忘却の川 2
ライブハウス・ザ忘却作戦当日。ハードロックバンド、「エディ・ヴァイ」のライブ当日、俊哉と健はライブハウス前に、夏樹達に呼び出されていた。
二人はもちろんその主旨、目的を知らない。錆びれて、赤褐色に塗装された壁面が印象深い、路地裏の小さな建物の前で俊哉と健は突っ立っている。俊哉は涼しげで、寂寥感溢れる風に吹かれて、ライブのチケットを覗き込む。
「スタンディング1000円とはいえ、よく奢ってくれたなぁ。今村の奴。何が目的なんだろ?」
「さぁ。とりあえず遊び相手でも欲しかったんじゃないの?」
そう関心なさげに服の襟元を掻く健は、途端に姿勢と形相を変えて、「エディ・ヴァイ」なるバンドのパフォーマンスを描写してみせる。
「だけどな。俊哉。凄いらしいぞ。このバンドのライブ。豚の生首が放り投げられたり、火吹きがあったり! おまけに演奏。ガチうるさいらしい」
「へぇ。そりゃ興味あるな」
俊哉がそう軽く健の話に相槌を打つと、このイベントの主催者、夏樹を筆頭にした香月達がやってくる。夏樹は大手を振って作戦部隊隊長気取りだ。
「よぉ! 諸君! よくぞ集まってくれた! 結構、結構!」
健は右眉をあげて怪訝な顔をする。
「無駄な出費2000円なのに、やけに機嫌がいいじゃない」
夏樹は昂揚した様子で、香月を含めた五人分のチケットを取り出し、カードのように広げてみせる。
「何の! 無駄な出費なんて人生にはないもんよ! ほら、これ五人分。みんなで最高のライブ日和にするわよ!」
「やけに元気がいいね」
健にそう訊かれた桜は、汗を一粒零して苦笑いを浮かべるしかない。
「夏樹さん、ハードロック大好きっ子ですし。それに今回は」
そこまで桜が口を開きかけると、朱美と美穂が彼女の口を塞ぐ。
「おおっと!」
夏樹もその様子に満足したのか、略奪の限りを尽くした海賊船の船長気取りで、陣頭指揮を取り、ライブハウスへと足を踏み入れていく。
「さぁ、騒音の只中へレッツゴー! 何もかも、忘れてしまいそうなくらい、ね」
最後の秘密めいた言葉に、俊哉と健は顔を見合わせるも、ライブハウスへと足を運ぶ。香月もさすが元旦。未知なるものに惹きつけられる好奇心の塊のようだ。
「ね、ね! 朱美、美穂! このバンドって豚の生血をすするらしいね!」
「あー、そんな話もあったとか、なかったとか」
美穂が上の空で応じると、朱美が耳栓を香月に手渡す。
「香月。あなたは、っていうか私達は耳栓をするわよ。目的を達成するためには、それが必須なの」
「耳栓? ライブハウスで?」
朱美は香月の両掌をしっかりと握りしめて耳栓を預けると、夏樹達のあとへついていくのだった。




