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香月  作者: keisei1
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忘却の川 5

 やがて、終演。ライブの終わった客席からエディ・ヴァイのファン達が雪崩を打って出てくる。その中にはもちろん、香月も夏樹も、そして俊哉も含まれている。


 三人を見つけた健達四人は、彼らに駆け寄る。美穂を先頭に口々に三人を、主に香月を気遣う。



「大丈夫だった!? 香月! 耳やられなかった?」


「変なことされなかった? 香月!」


「耳鳴り、大丈夫ですか? 香月さん!」



 香月は楽しげに手を横に振って、「平気、平気!」と応えてみせる。俊哉は俊哉で、健に体を両手で揺すられて、頭の中を確認されている。



「俊哉! 大丈夫か!? 三角形の面積を求めよ!」



 呆然としながらも答える俊哉。



「んー。底辺×高さ÷二」


「なら、大丈夫そうだ」



 ほっと胸を撫で下ろす俊哉と健、二人を横目に夏樹は気持ち良さそうに、背を伸ばす。



「うーん。何か当初の目的忘れちゃったけど、ひと夏の想い出になったし! ま、いっか!」



 その夏樹を見て朱美も「それもそうね。香月が無事なら」と同意するのだった。


 後日談。ライブハウスにて。ドリンク「レテ川の水」を振舞っていた二人組はまたも同じ場所で話をしている。



「この前の粉末、医学的に本当に忘却作用があったらしいぞ。大丈夫かなぁ。何か被害が起こってないかなぁ」



 そう心配がる粉末の持ち主を、相方がカバーする。



「大丈夫だろ。変な被害届も出てないし。で、そのギリシア人留学生君の名前は何ていうんだったっけ?」


「ヒュプノス君。ギリシア神話に出てくるような名前だったなぁ」


「ヒュプノス君ねぇ。珍しい」



 そう言いあって二人は、また呑気に笑い合うのだった。


 ギリシア神話、ヒュプノス。人を安らかな死へと誘う「眠りの神」。黄泉の国の川、忘却の川である「レテ川」とも縁深い神。


 そのヒュプノス君の処方した粉末を飲んでいたのは、お分かりだろうか。こともあろうに俊哉だった。従って。



「高樹の裸身? 何の話だ」



 夏樹にそれとなく訊かれた俊哉は、すっかり香月の裸身のことなど忘れていた。


 その様子を見て、方法は違えど、作戦が成功したと喜び、ほっと胸を一撫でする夏樹達だった。


 ただ香月との淡い思い出、夢の共有も俊哉の頭から忘れ去られているのが、香月には少し残念には思われたのではあったのだが。



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