緒だった。


 今度ばかりは高橋も少しばかり腹に据えかねているようだ。



「校舎を使ってサバイバルゲーム。何を考えてるんだ。お前達は」


「すいません」



 香月達は頭を下げるしかない。夏樹が俊哉に促す。



「ほら、あんたも謝って」


「なんで俺が」



 俊哉がそう返すと高橋も諭す。



「勝手に校舎に入ったんだから、俊哉も一緒だ」


「はい、すいません」



 俊哉もやむなく、冷え切ったお好み焼き片手に頭を下げる。高橋は少しお叱りモードに入っているようだ。



「全く物事には限度ってものがあるんだぞ」



 そうやって持論を滔々と話して聞かせる高橋へ、ふと気付いた夏樹が訊く。



「ところで先生はどうして学校へ?」



 話の核心から逸れて、急に自分が標的にされたことに気付いた高橋は狼狽える。



「いや、それはだな」



 言い淀む高橋の顔をみなが覗き込む。



「採点忘れの答案、学校に忘れちゃってな。これ、他の先生には内緒だぞ」



 夏樹は、高橋に隙ありと察したのか、すかさずしたり顔で口にする。



「ははーん、さては先生も勝手に学校に」



 美穂が話を引き継ぐ。



「先生だけ『例外』って言うわけには行かないわよねー」


「そうそう」



 朱美も頷いた。高橋のお叱りモードが緩和した職員室で、楽しげに香月と俊哉が高橋の顔を見つめる。高橋は苦し紛れだ。



「いや、この件、見逃してくれないか。ほら、よく言うじゃないか『弘法にも筆の誤り』ってな」


『弘法?』



 香月達は声を揃えた。夏樹が嫌味な感じで手傘をして、辺りを見回す。



「どこどこ? 弘法ほどのその道の達人がいるなんて知らなかった。どこにいるのかな?」


『ホントだ』



 美穂と朱美も声を揃えて楽しげだ。高橋は自分を指さして「ここ、ここ」とアピールするも香月達には通じない。高橋は最後には折れてやむなくといった調子で、香月達を許すのだった。



「分かった! 今回の件は見逃してやる! ただし今回だけだからな!」


『やったぁ!!』



 跳ねて喜ぶ香月達を前に高橋はこう呟くのだった。



「全く。お前たちには敵わんな」



 「弘法にも筆の誤り」。その道の達人でも過ちを犯すことの例え。だが弘法ほどの達人でなければ、残念ながら説得力がないようである。かくして香月達の「ひと夏の想い出づくり」計画は、このように実を結んだのだった。


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