表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
香月  作者: keisei1
24/81

プール開き! 期待するか!? 何を!? 人生を! 3

 決戦一。東校舎からの階段での攻防。予想。朱美の放水器が炸裂すること必至。


 健率いる健康優良助平少年達は、烈火のごとき勢いで東校舎の階段。二階の更衣室へとつながる踊り場に集まる。


 みながみな弾力性のある体育館シューズに履き替え、準備は万端だ。健が右手を高々と掲げる。



「いざ乙女の花園! 更衣室へ!」



 その掛け声とともに波状型に隊列を組み、階段を駆け登る健達。凄まじい勢いの彼らが、更衣室のある二階に辿り着こうとした瞬間、彼らは、そこに朱美が待ち構えているのを見る。


 朱美は健達を上から見下す。



「甘い!」



 そう叫んで放水器から水を放つ朱美。放たれた大量の水で弾き飛ばされる男性陣。だが一人、健だけはねばって二階にのぼりつめようとする。


 果たして健は、天から吊るされた蜘蛛の糸を見事手にすることが出来るのか。果たして。水しぶきの向こう何とか踏みとどまっている彼、健がいた。彼は成し遂げたのだ。


 だがその彼に立ちはだかる影があった。夏樹だ。


 夏樹は、放水器の水にずぶ濡れになりながらも、何とか二階に足を踏み入れようとした健の頭を、ボクシンググローブをはめた右手で小突く。



「はい。ご苦労さん」


「どわぁああああ!」



 水しぶきで憔悴しきっていた健は、惨めで物悲しい叫び声をあげて、一階の踊場へと転がり落ちていく。


 健をリーダーにしていた軍勢はずぶ濡れで敗走せざるを得ない。


 第一陣陥落。こうして第一戦は女性陣に軍配があがるのだった。「ヤッタわね! 朱美!」と固く朱美と握手をする夏樹。


 決戦二。西校舎の渡り廊下での攻防。予想。美穂の瞬足と消火器が炸裂すること必至。


 いざ渡り廊下にて美穂と向い合った、健をリーダーとする愚連隊。美穂が消火器を手にしているのを見ると、健はほくそ笑んでみせる。



「ハッ。武器が裏目に出たな。その様子じゃあ、名の響き渡るスプリンター、澤村美穂、必殺の瞬足も使えまいて!」



 そう健は息まいたあと、一気に仲間達へ号令をかける。



「渡り廊下の牙城、陥落せり! いざ更衣室へ!」



 健の掛け声に呼応するかのように一気に走り出し、美穂を追い抜いていこうとする愚連隊。しかし美穂はそんな彼らを逃さない。



「全国区2位のスプリンター! その足を! 舐めないでよね!」



 美穂はそう叫ぶと、美穂の横を走り抜けていった健達を、駆け足で再び追い越し、消火器を構える。



「そんじょそこらの乙女と一緒にしないでよね!」



 先に回られ、前方を取られた健達は愕然とする。



「げげんっ! さ、さすが黒炭火焼チーター!」



 「黒炭火焼」。肌の色が若干浅黒いことを気にしている美穂は、消火器を構えて健に歩み寄る。



「今、何て言った?」



 健はあえて無邪気に笑顔を作る。



「いや、ステーキは炭火焼に限るなぁと」


「去れ! 外道!」



 かくして、西校舎における渡り廊下での攻防も夏樹率いる女性陣の圧倒的勝利に終わった。



 最後の突破口が、梯子を使っての二階更衣室侵入だけとなった健達だが、哀れ、ここで辞退者も現れ始める。



「もうさすがに限界だよ。夏樹達の決死の防御には敵わない。おまけに梯子を使うだなんて。ケガだけはごめんだ」



 その弱音を聞いた健は自らを奮い立たせる。



「誰か、この福原健とともに二階へ侵入しようという、勇敢な者はいないかぁ!」



 挙手する者五名。かくして健を含めた六名の勇者達は、体育館裏倉庫から持ち出した梯子を使って、二階にある更衣室への侵入を試みる。


 無謀ではあったが、この計画、上手くいくはずであった。無茶ではあったが可能性はあった。


 健達があと一歩で更衣室の中を、窓から覗き見れるかどうかとなった瞬間。彼らの望みは、更衣室の窓からヒョイと頭を出した桜の手によって脆くも打ち砕かれる。


 桜はハリセンを翳し、こう言葉を添える。



「ごめんなさい! 健さん!」



 桜はそう可愛く口にすると、「ハリセン!」と叫んで六名の勇士達の頭を叩き、梯子から落下させてしまった。



「どわぁあああぁ!」



 健率いる健康優良愚連隊。今ここに散る。かくしてガッツボーズで手を握り合う夏樹と桜。そして美穂と朱美の手によって女子更衣室は守られたのである。


 だがしかし、そこに肝心の香月。元旦娘の香月がいない。彼女は更衣室から姿を晦ましたのか。もしくはもう既に水着に着替えて、プールへ向かったのか。はてさて。夏樹は三人に訊く。



「あれ? 香月は?」


「知らない。夏樹。あなたが守ってたんじゃないの?」



 朱美の問いに、夏樹は首を振ると同時にハタと気が付く。身の毛もよだつ「イヤな予感」が彼女はしたのだ。

 

 慌てて更衣室を駆けだして行く夏樹。「夏樹!」と呼びかける朱美の声もを彼女は振り切った。


 その頃、更衣室での騒動から逃れるように誰もいない教室へと舞い戻っていた香月は、こう零していた。



「あの騒がしさじゃ、逆に着替えさせてもらえそうにないな」



 そう口にして香月は水着を取り出す。



「今、誰も教室にいないし、ここで着替えちゃおうっと」



 香月は早速制服を脱ぎ始める。一方その頃、根っからの女の裸好きでありながら、更衣室覗き見攻防戦には、加わらなかった俊哉が、教室への廊下を駆け足で進んでいた。



「ったく! みんな何やってんだ。もう授業始まっちゃうぞ。また体教の橋本がっ! 怒られるのは俺なのに!」



 そう言って教室の扉を勢いよく開けた、俊哉の瞳に飛び込んできたもの、それは。それはそれはめでたく、煌びやかで、美しい元旦の裸身、の後ろ姿であった。


 香月は丁度下の下着を脱いでいる最中で、柔らかで品のあるヒップラインが俊哉の目に飛び込んでしまった。引き締まった形のいい臀部。しばらく凝固し、言葉を失う俊哉。


 その俊哉に気づかす、水着に着替え終える香月。香月は水着の上半身部分を半ば、はだけた状態で振り返ると、俊哉に気が付く。



「あっ。俊哉君。ゴメンゴメン。橋本先生怒ってたでしょ?」



 そういう香月の左胸は少し露わになっている。うっすらと仄かな桃色が俊哉の目に一瞬入る。


 俊哉は動転して言葉も出ない。凝り固まったままだ。


 そこへ、香月が水着へしっかりと着替え終えると同時に、猛烈なスピードで俊哉に近づいてくる足音があった。


 夏樹だ。夏樹は声をわなわなと震わせて、ボクシンググローブをはめた右手を振りかざす。その形相はヤマンバか何かのようだ。夏樹は叫ぶ。



「こ、こ、こ、この! 罪深き人よ!」


「ほふぅううう!!!」



 見事、夏樹の強烈な右ストレートを喰らった俊哉は吹っ飛び、気絶してしまう。その俊哉を抱き抱える香月。



「ちょっ! 夏樹。何やってるの!? 俊哉君? 俊哉君? 大丈夫?」



 夏樹は、水着に着替えた香月の余りのスタイルの良さに、やや顔を赤らめると彼女に訊く。



「そんなことより、香月。あなたは! あなたは大丈夫なの!? 平気なの!?」



 悲壮な、それでいて大げさな夏樹の口振りにも、香月は全く動じることなく、こう答えるだけだった。



「大丈夫? って? 何が? 私は全然、平気だよ」


「な、な、な、何と!」



 そんな呆然自失の夏樹の声を最後に、プール開き攻防戦は、無事か多難か、幕を閉じたのであった。


 アダムとイヴ。旧約聖書に出てくる最初の人類。彼らは知恵の実を食したがために「恥じらい」を覚えエデンの園を追放されたという。


 健は擦りむいた右肘に巻いた包帯を、手で擦りながら、今回の計画を総括してみせる。俊哉は俊哉で、机にうっつ伏して、念仏のように何かを唱えている。



「けど、残念だったなぁ。チャンスはあったんだけど。ケガだけが報酬かぁ。ん? どうした? 俊哉」



 俊哉は気が動転してるのか、酩酊したようにこう呟くだけだった。



「お尻、お尻、お尻」


「ん? 尻がどうかしたのか?」



 かくして現代のアダムとイヴは片割れのアダムだけが楽園、エデンの園を追放されることになったという。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ