サバイバルゲーム 2
香月達がサバイバルゲームを敢行すると決めた、その週の休日。俊哉と健は街へと遊びに来ていた。目的もなくただぶらつくだけの休日。二人はうだるような暑さを前に今にも蕩けてしまいそうだ。
俊哉が頭に後ろ手を組む。
「腹が空いたな」
「金がない」
健が茫洋とした声で答える。すかさず俊哉が返す。
「嘘ぉ」
「ホント」
だらだらとした会話を続ける二人の目線の先にふと入って来たのは、饅頭屋。焼きたての饅頭の香しい匂い。あんこの甘味の誘惑も俊哉と健の食欲をそそる。
俊哉と健が空腹に耐えかねて、「何か」が沸点に到達したその瞬間、二人は血相を変えて、息を合わせたようにジャンケンをする。
『どっちが驕るかジャンケンポン!』
勝負。俊哉、チョキ。健、パー。ゆえに勝利者、俊哉。彼は勝利のVサインを掲げてしたり顔だ。
「にひひ」
「今度はピザ賭けような。絶対勝つからな」
健は悔しそうに財布から小銭をかき集めると、饅頭を俊哉に驕った。
俊哉と健が饅頭を口にしながら、街中を歩いていると、二人の視線の先に見覚えのある女性徒達がいた。
その中のある一人の女の子からは後光が差している。その光景から察するに女生徒達が、香月達であるのが二人には直ぐに分かった。
香月達は買い物袋を下げて談笑している。
俊哉は饅頭の最後の一つを口に放り込むと、朴訥と零す。
「随分と楽しそうだな」
すると香月達一派、夏樹が俊哉と健の二人に気が付いたのか、親しげに歩み寄ってくる。夏樹はあけすけに言ってのける。
「何してるの? 二人とも。相変わらず暇そうね」
俊哉もとりあえずは言い返してみせる。
「暇じゃねぇよ。そっちこそ何してんだよ」
夏樹は買い物袋を掲げて得意げだ。
「私達はみんなでお買い物。『目的』があるっていいわね。充実してて」
「何買ったの?」
健が興味本位、柔らかいタッチで訊いた。
「それは秘密よ」
そう夏樹が健の質問をシャットアウトした瞬間、香月がべらべらと計画を話し始めてしまう。日本の年明け。元旦。人はお天道様に嘘をつけない。
「光線銃とセンサー。今度の休校日に学校全部使ってサバイバルゲームをするの」
さしもの夏樹と美穂も慌てたのか、香月のスラスラと出てくる言葉を止める。
『ちょ、ちょっと香月』
香月は全くもって邪気がない。朱美と美穂の二人の慌てぶりが不思議そうだ。
「あれ? 私何か悪いこと言っちゃった?」
そのやり取りを目にした俊哉と健は顔を見合わせる。学校を丸丸と使ってのサバイバルゲーム。さすがの俊哉でさえも、やむなくと言った調子で口を開く。
「学校使ってサバイバルゲームねぇ。やめた方がいいんじゃね? それ。学校は遊技場じゃねぇぞ」
「ま、ま、それは大目に見てさ」
夏樹が舌を出して、片目を瞬かせる。俊哉は半ば呆れる。
「まっ、別に止めねぇけどよ。あんまりいいアイデアじゃねぇな」
「そうかなぁ」
夏樹は首を傾げてみせる。香月はめでたいことがとにかく好きなのか、止められて心底不思議そうだ。健が思い余って口を挟む。
「まぁ、くれぐれも先生達には見つからないようにしなよ。修学旅行とプール開きの件で、僕達ちょっと良くないイメージ持たれてるからね」
健が香月達の計画をスルーして、大目に見てくれることが分かると、夏樹の表情がみるみるうちに明るくなる。
「ありがとう。さすが健君ね。やっぱり二人もお姉さんがいると違うわね。女心が分かって」
「いやいや」
健は笑って謙遜する。そのやり取りを見た俊哉は、若干不服げだ。
「二人も姉貴がいるからって何だってんだ」
「別にぃ」
美穂が話を纏めるために、俊哉と夏樹のやり取りに割って入る。
「とにかくもう『やる』って決めちゃったの。道具も買っちゃったし。先生達には秘密にしといてね」
良識のある方ではある美穂にそこまで言われて、俊哉も物わかりの悪い男ではない。納得せざるを得ない。
「それはまぁ。いいけどよ」
俊哉がそう返事をすると、香月達は「ありがとう」と一言残すとその場を立ち去って行く。
香月達を見送る俊哉はこう零すしかなった。
「何かヤな予感がするなぁ」




