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風の行方  作者: 藍月 綾音
本編
4/61

にぃ~の2


「かっ嘉月!お前キャラ変わりすぎ!!!恥じらいはどこへ行った!!」


あぁ、顔を真っ赤にして怒鳴る先生も可愛くて、素敵だ。


しまった。これじゃぁ、ただの変な人?危ない危ない。


コホンと咳払いをして、気を取り直す。


「橘先生がカズ君って時点で無くなった。だって巽だよ?この、カズ君大好き、私大好きな巽が話す事なんて、だいたい想像がつくね。何年の付き合いだと思ってるの?」


そう、私の初恋は脆くも砕け散ったに違いない。


巽の大親友。


私のあんな話や、こんな話も知っているに違いない。


今となっては、橘先生を好きだったことは、恥ずかしくて言っていない事が救いだ。


セーフ。


自分を褒めるぞ!よくぞ言わなかった!


何しろ、今まで会ったこともないのに、私はカズ君がなんたるかをだいぶ把握している。


向こうも然りと思ったほうが、身の為だ。


ここではっきりさせておこう。



橘先生は、基本的に真面目な先生で、温厚なうえに笑顔を絶やさない、とっても優しい先生で有名だった。毎日、先生の笑顔で癒されてたんだよ?


一方、カズ君といえば、一言でいえば鬼畜で悪魔である。

お世辞でも性格が良いとは言えない。人に言えない事も沢山している。学校の先生になったと聞いた時は、生徒になるであろう青少年達に深く同情したもんだ。


あのカズ君が立派な先生になれるとは、誰が思っただろう。

橘先生の様子を見ると、相当厚い猫の皮を被っているに違いない。


ちょっと騙された感もあるけれど、それで私の恋心が無くなるわけがない。


ちょっとやそっとじゃ揺るがないぐらいには、好きなんだもん。


性格が多少ひん曲がっていようと、橘先生は橘先生だ。


だけどね、これで橘先生が私に好意を持ってくれるかも、という望みは無くなったってことだ。巽が話す『きら』に恋愛感情が芽生えるわけがない。



この部屋で会った時は、運命感じたんだけどなぁ。


くそぉ、飲むぞ。飲んでやる。


そんな私の心情をよそに、橘先生がしみじみと言った。


「しかし、嘉月はずいぶんイメージが違うよな。きらって聞けば納得だけど、嘉月だろ?高校の時は、きっちりみつあみ編んで、黒縁の分厚い眼鏡をかけた挙げ句に前髪で顔隠してただろ?友達とつるんでるとこも見たことねぇし。制服も規定通りで、今時えらい真面目だなと、感心通り越して、呆れてたんだけど?」


呆れてって、軽くショックなんだけど……。


そう、私は学校で極力目立たない努力をしていた。なんか、今の話だと逆に目立ってたみたいだけど。


大人しく、波風たてず、空気のように。


因みに今は眼鏡を外している、伊達だからね。前髪も短くしたけれど、今でも空気のようでありたいと思っている。


「俺、担任だったのに、はい、いいえ、ありがとうございます、しか会話した事ないわ。」


「あぁ。色んな意味で目立ちたくなかったし、むしろ気色悪いって、避けられたかったからかな?」


あぁ、と橘先生は納得した。やっぱり巽から、なにかしら聞いているらしい。


「つうか、きらこれうまい。大根の漬物?あっもう、生徒じゃねぇし、きらでいい?てかきらって呼ぶから。俺、きらの話聞きすぎて嘉月のほうが違和感がある」


橘先生から、話をそらしてくれた。なんだか複雑だけれど、相手が事情を知っているのは心強いことだと思う。私の事情は、ちょっと人に説明しづらい。


橘先生が褒めてくれたのは、ちょっと和風もと思ってて出した物だ。


「きらでいいよ。カズ君に嘉月とか呼ばれたら、鳥肌たつって。あ、そうそう、これは塩もみした大根に、塩昆布をあえただけだから、漬物でいいのかなぁ。簡単だから、橘先生でも作れるよ」


橘先生にきらなんて呼ばれるとちょっと恥ずかしい。でも、カズ君だと思うと当たり前に感じる。私としては橘先生がしっくりくるんだけどさ。


あ~、なんか複雑ななにかがあるなぁ。


私は、巽によりかかって、顔を下から覗き込んだ。


「スパゲッティは巽が作ったんだよね。巽の方が料理上手だし?」


「おう、家のモットーは、人間たるもの家事が出来なくてどうする。だからな。おふくろにきらといっしょに相当しこまれた」


巽もアスパラのベーコン巻を口に運びながら、橘先生に笑いかけた。


「今度つくってやろうか?超かわいい、愛・妻・弁・当」


あっ語尾にハートマークが見える。

 

「やめとけ。お互いに精神的ダメージがでかいから」


橘先生は本当に嫌そうに顔を顰めた。


「確かに。じゃぁきらに作ってやるよ。愛妻弁当」


え?私に作ってくれるの?

ラッキー。

巽のお弁当は本当に可愛くて、美味しいのだ。ここは、リクエストをかけておかなくては。



「作りたいだけでしょ。かわいいお弁当。うさぎさん作ってね。マイスイートハニー」


「もちろんよ。ダーリン。恥ずかしくて人に見せられないくらいスゥイートなお弁当作るわ」


しなを作って甲高い声で、巽が返事をすると、ぶほっとカズ君がワインを吹き出してどこのオカマだよ、とつぶやいた。


実際に、かわいいうさぎのおにぎりに、森の動物達。

仕上げにLOVEの文字が入った愛妻弁当を私と、なぜか橘先生が手にするのはまた別の話だけど。


巽は有言実行、『冗談もいやがらせも全力で』がモットーだ。たとえ、橘先生が職場で笑いものになろうとも、全く気にしない。むしろ、喜ぶよね。


全力で嫌がらされているのに、そのお弁当を捨てないで完食するのが橘先生。

二人の間の見えないなにかの、なせる技なのだろうか。

何だかんだ言っても仲がいいからね。


 今だって、スッゴイ勢いでスパゲティ完食だし。


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