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風の行方  作者: 藍月 綾音
本編
52/61

じゅ~はちの2

再び朝です。和臣に天罰が下されたもよう。


真っ赤な顔をして、荒く息を吐き出す姿はなんとも色っぽいけれど熱がね、39度もありますよ。

本当は帰るつもりだったけれど、和臣を置いて帰れるわけもなく………。


「おかゆ食べれる?」


と聞けば、うっすらと目を開けて頷く。熱で瞳が潤んでいて不謹慎だとは思いつつも眼福です。

なんかもう、和臣が熱出すと存在自体が犯罪なんじゃないかと疑いたくなるほど色気が増す。

綺麗な顔立ちが、妖艶で壮絶な色気をかもしだしているんだもん。

後で絶対に写真に撮っておこうと心に決め、和臣の背中にクッションや枕をつめて座らせる。

本当にしんどそうで、おかゆを少し冷ましてしてからスプーンを口に運んだ。


「なに、きら食べさせてくれるの?」


おぉっ!ヤバイ!胸がきゅんきゅんする!これは、母性本能ってやつか!!


「熱出したのは自業自得だけど、しんどそうだもんね。今日は一日看病するよ?」


「自業自得いうな」


和臣は口を尖らせる。


「自業自得でしょ?嫌だって言ったのに昨日一日裸のままだったじゃん。もう11月だよ?そりゃ風邪も引くよ」


「きら、かわいくない」


「かわいくなくていいです。ほら、あ~んして」


あぁ、好きな人を看病するっていいかも。なんかホンワカする。熱が高いのが少し心配だけど、これぐらいだったら一日寝とけば治るでしょ。


「ねぇ、今日も傍にいなよ」


「そのつもりだよ?ここで本読んだりしてるから、和臣はゆっくり寝てて」


そう言うと和臣が子供みたいに柔らかく笑う。

打ち抜かれてます。心臓に穴が開くよこれ。

おかゆを食べさせながら、私は心にガッツポーズを決めた。


男の人の一人暮らしに、風邪薬や氷まくらなどというものは必要ないらしい。確かにめったに体調は崩さないもんな。

和臣が寝てしまったのを確認してから私は近くのドラックストアへ必要なものを買いに出かける事にした。


内緒で寝顔を写メでゲットしてからね。

山口帰ったら待ち受けにしようっと。


和臣に断らずに出てきたので、急いで氷まくらや、風邪薬それとおでこに貼って熱をとるものなどを買う。

それとのど越しがいいゼリーや、果物を調達しようとスーパーへ行く事にした。

そうだ、スポーツドリンクもあったほうがいいか。

熱を出した時は水分をきちんと取らないと肺炎になったりするもんね。


あれこれ考えながら、買い物をするのは久しぶりだったりする。

普段は適当に買って、適当に作って食べてるからさ。

和臣に体重戻せって言われたから必死でご飯食べたけど、一人のご飯は相変わらずおいしくないので、本当に適当に食べていた。

野菜と肉が入ってればそれで良し的な丼が多かったな。


巽にバレたらまた怒られそうだ。


必要なものを調達して、お見舞いに花を買うと時間はお昼を回っていた。

いけない、和臣が目を覚ましちゃうよ。

私は急いで和臣のアパートへ帰った。そして、和臣の部屋の前でうずくまる見覚えのある影を発見してしまった。


しまった。この場合、どれが正解?


一、声をかけて偶然な振りをする。


二、いなくなるまでどこかに隠れる。


三、彼女をにおわせつつ声をかける。


どれだ。てか、なんでここにいるんだ江藤さん。


そう、和臣の部屋のドアの前で江藤さんがうずくまって座っていたのだ。

どの道、江藤さんを何とかしないと部屋に入ることが出来ないんだよね。


声かけてみるか。


意を決して、私は江藤さんに近づくと声をかけた。


「こんにちわ、江藤さん。どうしたの?こんなとこに座り込んで」


私が声をかけると、江藤さんは本当に驚いたように勢いよく顔を上げて私を凝視した。


「嘉月先輩?先輩こそどうしてここに?」


迷ったけれど、半分本当のことを言うことにした。


「私?橘先生が熱をだしたから看病しに来てるの」


そういうと、江藤さんは顔をゆがめた。


「なんで?嘉月先輩が看病を?」


なるべく平静をよそおって私は笑う。

たぶん、江藤さんは和臣の事が好きなんだ。和臣が学校を休んだから心配してここまで来たんだろうと思う。


悪戯に刺激しないほうがいい気がした。


「私も卒業してから知ったんだけど、私の幼馴染の大親友が橘先生だったんだ。それ以来ちょくちょく会う機会があってさ。今日も幼馴染に頼まれたの」


という事にしておこう。

半分本当だし。


そう言って鍵を取り出すと玄関を開けた。


「鍵までもってるんですか?」


疑惑の声に内心冷や汗をかきながらも笑顔で答える。


「うん、朝に一度来てるからさ。橘先生寝てるから鍵を借りて買い物に出てたの。江藤さんがお見舞いに来てくれてる事伝えてくるから、玄関で少し待っててね」


昨日と視線が違う。今日は敵意がバンバン伝わってくるからね視線が痛いよ。

玄関に迎えいれ、リビングに入ろうとすると寝ている筈の和臣が先に扉を開けた。


「おかえり。何処に行ってたのさ。きら、体温計何処に置いたの?」


後ろで小さく悲鳴があがる。


何故って?


和臣が上半身裸だから。

汗かいて着替えてたのかな?

悲鳴はもちろん江藤さんだ。


「あれ?誰かいるの?」


和臣が首を傾げて玄関を覗くと顔を隠そうとした江藤さんが固まった。


「江藤?なんでここに?学校はどうしたんだ?」


と和臣が言うと江藤さんが更に目を見開いた。


「まさか…………、橘先生?」


なんで疑問系?と思って和臣を見て納得。ちょんまげみたいに前髪を結っているから綺麗な顔が全開だ。

確かに先生モードとは雰囲気からして違うからね。むしろ別人だし。


「橘先生がお休みしたから、心配してお見舞いに来てくれたんだって。それより、パジャマ着なよ。うら若い乙女の前でする格好じゃないよ」


「汗かいたんだよ。先にシャワー浴びてくる」


びっくりだよ。なんでシャワーを浴びようと思うんだこの人はっ!肺炎になりたいとかかっ。


「まだ熱があるでしょ!馬鹿言わないで、こじらせたらどうするのよ!気持ちが悪いのなら後で拭いてあげるからっ!」


和臣が嬉しそうに笑った。

私の耳に口を寄せて江藤さんに聞こえないように囁く。


「じゃぁ、遠慮なく隅からすみまでよろしく頼むよ」


病人の癖に、響きがいやらしいぞ!

少し睨んでから、江藤さんを見ると和臣を凝視している。

いや、これは放心してるのかな顔がゆでダコになってる。


「しょうがないから、お茶ぐらい出すよ。あがれよ、江藤」


顎でくいっと示すと和臣は一旦寝室に消えた。着替えるんだろうな。

私はスリッパをだすと、江藤さんをうながした。


「ほら、あがって」


「嘉月先輩。あの人、本当に橘先生なんですか?」


うわぁ、夢見る少女になってるよ。うっとりとどこか遠く見てる。


「うん、橘先生だよ。学校いるとあんまり顔ださないからね。無駄に顔がいいんだよ」


ふわりと笑う江藤さんは、間違いなく可愛いい。美少女の輝きにあてられちゃうよ。


「素敵。ますます好きになっちゃいました」


え゛っ!やっぱり?好きなの?だよね、友達と一緒ではなく一人でここまで来た事に本気を感じるし。


「嘉月先輩っ!協力してくださいっ!」


目に新たな闘志を燃やした、江藤さんは私の右手を両手で握った。


「申し訳ないけど無理だよ」


間髪を入れずに断る。たいして仲がいいわけじゃないし、自分の彼氏に他の女の子を近寄らせてたまるか。


断られる事が想定外だったのか江藤さんはきょとんと不思議そうに私をみた。


「まさか、その容姿で橘先生が好きとかいわないですよね?」


あれ?可愛いい顔して毒はいたぞ?


ひきつった笑いを浮かべて、私は江藤さんに言った。


「いや、私は今山口県に住んでるから。今はたまたまこっちに帰って来てるだけなの。だから無理だよ」


「なぁんだ。嘉月先輩って見かけによらずチャレンジャーなのかと思っちゃいました。そうですよね、嘉月先輩と橘先生じゃ釣り合いがとれないですもんね」


思いっきり胸にグサッと来ちゃったよ。意外だ、天使みたいな容姿してるのにさらっと毒はくよこの子。



読んでくださりありがとうございます。

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