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風の行方  作者: 藍月 綾音
本編
21/61

はぁ~ちの1

奏さんやっと本領発揮です。

次の日、私は奏さんの車に乗っていた。


奏さんが私の体質になんの影響もうけないことが分かったのだから、車に乗ることはなんの問題もないかと思ったんだけど、思ったんだーけーどー。


かっ会話が続かない。


ノォォォォ!!だれか助けてぇぇ。


と内心で叫んでも助けてくれる人がいる訳もなく、ここは自力でなんとかしなくてはいけない。

今日、最初に会った時に昨日のことは改めて謝ったんだけど、それはもういいからって車に乗せられて……。


なぜか、高速のってます。


一体全体どこに向かってらっしゃるのでしょうか。


そうか、それを聞けばいいのかっ!よし、私えらいっ。会話になりそうな話題を見つけたぞっ!

一人、悶々とどうしようかと悩んで、答えを見つけた私にくすりと奏さんが笑った。


「緊張してる?そんなに緊張しなくていいのに。ほら、晶ちゃんは人混みを避けたほうがいいみたいだったから、箱根にドライブしようかと思って」


おぉ!会話をふって貰えました。そして、私が聞きたかった事に答えていただきました。

きちんと私の体質を考えてくれたようです。

緊張しているのもバレバレだよ。頭の中パニック状態で自然と体全体に力が入ってしまうのだ。


「ありがとうございます。それから今日、改めて誘っていただいた事も」


「違うよ。僕が会いたかっただけ。会ってくれてありがとう。今日は昨日みたいに怒らないって約束するから、一緒に楽しもうね」


……しまった。甘いよ。台詞が甘いよ。

会いたかっただけとかっっっ!!

私そういうの耐性がないんだよぉぉぉ。

ブワッと顔が一気に熱く燃えるように感じる。これはアレだ、首まで真っ赤に違いない。


「あれ?晶ちゃん顔が赤くなってきた。言ったでしょ?君に一目惚れしたって」


「……っ」


キョトンとして首を傾げる奏さん。なにをこれくらいでと思っている事が伝わってくる。


神様、仏様。駄目です。この方ストレート過ぎます。

なんて返事をしていいのか解りませんっ。


これくらいって思える程甘い台詞を言い慣れているってことでしょうか。


「今日のこと、巽さんに言ってから来たの?」


ふいに笑いを収めるとちょっと真剣な声音で尋ねられた。


ん?なんでここに巽がでてくるんだ?保護者のような立場であることは認めるけれど、どこに誰と出かけるとか一々報告などしない。


…………今までそんな機会がなかったなんて事は秘密だ。えぇ、そうですよ。どうせ女友達なんて出来ませんよ。出来ても友達に彼氏紹介された直後に大抵友情も壊れましたともっ!


あれ?そういえば、うっかりスルーしてたけれど小野田さんの彼氏の勝さんも大丈夫な人だったのかもしれない。一緒に食事していても、小野田さんの事を始終気にかけていて、変わった様子はなかった事に今気づいた。


「言ってませんよ?わざわざ言う事じゃないし。ひょとして、巽、昨日あの後に失礼な事いいました?」


「いいや、そんな事はないけどさ。あの二人、晶ちゃんの事すごく大事にしていたみたいだから」


あの二人?橘先生も私を大事にしているように見えるのだろうか。

いけない、頬が緩む。そんな事で喜んではいけないのに。


「巽とは幼馴染みというより、一緒に育てられたんです。私がこんなだから、いつも心配ばかりかけてしまって。気がついたら超過保護になってました」


「あっ。自覚はあるんだ」


ぼそっと奏さんは呟く。


「ありますよ。ただ、自立しようと思ってもなかなか。それに、巽の過保護もあながち行き過ぎでもない所があるのでなんとも言い難くて」


巽がいなければ殺されていた事が何度かある。私が今ここにいるのは巽のおかげだ。だからこそ危険回避のためのお小言はキチンと聞かなければいけないと私は思っていた。


「違うよ。そういう意味じゃない」


運転をしながら、奏さんが左手で私の手を握った。

そういう意味じゃないって言葉も気になりますが、手が、手がっ!


「あっあの。ああああ危ないですっ」


運転っ!!運転に集中して下さい。ここ、高速道路ですからっ!!

手とか握っていい道路じゃないですからっ。いや、運転しながらそんな事しちゃダメです!

事故の元になりますからっ!!


「大丈夫だよ。高速は一本道だから。僕、これからガンガン攻める事にしたんだよ」


そう言って、自分の長い指を私の指に絡める。

これは、俗に言う『恋人繋ぎ』ってやつですか?

なに?なにこれ?

ヤバいです。心臓ドキドキしてきました。

だって、今日はきちんとお話するってのが目的で……。


断じてデートとかじゃなかったはず。


私は奏さんの顔を直視できなくて窓の外を見る。見えるのは高速道路の防音壁だけなんだけど。


てか、ガンガン攻めなくていいです!

お手柔らかにして下さい!

私の脳みそが持ちませんから。


「晶ちゃんの手は小さくて可愛いね。これくらいで反応しちゃうとこもだけど」


そりゃ、奏さんは色々手馴れてそうだけど、私は基本こういうの初めてだから、どうにもこうにも出きませんから。


そっと手を引き抜こうとしても、奏さんの手がガッチリ絡んでいてビクともしない。それどころか、更に力が入れられてしまい、引き抜く事は無理そうだった。


巽や橘先生とは違う手の温もりは、いつもとは違う、恥ずかしさと胸の鼓動を伴っていた。


「あのさ、聞きづらいんだけど、あの橘って人とどういう関係なの?晶ちゃん先生って呼んでなかった?」


奏さんに本当に聞きづらそうに聞かれて、私は苦笑する。


「そうですよね。普通気になりますよね」


幼馴染みの親友を先生って呼んでるんだもんな。


「橘先生は高校の時の担任だったんです。最近になって、橘先生が巽の親友だと分かりまして、一緒に行動することが多くなったのですけど、まだ、先生って呼称は抜けなくて」


「へぇ、そうなんだ。高校の時の担任ねぇ」


……ん?なにか含みがある?

ちょっと嫌な響きを感じた。奏さんを伺い見ても、表情はあい変わらず優しい微笑みを浮かべている。私の気のせいかな?


「じゃぁさ、その橘先生が晶ちゃんの初恋だったりする?」


ギュッっと握られた手に力を入れながらの爆弾発言に頭が真っ白になる。


……なんですとっ。なに言っちゃいました?

そんなに私は分かりやすいのか。

嘘でしょぉっ!!


「やっぱり」


動揺する私を横目で見ると、納得したように、奏さんは笑った。


えっ?今笑うとこ?


「晶ちゃんさ、その橘先生の事を今でも好き?」


あまりの直球に私は答えに詰まった。

心の準備もなくいきなり核心に迫まる話題を振られてしまったからだ。


何しろ本当は今日、それを言いに来たから。


きちんと好きな人がいますって言いたかったんだ。

昨日一晩考えて、やっぱり橘先生が好きだと思った。まだまだ、橘先生とカズくんのギャップの差に頭が追いついないのだけれど、根本的な優しさに違いはない。

私の好きな橘先生は、あんなに子供っぽくないし、もっともっともっと大人の男の人だけど、あんなにすぐ女の子に手を出さないしっ!!アレはカズくんだと思ってなきゃ立ち直れないっってか忘れるんだ私っ!!うっかり台所事件を思いだしそうになって、私は慌てて思考を今に戻した。


「橘先生が好きです。だから、奏さんとはお付き合いできませんって言おうと思ってきました」


こんな、車の中で言うとは思ってなかったけれど。

まさかのドライブで、奏さんがデートだと思ってるなんて思いもしなかったのだ。

ただ、こう、答えが聞きたいだけなのかと思ってた。


「それってさ、恋じゃなくて、憧れじゃない?」


あまりにさらっと言われ、私は唖然としてしまった。


今ここで、私の想い全否定ですか?

私、疑問形じゃなく、橘先生が好きって、力強く言ったつもりなのですが。

そこに、疑問の余地も、否定の余地もなかったように思いますが………。


私の動揺など気づかずに、奏さんは続ける。


「高校生の時ってそういうの沢山あるでしょう?身近な年上の人ってだけで魅力感じるし。だからさ、本当に好きなのかな?って。ただでさえ晶ちゃん、純粋培養っぽいし」


……確かにね。それは否定できないんだけど。


「それに初恋でしょ?それが憧れなのか、恋愛感情なのか判断できないんじゃない?初めてなんだから」


「でもっ」


私の反論は奏さんが言葉を強引に続けてかき消されてしまった。


「だからさ、僕と付き合ってみてよ。それで、恋なのか憧れなのか確かめればいいじゃないか。何度もデートすれば晶ちゃんが僕の事好きになる自信があるよ。それこそ橘先生の事を想う気持ちよりずっと強くね」


「なんでそこで、奏さんとお付き合いするっていう話になるんですか?」


それは、話が違う気がするんだけど。


「ん?それはほら、お試し期間というか、僕の事知って欲しいんだよ。僕の事をロクに知りもしないで橘さんと優劣つけないで欲しい」


「や、それだったらお友達でいいじゃないですか、付き合う必要ないですよ」


私が言うと、奏さんが握る手にさらに力をこめた。


「駄目だよ。お友達じゃ口説けないでしょう?」


ちらりとこちらに向けた視線が凄く艶っぽくて、鼓動が跳ねる。


くっ口説かれるんでしょうか。今も何気に口説かれてる?


嘘だぁ。いや、奏さんのほうが勘違いしてないか。

この私にむかって言う言葉じゃないよ。

誓って言えるけれど、私はこんなに見目の良い男性に言い寄られるほど優れた所は何一つないのだ。


「イチャイチャしたいし」


思わず力一杯手を振りほどいて、自分の体を抱きしめた。


ぎゃーっ。


なにこれ、なにこれ、なにこれっっ!!


「奏さんが私と付き合いたいってことがわかりません。私は自分が可愛くない事を自覚していますっ!」


だからお願い、思い直して他の綺麗なお姉さん探して下さいっ!


「あのねぇ、晶ちゃんは可愛いよ。もっと自信をもったらいいのに。それに、僕の事を憶えてない?」


憶えてない?って、どこかで会ったっけ?

思い出そうとするけど、思い出せない。

一昨日会ったのが初めてだったと思うんだけどなぁ。


その時、車が止まった。辺りを見回すと一度だけ来たことがある芦ノ湖だった。いつの間にか箱根に着いていたらしい。刺激的過ぎる会話にちっとも外の景色が楽しめなかったよ。折角連れてきてもらったのに。


サイドブレーキをかけた奏さんが、近づいてきて慌ててドアを開けようとするけど、鍵がかかっていた。


「三ヶ月前に駅で、気分が悪くなった僕を助けてくれたんだ。憶えてない?」


ちっ近いからっ。いやいや、私の顔の横に手を持って来なくていいから。

ソレに、そんな熱っぽい潤んだ瞳で見つめないでください。

あまりに近い距離感にうつむいて回避する。


ん?熱っぽい?


あっ。


「思い出したっ。あの脂汗がひどくて、救急車呼んであげた人だ!」


勢いよく、うつむいていた顔をあげると………。


ゴチンッ。


「ったぁ」


「痛いぃっ」


だから近かったんだって。

思いっきり奏さんの額と私の後頭部をぶつけたよ。


なんで、こんなにも近づく必要があったんだろう。


お互いあんまりにも、痛くてしばらく言葉がでなかった。


「くくっ。やっぱり晶ちゃんは面白い娘だね。今僕がなにをしようとしてたか分からないでしょう」


突然奏さんは、お腹を抱えて笑いだした。

なにをしようとしてたかなんて、分かる訳がない。奏さんの考える事は私にとって、未知との遭遇並に理解不能なんだから。


奏さんは笑いが収まる気配がない。そうだった、笑い上戸だった。こりゃ、しばらくは止まらなさそうだなぁ。


痛むおでこを押さえながら、3ヶ月前の事を思い出していた。



運転は安全に。高速道路で、片手運転はしてはいけません。


読んで下さり、本当にありがとうございますさ

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