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風の行方  作者: 藍月 綾音
本編
43/61

じゅ~ごの2

…………幻覚と幻聴?

いや、私がとうとう壊れた?


「きらっ!」


あれ?幻聴じゃないや。


「…………橘先生?」


「和臣だからねっ!」


目の前に和臣がいる。

携帯を片手に持って此方に歩いて来ている。


「巽っ!こっちビンゴ!俺の勝ちだからねっ」


「…………あっ」


巽もいるの?


だんだんと目の前が、涙で滲んできて見えないよ?


「ほら、会いにきたよ。ちゃんと見つけた」


なんでいるのとか、どうしここが分かったのかとか、聞きたいことは山ほどあるのに、出てきたのは子供みたいな泣き声だった。

懐かしいその手がふわりと私の頭を撫でる。


「あ~あ。裸足じゃないか。しょうがないなぁ」


巽がいつもするように、ひょいと抱えあげられた。


「泣いてもいいけどさ、俺が泣かしたみたいじゃないか」


首にしがみついて、和臣だと確かめる。

優しく背中を撫でてくれることが嬉しかった。


「…………あいっ……あいっ。あ゛い゛だがっだぁ~」


「分かってるよ。本当に強情なんだから。ちゃんと迎えに来てっていいなよ。きらの大丈夫はホントあてにならない」


何を言われたって、首を振るだけだ。それしか出来ない。


「晶さんっ!何をしているんですかっ!」


背後から大きい声が聞こえる。りくが追いかけてきたんだ。


「誰なのさ、あのお兄さん」


不信感がありありと出ている和臣の首にしがみつく。

今は離されたくなかった。


「…………従兄弟」


ふぅん、アレがと和臣が小さく呟いた。


「コンニチワ。きらの従兄弟さん?さっき会ったよね。よくも知らないとか言ってくれたね?血縁まであるじゃん」


和臣がにこやかに言うと、りくも穏やかに答えた。


「一応、嫁入りまえの娘ですからね。いかにも怪しげな男に易々と会わせられませんよ」


「怪しげとは言ってくれるね。きらをこんなに痩せさせて。なにしてくれてるのさ」


「どちら様か存じ上げませんが家庭内の事に口出ししないで頂きたい。」


…………いつから、りくと家族になった?やめてよね。


「きらっ!」


遠くから巽の声が聞こえた。


「巽!」


反射的に和臣から飛び降りて、巽に向かって走り出す。

巽だ、巽がいる。


「待ちなさいっ!晶さん、分かっているのですか!」


りくの声が聞こえたけれど、それがなんだっ。

今は母の脅しなんて意味がない。


「あ~あ。きら裸足だよ」


呆れたような、でも笑いを含んで和臣が言うけれど、裸足だという事も気にかからなかった。


巽がいる。それが大事だ。


すぐに巽に辿りついて、飛びついた。


「たつみぃ。巽だぁ」


私を抱き止めて、ギュッと抱き締めてくれた。


「おぅ、心配したぞ。馬鹿たれが」


そのまま私を抱き上げ、いつものように頬を引っ張った。


「全く。ほら、顔見せろ。傷は良くなったのか?泣くなよ子供じゃないんだから」


巽と和臣に会えたことで、涙腺は壊れてしまっている。

巽は私の前髪をさっと、払って額の傷に親指を走らせ次にしがみついている腕をとって腕の傷を確かめる。


「やっぱり痕は残ったのか。あの野郎警察なんか呼ばないで東京湾に沈めるんだったな」


巽、それ犯罪。そんな事を、思いながら久しぶりの巽の匂いと温もりに涙が止まらなくなっている。

会いたかった。

触れたかった。

寂しかった。

本物の夢じゃない巽。

小さい頃から当たり前に隣にいてくれた人。

宥めるように背中をポンポンと叩いてくれるけれど、何かに気付いて手が止まり体をそちらに向けた。


「やっぱり、てめぇが絡んでたな、赤城」


「よくここを、嗅ぎ付けましたね。案外駄犬じゃなかったんですね」


…………あれ?巽とりくって面識会ったっけ?

母の腰巾着のりくは母が家に帰ってくる時は着いてくる事が多かったけれど、隣にまでは挨拶になどいかないだろうに。


「お陰様で、金持ちのお試しは知り合っておくもんだな」


奏のこと?奏も来てるの?


夢みたいだ。巽と和臣がいる。これで目が覚めて、夢だったりしたら死ぬかも。


「晶さん此方にいらっしゃい。家に入りなさい。いい歳した大人が何をしているんですか、みっともない」


首を振って、巽にしがみつく。


「赤城。きらになにをした?少し会わないうちに、すげぇ痩せちゃってんだけど?」


「なにもしてませんよ。兎に角貴方は、もうなんの関係もないのですから帰って下さい。ご心配して頂かなくても、私がついてますから」


そう言って、りくは近づいてくる。私に触れようと腕を伸ばしたところで和臣に止められた。


「待って。きらが怯えてる」


「お前は、昔からそうだな。きらに執着しているくせに、気づかない振りを続ける」


…………今、なに言った?


「美弥さんに取り入って、十二も年下の従姉妹の旦那面か?そういうのは、本人同士が恋愛関係になってからやれよ」


本人同士って、誰と誰?

りくと私?ないないっ!ないからね!


「私が晶さんに執着?冗談は止めて下さいますか?貴方がたには関係のないことです。私は美弥さんから晶さんの事を任されているんですよ」


鼻で笑うりく。


「そうやって、大義名分がないときらの傍でうろうろ出来ないもんな?」


うわぁ久々の黒巽だ。笑顔が怖いから。でも、少し疲れてる顔してるかな。


「巽、りくは私の事を好きじゃないよ?それぐらい分かるけどな」


「馬鹿。執着って言っただろうが。日本語勉強しなおせ。赤城が好きなのは、美弥さん。美弥さんの息子になるにはお前と結婚するのが、一番近道だろ」


…………ん?てことは。



「…………変態ぢゃん」



言っちゃったよ、和臣。いや、その通りなんだけどね。


「俺は昔から、赤城に敵視されてたよ?きらが俺になつくもんだから、赤城の中で俺がお婿さん候補ナンバーワンだったから」


うちの家系って、危ない家系だったんだ。…………私もヤバかったりして。

いや、既に危ないかも。


「何を言っても、晶さんが私の婚約者であることは変わりませんよ?」


イヤイヤ、初耳だから。何がなんだって?

りくがとんでもないことを言い出した。


「なにそれ。きらは知らないみたいだけど?」


驚いた顔をしている私を横目に見て巽が言う。


「初耳。無理、絶対に無理!まだ巽と結婚しろって言われたほうがましっ」


「お前ね、俺を赤城と同列で並べるの止めてくれるかな」


だってさ、結婚ってあれだよ?一生涯誓うんだよ。相手の子供産んだりしちゃうんだよー!

あり得ないっ!無理っ!


「あっ、きら凄い鳥肌。そんなに嫌いなんだ。珍しいね、あんまり人の好き嫌いないのに」


からかうように、和臣が言うから私は怒鳴った。


「りくは大っ嫌いだから!冗談でも無理!嫌だ!」


「そんな事、一緒に暮らして、肌を合わせればその内なんとかなります」


何をいいやがるっこのオバコンがっ!


ぞっとして、身震いした。


身の毛がよだつってこれかっ!

幽霊が出た時だけじゃないんだね。見たことないけどっ。


あの母なら、やりかねないから困るんだ。だから合鍵持っていたのか。

ひょっとして、貞操の危機だったの?私。


「さぁ、晶さん帰りますよ。貴女の馬鹿な頭でも、婚約者の意味ぐらいは知っているでしょう?」


まて、一方的な婚約は成立するのか????

だってさ、うんって言った憶えないし、今初めて聞いたし。

無効だよね?

親が決めたっていっても、どうせ母が勝手に言ってるだけだろうし。

絶対拒否だから。


「なにを今更嫌がるのですか。もう、キスまで済んでるでしょう」


「「キス?」」


巽と和臣がハモる。


てか、え?私も知らないよ?


「熱中症で倒れたでしょう。あの時意識のない貴女に誰が水分をとらせたと思っていたんですか」


…………りく?


…………が?


…………口移し?


…………てこと?



「だづみ゛、はく」



駄目だ。想像しただけで、込み上げてくるものがっ!


リバースきますっ。



「うわっ!馬鹿っ!止めろっ。カズ助けろっ!」


…………只今聞き苦しい音声が流れております。


読んで頂き本当にありがとうございます。

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