じゅ~ろくの2
「ちゃんと、本当の気持ちを聴かせてよ」
そんなことは、何年も前から決まっている。
「…………大好き?」
言った!とうとう言った!!
うわぁ、恥ずかし過ぎるっ!!
「なんで疑問系なのさ。喧嘩売ってるの?」
睨まれた。だって恥ずかしいんだもんよ。これが限度だよ。
などと和臣が許すはずもなく、結局は言い直す私。
いや、でもおかしいよね?!なんで私喧嘩売っててる事になってるの?!
「…………大好きです」
やっぱり恥ずかしいっ!なにコレ、ムズムズする。叫びたい!!
「じゃ、問題ないじゃん。長い休みの時には家に来たり、俺がここに来ればいいんだから」
あまりにも、アッサリ和臣が言った。
…………問題ないのかな?
「好きだよ、きら」
神々しい笑みを惜しげもなく披露して、和臣の顔が近づいてくる。
えっ?話し合い完了?
私の腰を引き寄せる動作は自然で、なんの抵抗もなく吸い寄せられるように和臣へ体が傾く。
次の動作が予測出来たとき…………。
「やっぱり喧嘩売ってるの?」
至近距離で和臣が私を睨む。何故かって?キスをしそうになったので両手で自分の口を塞いだから。
「私さっき吐いたから、嫌」
和臣は、妖しく笑う。
「俺は気にしないけど?きらが気になるなら歯磨きしておいでよ。邪魔者が帰って来る前に、キスぐらいしよう?」
イヤイヤ、なんだか言葉にされると恥ずかしいというかその為に歯磨きってのも。
なんて思いながらも、いそいそと歯磨きする私。
…………だってさ、両想いなんだとか思ったら、くっつきたくなるじゃんか。と自分に言い訳しておく。
くちゅくちゅとうがいをしながら、鏡を見ると顔がゆでダコみたいになっていた。
それでも、やっぱり恥ずかしさが先に立ってリビングに入って行けないでいると、しびれを切らしたのか、和臣が洗面所に入ってきてしまった。
なんかもう、ハンターみたいな目になってるよ?
あまり見た事ないその表情に、かなり腰が引けてくる。あの、初心者なんですけど私。
「時間がないって分かってる?我慢も限度なんだけど?」
反論する間もなく、抱えあげれた。
そのままリビングに連れていかれ、ソファに降ろされた。
「気はすんだ?」
そう言って、私を見つめる瞳は切なげで胸の奥がキュンと音をたてる。
「…………きら」
和臣の瞳に引き寄せられ、いつもより低く名前を呼ばれてドキリとする。
何度も確かめる様に唇が重なって、私は和臣のシャツを握りしめた。
合間に名を呼ばれて、次第に呼吸が上がる。
いつもと違うゆっくりと味わうようなキスに、うっとりと身を委ねてしまう。
頭を撫でられ、耳を撫でられつい鼻にかかった声をもらす。
「きら。好きだよ」
耳元で囁くと耳たぶをそっと噛む。
身を捩ればまた唇が重なった。
夢かもしれないと頭の隅で思う。昨日までの孤独感が嘘みたいに薄まり、和臣で満たされていく。
唇が重なる度に、胸の中に新しい風がふいて、燻っていた黒いモヤを消し去っていく。
不安とか寂しさとか悪い感情が薄まり爽やかな、良い感情に満たされ変えられて、幸せだなと思った。
和臣はキスを止めると、私を抱きしめる。首筋に顔をうずめて何かを確かめるように顔を押しつけていた。
「もう駄目って言わないね」
笑いを含めた言葉に、シャツをさらに握りしめた。
「もう死んだ。天国がみえるもん」
「天国はこんなもんじゃないよ?今度一緒に連れて行ってあげるよ」
「天国に??心中なんて嫌だよ私」
クスリと笑うと、艶のある声で囁かれた。
「天国に行ったみたいに気持ち良くしてあげるって事」
…………撃沈。
どれだけ爆弾抱えているんだ、この人。
なにも言えずに、固まっていると和臣は体を揺らして笑い始めた。
首筋に息がかかって、くすぐったい。
「きらにはまだ早かったか。いいよゆっくりで。毎日電話するし、メールもする。寂しいなんて思えないくらいにさ」
「うん」
「十一月の連休には、泊まりにおいで。学園祭があるから遊びに来るといい」
「うん。行くよ」
「最初から遠距離になるけど、大丈夫だから。安心して勉強するんだよ?で、二年でちゃんと卒業して戻っておいでよ」
例えば会いたいと思ってもすぐに、会えない。仕事が忙しければ電話も怪しい。
だいたい、和臣が女の子に対してマメになったことなんてあったっけ。
それでも気持ちが嬉しい。それに、離れていても私の気持ちは変わらない。
「…………あのさ、家の家系は好きになったらトコトンだよ?大丈夫?」
「なにそれ」
「だってりくも母も危ない人だもん。私も怪しいと思う」
「いいよ。俺しか見ないって事でしょ。せいぜい怪しい人になりなよ。いくらでも付き合うから」
その心意気だけもらっておこうかな。実際に危ない人になったら速攻で捨てられそうだし。
「それに危ないのは俺かもよ?今回、独占欲が強いって自覚したからね」
スッと指先で首筋を撫でられ、ソコにキスを落とされた。
「ん」
「ほら、そんな声を誰にも聞かせたくないし?本当は連れて帰りたい。体質自体が心配だからね」
またまた撃沈。
私その内に心臓発作か、鼻血の出血多量で倒れると思う。
「心配ないよ。こっちの人車使う人が多くて、バスが空いてるし、人口密度が低いからあまり距離が近づかないの。だからあんまり影響ないみたいなんだ。多分こっちのほうが私にあってる」
これは本当。東京みたいな人混みはない。
「あんまり、安心して気を緩めないで。なにがあるかなんて、何処にいても分からない」
じっと見つめられて、耐えきれずに目をそらすと頷いて返事をした。
頬に当てられた手が熱い。
「ご飯もちゃんと食べて。こんなに痩せてたら楽しくない」
…………なにがって聞かないほうが良さそうだよね。
大人な返事が返って来そうだもん。
「これからはちゃんと食べる。もう、大丈夫だから」
「よし、約束だよ。十一月に東京に来るまでには、少し抱き心地よくなっておいてね」
抱き心地ですか。和臣が言うといやらしく聞こえるのは何故だろう。
「じゃ、もうそろそろ邪魔者が帰ってきそうだから、最後にもう一回」
って、なんだそりゃっ!
力一杯腰を引き寄せられたと思ったら、あっという間に押し倒された。
和臣が強引に覆い被さり、舌を絡め取られる。
さっきまでの穏やかなキスと違い激しい行為に気持ちが追いつかないのに、身体の熱が高まっていく。
何度も角度を変えて、私を追い上げて逃がしてくれない。
何も考えられずに和臣だけを感じて、生きてる、そう思った。
お互いを確かめあっているのかも知れない。誰でも踏み込める領域じゃない。
限りなく近くに、和臣がいて私を刺激する。
和臣が好きだ、和臣じゃなきゃ嫌だと強烈に思った。
「きら、やっぱり麻薬みたいだね。久々のきらはヤバい。もう逃げられないのは、きっと俺のほうだ」
最後に下唇を吸われて、身体が離れた。
少し淋しくて、自分から抱きついてしまった。
「どうしたのさ。あんまり可愛いい事をしてると襲うよ?」
優しく言うけど、なにか違う。
襲われては大変とバッと体を離した。
丁度、玄関が開く音がした。
巽だと思い、起き上がって立ち上がろうとすると和臣に後ろから抱きすくめられた。
「なんで?」
「いいから」
そう言って離れてくれない。どうしようかと考えてる内に、巽と奏がリビングに入ってきた。
「おぉ、纏まったか。おめでとさん。良かったな、きら片想い長かったもんな。俺に感謝しろよ」
状況を一目で理解して放たれた言葉は、私の心臓を直撃した。
片想い長かったって、巽、知ってたの!
「いや、見てればわかるから。俺もそこまで野暮じゃないからカズはなにも言ってないぞ?」
私の聞きたい事を先回りして言うあたり、流石巽だ。
「ちぇ、僕にも感謝してよ。気をきかせて二人にしてあげたんだからさ。結局、失恋だもんなぁ」
奏が明るく言ってくれたので、少しホッとする。
「…………ありがとう」
「お礼なんていらないから、橘さんに飽きたら、僕の所に帰っておいで。待ってるから」
色気のある視線を投げかけられて、顔が赤くなる。
後ろで和臣がどんな顔をしているかなんて知らなかったから。
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