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香月  作者: keisei1
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意見書 2

 加賀は、黒板の文字を消していた生徒に、手を軽くあしらうように振ると、着席を促す。加賀の態度は、生徒をどこか威圧でもするかのようだ。教壇に立つ加賀は生徒を鎮める。



「あー、静かに。席について」



 加賀の言葉に従う形で、生徒達は各々自分の席に着いていく。加賀はクラスが完全に静まり返ったのを認めて話を始める。その姿はまるで演説をする政治家か何かのようだ。彼は口を開く。



「今度の修学旅行、行き先は京都だが」



 加賀は生徒達一人一人の顔、表情を確かめるように身を乗り出す。



「これは前もって言っておく。修学旅行は『遊び』じゃない。『教育』だ。これを忘れないように」



 その言葉へ敏感に反応したのか、美穂が香月に耳打ちする。



「ねっ。言ったでしょ」


「うん」



 香月はただただ頷くしかない。加賀は胸を張り、威勢よく続ける。



「去年は何を勘違いしたのか、京都のショッピングモールで買い物をして、集合時間に大幅に遅れた連中がいたが」



 夏樹が眉をひそめて、口を尖らせると小さく呟く。



「別にいいじゃない」



 生徒達の若干の不満が、教室を覆うが、加賀は当然引く気配はない。



「そういう間違いを起こさないように今年の修学旅行は徹底した管理体制で行く」



 「管理体制」。この言葉には、穏やかな気風で知られる3のAの生徒達、さしもの彼らも不満げだ。



『えー』



 ため息交じりに声を揃える一部の生徒達。だがそんな不興にも、一向に構わず、加賀は持論をぶちまける。



「自由時間にも徹底した規制を設けるつもりだ。これは生徒、教師間の約束になる。しっかりと守るように」



 加賀の言葉に、教室は玩具を奪われた子供のように静まり返る。みな、加賀に反発するつもりはないらしい。

 去年の前例が前例だ。仕方ない。そうみなが思った時、一人、覇気のある声で加賀に意見する子がいた。夏樹だ。



「先生、『規制』ってなんですか。『管理体制』ってどの程度まで管理するんですか?」



 加賀はむしろ夏樹のような反発を期待していたようだ。待ち構えていたかのように、スラスラと言葉を並べ立てる。



「規制は15の項目に渡って、行ってはいけない場所、してはいけない行動、言動について言っている」



 15もの規制事項があるのを知り、鷹揚であるはずの美穂も、さすがにたまらず零す。



「あーやだ」



 加賀は厳しい姿勢を崩さない。



「あと『管理体制』と言ったら『管理体制』だ。分刻みのスケジュールにしっかりと従ってもらう。それだけだ」



 今ひとつ説明になっていないと気丈に感じた夏樹は、加賀にこう言い放つ。



「先生、修学旅行っていうのは生徒の自主性も育むところじゃないですか。何でも『規制』や『管理』っていうのは」



 だが加賀の返答は淡泊極まりない。



「『自主性』。そんな曖昧な考えに任せた結果が去年の失態だ。だから」



 「だから」。そう口にして、話を加賀がキレイにまとめかけた時、香月が息をフッと吐くように口にする。香月には夏樹のような反発心はない。極スムーズに香月の口をついて出た言葉。



「先生、私たちに『自由』はないんですか?」



 「自由」という言葉の響きに、生徒達の多くが、煌めく何かを感じ取っている。それは加賀も分かっているはずだった。しかし加賀の口から出た言葉は生徒達の期待を裏切るものだった。


 加賀はしばらく沈黙してこう断言する。



「『自由』。なんだそれは。私の考える『教育』にそんな言葉はない」



 その直裁な言葉に思わず美穂が、喉元に左手をあてる。



「げげげ」



 加賀は夏樹や香月、生徒達の違和感など意にも介さないで、最後にはこう言ってのける。



「とにかく、私からは以上だ。修学旅行でいい想い出づくりなんて甘い考えは捨てることだ」



 そうぶっきら棒に言い放つと加賀は、修学旅行要項について書かれたプリントを配り終えて、教室をさっさと立ち去ってしまった。


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