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香月  作者: keisei1
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内申書 2

 田上のばら撒いた緊張感と、ある種の疑心暗鬼がまだ残る昼休み。俊哉と健はお弁当のおかず争奪戦を繰り広げながら話をしている。俊哉がまず健のタコ足ウィンナーを奪う。



「田上。何か感じ悪かったなぁ。可哀そうなタコ、いただき!」



 健も応戦するが、タコ足ウィンナーとは格の違うカニクリームコロッケを、俊哉の弁当箱から略奪する。



「ほっとけよ。ああでも言わなきゃクラスをまとめられないんだろ。カニさん、ご愁傷様です。モグモグ」



 俊哉は、カニクリームコロッケを奪われた衝撃に打ち震えながらも、とりあえずは健の言葉に納得する。



「なるほどね。健……。今度は弁当にフォアグラ持って来いよな」


「何のことざんしょ」



 そう言ってカニクリームコロッケ略奪の衝撃を緩めると、健はとある宣伝ポスターを威勢よく取り出す。最早彼の頭にはお弁当のおかず不平等取引のことは頭にない。



「それより俊哉。これ見ろよ。『中学・夏の美術コンクール』だってよ。ちょっと興味湧かないか?」



 俊哉は関心を引かれたようにポスターを覗き込む。俊哉も結構イヤなことはあっさり忘れるタイプらしい。その点元旦とも相性がいいか。


 俊哉がポスターを見ると、そこには公園でくつろぐ人々が水彩で鮮やかに描かれている。ポスターの下部に書かれた募集要項とコピー。



『中学生限定! 求む! 未来のクリエーター!』


「ほぉ」



 顔をポスターに近づけて、コンクールの妙味を知ろうとする俊哉に、健は得意げに概要を説明する。



「何だっていいらしい。絵でも彫刻でも、オブジェでも」


「何でもいいわけね」



 俊哉はコンクールのキャパシティの広さにますます、興味を持ったようだ。健は調子に乗っているようで、一つ狙いを定めてみる。



「そう。何でもいい。ピカソっているだろ?」


「ああ、あのよく分からない絵の」


「ああいう作風のオブジェでも作って、コンクール荒らしてやろうぜ」



 「荒らし」。俊哉はその単語を聞いて痺れるものがあったらしい。髪の毛を震えるように逆立たせると、満足げに笑みを浮かべる。



「『コンクール荒らし』ね。面白そうだな。それ。やってみるか!」



 乗り気になった俊哉を観て、健も満足げだ。両手を派手に大げさに広げる。



「だろ? そのオブジェに小難しいタイトルの一つでも付ければ、審査員一同『おおっ! 』ってなったりしてな!」


「なりそうだな! それ!」



 さすが単細胞の俊哉。健のアジテート、煽りにすっかりその気になって沸き立つ。健も俊哉が腰をあげたことで胸が弾んでいるようだ。



「工業社会が落ちた片思いの憂鬱」


「僕の恋の宗教裁判」


「断罪さる僕は一目惚れのローマ教皇」



 そう言って次々とタイトル案を遊び半分に出していく、俊哉と健のやり取りを遠目でぼんやりと見ている女の子がいた。香月だ。


 香月は、元旦の長閑な気風のせいか、しばらく肘をついてぼんやり物想いに耽ったあと、突然閃いたように立ち上がり、朱美に声を掛ける。大声で。



「朱美! 『中学・夏の美術コンクール』だって!」


「うん。それが?」



 朱美は「美術コンクール」が開催されるのを既に知っていたのか、にべもない。香月は身振り手振りを交えて、朱美を説得する。



「『それが? 』って絶好のチャンスじゃない! 朱美の腕前を発揮する! ね。やってみない?」



 朱美は興味なさそうだ。欲がない。執着がない。というより画力で競うのを疎んでさえいるようだ。彼女は右掌を軽くあげる。



「いいわ。私は。人に批評されるのが嫌いだもの。それに私くらい描ける子はざらにいるし。これ前にも言ったけど」



 香月は焦れったそうだ。



「もう! 朱美はどうしていつもそんなんなの?」


「だってこれが私の性格だし」



 さすが元旦。陽の目を見るべき才能は、陽の目を見るべきだと確信しているらしい。やはり日本の正月はめでたい。香月は彼女に食らいつく。



「『私くらい描ける子ざらにいる』ってそんなの分からないじゃない! 何事もやってみなくちゃ!」


「でもねー」



 そう朱美が返したところで、人は人、私は私、の唯我独尊ペースを貫く夏樹が、思うところあったのか、珍しく口を挟む。



「それもそうね。香月の言う通りかも。『何事もやってみなくちゃ分からない』。その通りかもね」


「ね。そうでしょ? 夏樹」


「うん。美穂と香月の一騎打ちもあったことだしね。『分からない』かも」



 美穂と桜もようやくにして、その話題に興味を持ったのか、朱美の机の前に集まる。



「それもそうね。やってみたら? 朱美」


「朱美さん。何事もチャレンジするのは悪くないですよ」



 朱美は「うーん。そんなに私に注目しないで」と一旦前置きしたあと、しばらく考え込む。そして決心したのか、ようやく重い腰をあげる。



「そうね。気乗りしないけど。軽い遊び程度にやってみますか」


「ねっ!」



 香月はどこから取り出したのかコインを放り投げて、キャッチすると喜びを表現する。朱美の出馬宣言を聞いて、夏樹は俊哉達に視線を送ると、快活に笑う。



「少なくともあのおバカさん達には勝てるんじゃない?」



 見ると俊哉と健はアイデアを出しあっている。



「だから母性をイメージして作ったとか言ってだな」


「もちっとあるんじゃねぇか? 『コンクラーベに裁かれる僕の恋心』とかわけわかんねぇタイトルつけてさ」



 二人のやり取りを見た朱美は、気が緩んで、リラックスしたのか微笑む。



「それもそうね。あの二人には勝てるかも。いい腕試し。気分転換の一つくらいにはなるでしょう」


『ヤッタネ!』



 香月達は声を揃えて喜んだ。こうして「夏の美術コンクール」に朱美が、そしておまけになぜか俊哉と健が参加することが決まったのだった。

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