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風の行方  作者: 藍月 綾音
本編
44/61

じゅ~ごの3

やっちゃったよ。

久々の再会で、巽と和臣が探しにきてくれて感動の場面のはずが…………。

私、りくの事を本当に嫌いなのね。再確認しちゃった。

なんて言っている場合ではなく巽がシャワーを浴びている今のうちになにか打開策を考えなくては。


「和臣、巽めちゃくちゃ怒ってると思う?」


恐る恐る聞くと肯定の頷きが返ってきた。


「なにもTシャツ掴んで吐かなくても良かったんじゃない?」


…………だよね。


「反省しているなら、大丈夫だよ。ほら、こっちおいで」


洗面所の扉の前でウロウロしていた私に、ソファに座った和臣が手招きする。傍に近づくと、腰に両腕を回された。


「ほら、だいぶ痩せただろ。ただでさえ細いんだから、ちゃんと食べないと」


久々のギュッにたちまち顔が赤くなる。


「駄目、和臣ホント無理」


慌てて押しやって距離をとった。


「なんでさ?さっきはきらが飛び付いて来たじゃんか」


あぁ、その首を傾げての上目遣い奏も破壊力あったけど、和臣はもっと駄目なんだって。

なんだかずっと、昔の夢を見ていたせいか落ち着いたら和臣の顔をまともに見れない。

顔は熱くなるし、心臓はあり得ない速さで脈打っている。

今、心電図を計ったら凄い図を描き出しそう。


「だって、心臓止まっちゃうから駄目なんだよ」


かなり本気で言っているのに、鼻で笑われた。


「抱きしめられて、心臓止まる人はいないよ」


そう言ったかと思うと、私を引き寄せる。私はバランスを崩して、和臣に倒れこんだ。


「ほら、試してみようよ」


すっごく楽しそうに言われても困るから。

本当に無理!

暴れて離れようとしても、放してくれない。


「うん、ホントに痩せすぎ。せっかく抱き心地が良かったんだから、体重戻しなよ」


…………いやいや、なんかおかしいよ?首筋に顔をうずめちゃ駄目だから。

ほら、また心音がスピードアップしてるよ。限界だからね。


「…………私の前でいい度胸ですね。晶さん」


あれ?まだいたんだ。

部屋の隅に、壁に寄りかかり呆れたようにりくが此方を見ている。


心の底から帰れと思う。いや、叫びたい。

今現在進行形で顔を見たくないからね。

無視だ、アレは存在しないから居ないと同じ。


「きら離れてる内に、俺の免疫無くなっちゃった?」


おぉ、和臣も見事に無視だ。


「まるっきり、最初から免疫なんてないからね」


「そう?病院あたりじゃ大分免疫アップしてたけどな」


病院?


っっ!うわっ!思いだしちゃたよ。なんか、凄いことされたよね。

消えろっ。メモリ削除だから。あんな恥ずかしい事を覚えてたら駄目、ダメ。


「和臣、お願いだから放して。死んじゃうよ」


「だから、試してるんでしょ。きらが困ってるの楽しいし」


「だから、いい度胸してますね貴方達。晶さんを放して下さいますか?」


しびれを切らしたのか、りくが近づいてきて私の腕を掴んだ。

和臣がりくを睨んだその時、またインターホンが鳴った。


「おっ来たな」


シャワーを浴び終わったらしい巽が上半身裸で玄関に歩いていく。

あら、この状況無視ですか。

助けてくれないのっ。

そして、ひとの家の客にそんな格好で出ないで!


「あ~あ、邪魔者その2が来たよ」


和臣の呟きに、来客が誰か見当がついた。

バタバタと走る足音が聞こえてきてリビングに飛び込んできた人物は、私の名前を呼ぶとわき目もふらずに突進してきた。

りくを押し退けて、私の前で立ち止まる。

そのまま、私を抱えあげた。

いやもう、今日は子供扱いだねみんな抱えあげるし。

和臣は、さっと腕を放してくれていた。


「晶、無事で良かった。あんなメール一つで僕が納得すると思ってた?」


「ごめんなさい。私が送った訳じゃないんだ」


「だと思った。晶、痩せた?凄く軽いし、なんかゴツゴツしてるよ?」


…………ゴツゴツ。骨が出てきてるってこと?

うわぁ地味にヘコむよそれ。


「奏は元気だった?本当にごめんね。連絡したかったんだけど連絡先が分からなくなっちゃって」


やっぱり奏も一緒に来てたんだね。さっき金持ちのお試しくんって言われてたし。

なんか巽に無理言われたんじゃないだろうか。


「いいんだ。こうやって晶が無事だったんだから」


「はいっ、終了。無事確かめただろ」


ヒョイっと、後ろから巽の腕が伸びて来て私を奏から取り返すかのように抱える。


「相変わらずですね」


奏は呆れたように言うと、りくに気がついた。


「どちら様?」


「きらの従兄弟で、婚約者だってさ」


和臣が答えると奏は目を丸くする。


「おかしいなぁ。僕が晶の家に縁談の申し込みしたら、是非ともって大喜びだったよ?貴方があの赤城さんか初めまして」


しれっと爆弾発言?

また、母が喜びそうな話だし。

奏の家柄を考えれば母が飛びつく姿が目に浮かぶ。

それに、奏はりくの事を知っているようなのも気になる。


「晶さんに縁談?聞いてませんね」


りくが眉をひそめた。すぐに携帯を取り出すと、ベランダに出ていった。

それを横目で眺めて、私は巽にぴったりくっついた。


「なんだよ」


「ん?巽だなって思って。さっきはごめんね」


「おう、反省しろ。それよりもきら?聞きたいことがあるんだが?」


タラリと冷や汗が流れた。


こわっ。

なんだか怒ってますよ?

さっきのリバースは許してくれたんだよね。


距離をおこうと、巽から降りて離れようとするとすかさず頭を鷲掴みにされた。

片手で私を抱えるって力持ちすぎやしないか?

痛いんだけど、これっ!


「冷蔵庫のなかに食料品は空っぽ。料理のあとなし。大量のゼリー状栄養補助食品に、さっきは胃液しかでて来なかった。説明しろ」


…………目敏い。どこの姑だよ冷蔵庫チェックって。


「きら、俺が聞いてるんだ」


俺様発動っ。痛いっ!思いっきり掴まれてますからっ!


「…………食べられないんだもん。食べると吐くから」


渋々白状する。いや、させられただよね。


「そんな事だと思った。お前ね、人間食べないと死ぬんだぞ分かっているのか?病院は行ってるんだろうな」


「だって病院行っても、治らないから。一応アレなら胃に入ったから死ぬことないだろうし?大丈夫かなぁと」


ハハハと乾いた笑いも巽の機嫌を良くする事はできない。


「そんなこと医者じゃないんだからお前に分かることじゃないだろうが」


わかるんだもん。原因はただ一つ。


「……………………だもん」


あぁ、言いたくない。言ったら負けだ。


「もっと大きな声で言え」


こわっ。うぇぇ!!覚悟を決めろ自分!!


「だって、巽がいないんだもんっ。巽がいればちゃんと食べれるもんっ!」


あ~あ言っちゃったよ。

なんか、結局巽離れが出来ないって事でめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。

でも一度出た想いは止まらない。恥ずかしくたって止まらないのだ。


「一人で大丈夫なはずなのに、知らない人ばかりだし、いつまた変な人がくるか分からないしあの人は何するか分からないから、巽に連絡出来ないし、声がきけないし、話す人はいないし、淋しいし、一人でご飯美味しくないし、そしたら吐くし、和臣に何度も連絡したら巽にばれちゃうし」


たまりにたまっていた、不安と不満が一気に吹き出す。


「私は巽がいないと生きてけないんだぁぁぁぁ」


堰を切ったように、涙が溢れてくる。


「…………これはまた、熱烈な愛の告白だね。妬くなよ、お前等」


巽は呆れたようにそう言うと、私をそっと抱きしめてくれる。


「お前、ほんっとに俺が好きだよな。恋愛感情じゃないとこがまた、なんとも言えないんだけどさ」


「だづみ゛ぃぃぃ」


涙が止まらない。


「分かった、分かったから。しょうがねぇな。今、飯作ってやるから泣きやめよ」


巽に会えた安心感は、私の心を一杯にしたんだ。


「だづみ゛ぃぃぃ」


「はいはい。じゃぁ買い物行ってくるから、後はカズのとこ行っときなさい」


背中をポンポン叩きながら、和臣のほうに追いやられそうになったので、必死にしがみつく。


「…………お前ね。いい年しといて、赤ちゃんがえりか」


この際、赤ちゃんがえりでいいです。巽と一緒がいいです。

和臣と近づいたら心臓止まるしさ。


「…………巽、お父さんだったんだ。六歳で仕込むって早すぎだよね」


「カズてめえ、下世話な話にしてんじゃねぇよ。しょうがないんだよ、今まできらには俺とお袋しかいなかったんだから」


あれ?ひょっとして巽は、私と母の関係に気づいてたのかな。


「まぁ、きらのこの体質は人間関係壊すのに十分だし、人間不審にもなるしな」


さらにしがみつくと、後ろから声がかかった。


「晶さん、縁談の話は本当でしたよ」


…………ん?あっ、りく。


「失礼しました。坂野財閥のご子息でしたか」


すっと奏の前に立つと、ななめ45°の綺麗な礼をとる。


「話は通りましたか。それは良かった。それでは鍵を僕に下さいますか?お義母さんにそう言われたでしょう?」


え゛?なんで奏に?


渋い顔をしながらも、りくは胸ポケットからカードキーを取り出すと奏に手渡した。


「はい、ご苦労様。では、晶のご両親に伝えてくださいね。もともと晶と付き合っていたのは僕だったんだ。それをあんなメール一つで別れさせた」


ピクリとりくの眉があがる。


「僕は怒っているよって言っておいてね。ついでに君の顔も見たくないから、帰ってくれるかな?」


りくは拳を握りながら、一礼すると無言でマンションを出て行った。権力に弱いんだよ。情けない。

まぁ、最後に睨まれたけれど。


「で?奏が今の婚約者?」


和臣が奏にムッとした表情で問いかける。


「それにはあまり意味がないですよ。晶の気持ちには、もう誰かがいるみたいだし」


…………バレてる。

完全に感づいてるよ。

思わず巽の後ろに隠れた。

なんでこんなに短い間にバレるのさ。


「…………確かにね」


あれ?和臣も納得しちゃった?私ってそんなに分かりやすかったっけ?


「悪いんだけど先にきらに何か食べさせたいんだ。俺が買い物行きたいから、コレ頼むわ」


う゛っ。コレ扱いされた。

久々に会ったのに?さすが巽。ブレのない鬼畜さだ。離れたくないって言ってるのに。


「すぐに戻ってくる?」


「当たり前だろうが。大人しく留守番してろ。お前今外に出られる顔してないからな」


頭をガシガシかき回されて、私は腕を離した。

今は少しでも傍にいたいのに。ちょっと名残惜しいけど、すぐに帰ってくるなら仕方がないと納得するしかない。巽が作ってくれたものなら食べれる自信あるし。


「下にスーパーあるから。後、コレが鍵」


「じゃぁ、僕も一緒に行くよ。買いたいものあるから。だから鍵はいいよ、今貰ったの使うから」


えっ。奏も行っちゃうの?


さっさと立ち上がり奏と着替えた巽はスーパーに行ってしまった。


残されたのは、和臣と私だけ?

きっ緊張がっ!


読んで頂きありがとうございます。

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