じゅ~さんの1
…………やられた。マジあの女いつか殺るっ!
騙されたっ!!普通じゃないのは知ってたけど、薬盛るのはあり得ないから!!
朝起きたら、知らない部屋に寝かされていた。あの人がやりそうな事だけどっ。
どう見ても、病室ではなく普通の部屋だった。
入院してた筈だろっ!
白壁じゃないよ?ベットがふわふわだよ?羽布団だよ!
現状把握したとたん、冷や汗が背中を流れた。
12畳程の部屋には、ベットと机があるだけだ。
確認の為にクローゼットを開くと、新品の洋服が沢山かかっていた。
部屋の扉を開けると、廊下になっている。右手にリビングらしき扉を見つけ、入っていくとソファに見知ったすました顔が、黒いスーツ姿で座っていた。
「おはようございます。晶さん朝食が出来ていますよ」
何事もないような姿で、キッチンらしき方向へ行こうとする。
…………完全に私の疑問は無視かっ!
先にこの状況を説明しやがれ!
逃げられる前に、私は引き留めた。
「ねぇ、いつから家はこんなにお金持ちになったの?ここ単身者用じゃないよね?」
私の問いかけに、相手は立ち止まった。
「晶さんは何もご存知ないからですよ。貴方のお父様は、大手外食産業の代表取締役ですよ?お金なら余りある筈です」
その男、親愛なる従兄弟殿。
赤城 りくは馬鹿にするように言った。
私はこの男が、昔っから大嫌いだった。
従兄弟とはいえ、この男はわたしより一回り上だから、たしか33が34歳になっている筈だ。
母の腰巾着で何故か崇拝している。
そりゃぁもう、母の嫌いな私など子供のころから毛嫌いしているくらいだ。
今だって、母の大好きなブランドで身を固め、父と同じ髪型にしている。どうやら母が父を好きだから、自分も父のようになりたいと思っているらしい。
もう、体全体から私は神経質ですって言っているような雰囲気を醸し出し、一目会ったその時から、うわぁ面倒くさそうな男って感じるような有様だったりする。
顔立ちは母方に共通する薄い唇に切れ長の目。尖った顎に青白い肌。嫌味ったらしい銀縁眼鏡をかけている。ちなみに嫌味ったらしいは私のりくに対する偏見だ。分かってるけど、嫌いだからしょうがない。
母至上主義だから、母の言う事は無条件でなんでも言う事を聞く男だ。
ちょっと異常だな。マザコンじゃなくてオバコンなんてあったっけ?
なにが気に入らないって、この今現在も浮かべている、私をバカにしきった表情だ。
本当に癪にさわるんだよ。口を開けば、母を褒めるか、私をけなすかどっちかしかないしね。だいたい一回りも年下の従姉妹に敬語を崩さないんだよ?
間違っても仲良くしたい相手ではない。
「それは知らなかった。何しろ会わないからね。話もしないってわけだ。あんたは仕事を手伝ってるみたいだけどね」
私がそう言うと、更に鼻で笑って結局、キッチンへと消えて行った。
ほら、これがまたムカつくんだよっ!!
りくは母の秘書のような役割をしている筈だ。あの人の我が儘を文句1つなく聞いてあげられるのは、このりくぐらいだろうと思う。とにかく従順で、控えめに母の言う通りに行動するりくは母としても手放す気はないらしくもう十年以上秘書のように仕事でもプライベートでも使っていた。
すぐに、パンとコーヒーをトレイに載せて戻ってきた。
少し温めたのか、パンのいい香りが漂っている。
私はローテーブルの前に座り、有り難く朝食を頂く事にした。
目の前のヤツのおかげで、美味しさ半減だけどねっ。
「で、ここ何処?」
「北海道ですよ」
「馬鹿じゃないの?冗談は止めて」
「そうですね。本当は山口ですよ。大学もこちらの女子大に編入を決めてあります」
…………なんだって?空耳?
「いや、訳が解んないんだけどなんで山口?都内じゃないの?なんで?」
北海道も山口も私にしてみたらあんまり変わりがないんだけど気のせいか?かろうじて本州なだけみたいな。
「決まってるでしょうが、帰って来るなって事ですよ」
だよね。なるべく遠くに追い出したいもんね。容赦ねぇな。
てか、眠ったまんまでよく連れて来れたな。遠すぎだよね。
どう考えても薬を盛られてるけどね。長距離運ばれて、目も覚まさないなんてある筈がないもの。
「…………一応念の為に言っておきますが、ここから最寄りの駅までバスで2本乗り換えが必要です。貴方には確実に辿り着けませんから、馬鹿な事を考えないほうがいいですよ」
反論しようとしたら、家の電話が鳴った。
さっと、赤城が立ち上がり受話器をとった。
お前の家かと突っ込みたいところだけど。りく相手に突っ込んでもなにも楽しくないから止める。
多分母が言っていたセキリュティがしっかりしたマンションって奴だから私の家ってことだと思う。
「はい。大丈夫ですよ。…………はい、はい」
暫くの間、話をしてから、無言で、受話器を差し出された。
相手は分かっていたので、無言で受け取る。
「おはよう。空気が綺麗でいいところでしょ。そのマンションは、リゾート開発で建てられたマンションだから下に行けばスーパーもあるわよ。貴方向きでしょ」
意外だ。私の方向音痴知っていたのか。知らないかと思っていた。
「都合のいい事に、大学までバス一本で行ける場所よ。りくが探してくれたのだから感謝なさい」
やっばり、いつか殺るリストに赤城 りく、追加だな。余計なことばかりして。
「意味が解んないんだけど。私入院してたはずだよね?目が覚めたら、山口って洒落にならないよ」
「相川が嫌だっていったでしょう?もう我慢ならなかったのよ。しばらく貴方と一緒に生活しろ、なんて言うんですもの」
分かっていたけれど、さらに自分勝手に磨きがかかってるな。
そして、もう一つ爆弾投下。
「そういえば、貴方の携帯に随分と着信とメールが入っていたから、代わりにメール入れておいてあげたわよ」
堪えろ自分っ!ここは忍耐だぞっ!怒鳴ったら、誰にどんなメールしたのか分かんないからねっ!
「生意気にも、彼氏なんていたのね?ちゃんと、丁寧にお付き合いお断りしてあげたから心配ないわよ。携帯も解約しておいたから」
怒っ!
深呼吸しろっ自分っ!落ち着け相手は魔女だっ!
「なに勝手な事を」
「だから、新しい携帯買ってあげたわよ?」
そこじゃないからっ。
この人にとって私は意思のない人形と同じなのだと改めて思う。
勝手に奏に断りのメールを入れるなんて。
「巽にはなんて言ったの?」
「相川の話はしないで。もう会わないのだから別にいいでしょう?」
…………なんか、プライドが傷つけられるような事を言われたな、これは。
「兎に角、帰ってこないでちょうだい。その内適当な見合い相手を見繕ってあげるから、大人しく大学に行ってなさいな」
そう、一方的に言って電話を切った。
私が出来たことはただ一つ。
「ふざけるなっ!馬鹿野郎!いい加減自分がいくつになったのか、考えろ!」
…………切れた受話器に怒鳴る事だけだった。
思いっきり、受話器を叩きつけて、りくを睨み付けた。
まだ、母よりは話が出来るだけましか。
「で?どうなってるの?」
「度重なる暴行や暴行未遂で、男性恐怖症が悪化して、病院を転院して入院治療中。父親も面会禁止。と言うことになってます」
まぁ、多少の男性恐怖症は持っている気はしないでもないけどさ。
父親も駄目って、どんだけよ。
とりあえず、状況が分かったので、次に気になったった事を質問した。
「あのさ、私の荷物は運んでくれるんだよね?」
「そのつもりです。くれぐれも相川さんに電話などしないように。美弥さん、何をするか分かりませんよ?」
美弥さんとは母のことだ。
まぁ?あの演技力があれば、自分を庇いながらも相手を落としいれるなど、簡単だろう。
私は頷いた。私からは巽に連絡しなければいいのだろうから。
連絡したくても出来ないけれどね。携帯を取り上げられて、どうやらここには今私の荷物はない。
電話番号なんて憶えていないよ。ここら辺は携帯電話の弊害だよなぁ。
その後、この家の簡単な説明と周辺の環境、大学の事等を説明するとりくは立ち上がった。
「これが、新しい携帯です。では、私はこれで」
胸のポケットから、最新式のスマートフォンを取り出すと、私の前においた。
「私の番号は入力してありますから、何かありましたら連絡をして下さい」
そう、言って部屋から出て行った。
一人になり、ホット体の力が抜ける。
携帯を手にしてアドレスを確認する。
『001 赤城 りく』
のみ。分かっていた事だけど、私のメモリが全く反映されていない。
りくの番号しか入ってないとかありえないしっ!
どうして私があのオバコンと仲良く携帯で話さなにゃならんのだ。
とりあえず、携帯をソファに放り投げてキッチンに向かった。
中々広くて使いやすそうだ。鍋とかフライパンとか、必要な物はある程度揃っているみたいだった。
食器もある。これは、前から用意してたな、あの人。たった一日でここまで用意できる訳がない。
高校に入ったくらいから、一生懸命一人暮らしを勧めてたもんな。
喉が乾いたので、キッチンにある大きな冷蔵庫を開く。
…………あまりの光景に、ちょっとフリーズしてしまった。
読んでくださりありがとうございました。申し訳ありません、所々修正いたしました。




