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風の行方  作者: 藍月 綾音
本編
6/61

さぁ~んの1

私は今、なぜか県外のアウトレットモールに来ている。


両脇には、巽と橘先生。


何でこうなったか、いまいち分からない。


とにかく、朝叩き起こされたとおもったら、お風呂に押し込まれて、京子さんにメイクと髪と服とをトータルプロデュースされ、パンを口に突っ込まれながら、巽の車に乗せられていた。

いや、もう、口を挟む隙間なんて全くなかったから。


昨日だいふ呑んだから、今日は一日まったりとする予定だったのに。


「で、今日はどうしたの?なんで、ここに連れて来られたの?」


もちろん私は、超不機嫌だ。


休みの日にこんな人混みに連れて来られる意味がわからない。

人混みはまずいんだよね。巽がいれば大丈夫かなぁ。


橘先生とお買い物は、めっちゃ嬉しいんだけど。


「まぁ、気にするな。お昼と夕飯おごってやるから。今日は、きらの好きな店回って良いから。なっ、両手にイケメンだし、いいだろ。」


「自分でイケメンいうな。じゃぁ、私の好きなお店ちゃんと見せてよ?」


実は、ここのアウトレットモールは広くて、いいものが安く買えるのでお気に入りの場所だ。


車がないと来られないので、巽が都合のいい時にだけ連れて来てくれるんだ。


まるで、ヨーロッパに来たみたいな石造りの建物がならんでいて、ブランド物の雑貨や服からスポーツ用品やキャンプ用品までなんでも揃っていて、歩いて飽きることはない。


私は早速、お気に入りの雑貨屋さんに行くことにした。


「じゃ、いつもの雑貨屋さんへGO!」


と、店へ行こうとしたら、すかさず巽が私の腕を引張って止めた。


「ちょっと待て、そっちじゃないから。カズ、言ったことあると思うけど、こいつ凄まじい方向音痴だから、目を離さないでくれ。ついでに手をつないどけよ。店の中でも離すと危険だ。小さい子供と同列だと思え」


一気に捲し立てると、今度は私にをキッと睨んだ。


「きら、今日はカズがきら係りだから」


相変わらず、巽の言い種はひどい。


もう、20歳なのに小さい子供と同列って、なによそれ。


てか、きら係りってなんだ。私は小動物かっ。


くすっと笑って、橘先生は私に手を差し出した。


ほらっというように差し出された、目の前にあるそれを、思わず凝視してしまう。


だって、無理だから。


橘先生と手をつなぐって、ありえない。


しかも、橘先生ってば今日は眼鏡を外して、前髪セットされてるんだよね。


カッコ良すぎて、キュン死にするから!


「なに見てんの?巽命令だよ。手ぇ、つないで?ほら俺、きら係りだし?」


にっこり笑う先生は、悩殺もので、私は顔が赤くなるのがわかった。

今日一日私の心臓もつかな。


手を差し出そうにも、震えてうまくいかない。普通に恥ずかしいんだよぉ。


巽と手をつなぐのに、こんなに緊張したことないんだけど!


待ちきれなかったのか、結局橘先生に手をつかまれ、先に歩いている巽を追いかけた。


先生の暖かくて、大きな手にドキドキする。


こんな近くに橘先生がいる。


私をきらと呼ぶ。


私の魂は、舞い上がって天まで昇っていってしまうかもしれない。


ヤバイ、昨日これ扱いしたの、今ので帳消し。


そして、私は舞い上がり過ぎてしまった。


お約束どおりあっという間に迷子になってしまったのだ。


むかいの店にいたはずの巽と橘先生の姿がない。

二人とも長身なんだから、とっても目立つのに見当たらない。


敗因は、3軒前で見たかわいいウサギの懐中時計だった。あんまりにかわいくて、忘れられなくなってしまい、やっぱり購入しようとそのお店に行こうとしたのだ。


そしたら、つい無意識に先生の手を離してしまい……。


お店を出たら見事に迷子になったという訳だ。

3軒前のお店も、今いたはずのお店もわからない。


むかいの店だったはずなのに。


この場合、私の行動は一つだったりする。


手近のお店のショーウィンドウのまえで携帯を開いて、巽に連絡するのだ。

恐ろしいことに、コールがなる前に、巽の怒鳴り声が携帯から、大音量で流れ出した。

うわぁ、これスッゴイ怒ってる。


「ばかやろう!!!手を離すなといつも言ってるだろう!!!この鳥頭がっ!!もう一回保育園から、やり直しやがれ!!」


おもわず、携帯を耳から離す。


「ごめんなさい。今は、トーラスって名前の食器屋さんの前です。迎えに来てください」


巽のあまりの怒りっぷりに、おもわず敬語をつかってしまう。

コレは相当、心配かけちゃってるな。

自分の馬鹿さ加減がまたちょっと嫌になった。


「今行くから、絶対にそこ動くなよ。絶対だぞ」


そうしつこく、念をおされてから携帯を切った。


いつもの事とはいえ、やっぱり迷子になると不安になる。

しかも、一人になるとロクな事にならなかったりするんだな。


だから、巽があんなに怒るんだけどさ。


ほら、来た。私は小さくため息をついた。


さっきから、私の前を何度も行ったり来たりしていた、いかにもスポーツしてますという、風体の男が二人、近づいてきたのだ。


「やぁ、君一人?何かさっきから、どっかで会った事がある気がしてしょうがないんだけど。ドコで会ったんだっけ?」


全く覚えがないんだけど。大抵外で声をかけてくる男の人は、この台詞で話かけてくる。どうやら、お決まりの台詞ではなく、本当にどこかで会った気がするみたいなんだ。


私は、なるべく無表情でその人達と距離を置こうと動いた。相手にしない事も、有効な一つの手なのだ。


もうすぐ、巽が迎えに来てくれるはずだから、少しの間しのげればいいのだと、自分に言い聞かせる。


でも、この人達はちょっと馴れ馴れしいタイプだった。脇をすり抜けて歩こうとしたら、肩を両脇から組まれてしまった。


「触らないで下さい」


私がそう言った瞬間、男の表情がかわった。まるで、スイッチが入ったように興奮状態になって、息が浅くなり肩に置かれた手に力が入る。


見知ったこの状態は、一言でいうと『欲情している』というらしい。


背筋が冷たくなる。


今、納得した。匂いと声。


確かに声を出した途端に雰囲気が変わった。

いままでの経験もそういう事だったのかと、妙に納得してしまった。


だからといって、この状況が良くなるわけではないけれど。


大声を出すのは躊躇われる。声を出したら、余計に煽ることになるんじゃないの?


鞄を探ろうとして、いつもの鞄じゃない事を思い出した。


そうだった。巽と一緒に来るからって防犯グッズ置いてきたんだ。

次からは巽と一緒だろうが防犯グッツは持ち歩こうと心に誓う。今はそんな場合じゃないんだけど。


全身に力をいれて、抵抗する。人気の無いところに連れて行かれたら、襲われるのが目に見えているから。


「いいから、少しお茶に付き合ってくれればそれでいいんだって」


「そうそう、それでドコで会ったのか、お互いに考えようよ。絶対にどこかで会った事あるから」


そんな上擦った声で、人気の無いほうを探すようにキョロキョロする奴を信用するかってんだ。


巽が来るまですぐだ。それまでここで耐えればいいと思ったけれど、そうは問屋がおろしてはくれなかったのだった。

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