意見書 1
七月中旬。学校のスケジュール調整で、一足遅れた修学旅行を間近に控えて、香月達は楽しげに旅行のプランを教室で話し合っている。香月は修学旅行に期待を寄せる余り、椅子からバランスを崩して、転びそうになったほどだ。
桜が何とか香月の体を支えると、香月達の身勝手気ままな夢想にも似たプランニングが続く。
修学旅行。行き先は京都。日程は3泊4日。香月は、クラス全員に配布された旅行のスケジュール表を新聞のように大きく広げて、覗き込む。
「清水寺とかこの伏見いね」
国語力が意外に優れているのが、美穂は自慢だ。香月が読みにつっかえると、彼女がすかさず読みを教える。
「伏見稲荷大社ね」
香月は照れくさそうに笑って、鉛筆の後ろで頭を掻く。元旦も時に恥じらうらしい。香月は修学旅行の肝を口にする。
「伏見稲荷大社とかもいいけど、やっぱり修学旅行って言ったら『自由時間』よね」
夏樹は悪乗りする気満々で、身を乗り出して、香月に調子を合わせる。
「そうそう。短い時間を有意義に使わなきゃ。教師の目を盗んで楽しむのがまた」
香月は両指を組み合わせて、古き良き時代の少女漫画よろしく、遠くを見つめて目を輝かせる。
「私は『京都』って言ったら断然『舞妓』さん! 舞妓さんにはどこ行ったら会えるのかな!?」
夏樹が広げた地図を見ながら、スマホ片手にネット検索する。
「見て見て香月。舞妓さん御用達のお店。『見学地に近い場合はぜひお寄りください』だって! 舞妓さんに会えるかも」
スマホの画面を見せられて嬉々とする香月。
「ホントだ!」
桜も加わる夏樹と香月のはしゃぎようは、それは無邪気な子供のようで、見ている分にはまるで害がなく、何か問題を起こしそうな気配などもちろんない。
「自由時間」にスポットライトをあてて、旅行気分を一足先に味わう香月達三人を見て、美穂が左顎肘をついてふと零す。
「でも修学旅行って言っても『観光』じゃないし。意外と決まりが厳しいかも」
朱美と美穂は修学旅行に関しては、向き合う姿勢、ベクトルがやや同じなようだ。香月達を横目に、デッサンの取れた、それは見映えのいいイラストを手早く完成させた朱美も、美穂の言葉を引き継ぐ。
「そうそう。あくまで『教育』って言う堅苦しい先生がいるからさ。生徒指導の加賀先生とか」
夏樹が馴れ馴れしく「何言ってるの! 朱美ちゃん」と、朱美をちゃん呼ばわりして、彼女のその奔放な気質からか、逆に朱美に釘を刺す。
「そんなカタいこと言わないの! 朱美ちゃん」
朱美は「ちゃん呼ばわり」されたことに若干苛立ったようだったが、夏樹との仲だ。それは軽く受け流して、夏樹達に念を押す。
「でもそれが現実だし」
『つまんなーい』。夏樹と香月がそう口を揃えるのを見て、苦笑いするしかない朱美と美穂だが、そこへ教室の扉を開ける教師がいた。美穂は、香月達が机に広げた修学旅行の資料を手早く片付けると、口を開く。
「ほら、そういうこと言ってると」
美穂の視線に促されて、香月達がやった目線の先には、教室に入ってきた加賀。今しがた香月達の話題にのぼった加賀がいた。




