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香月  作者: keisei1
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意見書 6

 翌日ホームルーム前から早速香月達は廊下に立って署名活動を始めた。小さな白いボードの上に意見書のコピーを乗せて、みなに閲覧を求める。


 初めは香月達の取り組みにほとんど関心を示さなかった生徒達だが、彼女達の熱心さと「意見書」の出来映えに興味を持ったのか、ぽつりぽつりと署名してくれる子が増えてくる。


 微々たるスピードで増える署名の数だが、香月達の活動を一気に活気づける出来事が起こる。


 それは署名を初めて2日後の放課後での出来事だった。香月達はいつものように廊下に立ち、署名を求めている。


 するとそこへ生徒会の副会長、野原真希が彼女達を問い咎めてきたのだ。真希は申し訳なさそうに、だがやや責めるように口にする。



「高樹さん、今村さん。私、あなた達の考えには賛成なんだけど」


『はい』



 香月と夏樹は口を揃える。真希は二人の無垢な調子にも構わず、自分のペースで話を続ける。



「『署名活動』とかには、そんなの賛成できないわ」


「ど、どうしてですか?」



 香月は少し狼狽えて首を前に伸ばすと、真希に訊いた。淡々と真希は持論を口にする。



「だって意見が分かれて孤立する子も出て来るし、何より先生方に迷惑をかけてしまうじゃない?」



 真希のいうことはもっとも。正論の一つだ。香月達は真希のより多数の人を気遣った言葉に言い返せなかった。消沈する香月達。


 だが一人真希の正論に真っ向から歯向かう子がいた。夏樹だ。彼女は修学旅行の自由しか眼中にないらしい。夏樹は左手をあげる。



「『先生方に迷惑かけるって』って何よ。その迷惑がるかもしれない先生方に話を聴いてもらうのが目的じゃない」



 真希はあくまでも冷静だ。血気の逸った夏樹よりも、真希の方がより多くが見えていて、視野が広い。



「でも私はもっと別の方法があると思うの。だからこの際はっきり言わせてもらうわ」



 香月達は、真希の迫力に息を飲む。真希はこう言い切る。



「『署名活動』なんてやめてちょうだい」



 香月達は、その一刀両断の言葉にしばらく黙り込むしかない。幾ら元旦と言えども曲がった棒を真っ直ぐだとは言えない。


 香月は自分達の分が悪いのが分かりつつも、自分なりの考えを口にしようとした。その時。


 香月達の「意見書」を手にする男子生徒がいた。それは意外なことに俊哉だった。彼は意見書を片手に大きな声で出す。



「修学旅行要項に反対の方は、署名にご協力ください」



 その鮮烈な光景は、生徒達にインパクトを与えるに十分だった。いつも冗談ばかり言っている俊哉が、真剣にみなへ呼びかけている。それだけで生徒達に訴えるものがあった。


 健も仕方ない、といった様子で右肘を一度掻くと、俊哉の隣に立つ。健も意見書を手に取り、想いを口にする。



「この『意見書』は僕も目を通しましたが、ホントに良く出来てます」



 俊哉の協力、そして健の手助け。その流れを健がこう締めくくる。



「有意義な修学旅行にしたい方はぜひとも署名をお願いします」



 俊哉と健が協力している。この光景だけで生徒達の気持ちは、大きく変わった。


 真希の言葉に同意しかけていた生徒達が、香月達のもとへやってきて署名を始めたのだ。


 中には「よく意見書を読んでから」と言って意見書のコピーを貰っていく生徒もいる。


 真希は、やがて自分の負けを認めたのか、諦めたように舌を少し出す。真希も物わかりの悪い子ではない。彼女は観念する。



「わかった。あなた達がそのつもりなら、私も署名するわ。そもそも反対じゃないんだし」



 すると真希は署名書にサインをしてくれたのだ。香月は長い髪をバサッと前に落ちる勢いで頭をさげる。



「ありがとうございます! 野原さん」


「いいわ。別に」



 真希はそう軽く両手を広げて立ち去っていく。真希を見送る香月の隣には懸命に意見書を配る俊哉の姿があった。


 俊哉は大きな声でこう呼びかけていた。



「署名にご協力ください!」


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