なぁ~なの2
パフェを選んでいる最中に巽と奏さんはなにやら話がまとまったらしい。私が話を聞いていない事など、巽の計算の内だということで、問答無用で命令がくだされた。
「と言う事で、きらは通路側に座ってみろよ。丁度いいから、注文もきらがするんだぞ」
何が丁度いいのかよく解らないけれど、私は巽の指示通り動くしかないのだ。
巽に逆らうと例の黒歴史がやってくる。情けないがよっぽどの事がなければ逆らうまいと心に決めていた。
巽と席を入れ替わると、巽は先ほどお水を持ってきてくれたウェイターさんに声をかけた。
え~と。なんだったけ。
私はメニューを見直して、なるべく小さい声で注文をしようと声を出した。
「あの、このイチゴ………」
言いかけると、良く聞こえなかったのか、ウエイターさんが耳を私に傾ける。
「きら、無駄だって言ったろ?普通に注文しろ」
えらそうに巽が言った。
…………巽様だもんね。
なんでファミレスのソファで足組んで、腕組んで座ってるだけで格好よく見えるんだよっ!まるで王様のごときその姿はそこにいるだけで量産もののソファとテーブルが高級に見えてしまう事に納得がいかない。
半ば諦めた私は、いつもの声の大きさで注文をした。
「イチゴパフェとマンゴーパフェください」
ウエイターさんは、何故か目を丸くすると復唱してから、去っていった。
「巽、これになんの意味があるの?」
私が聞くと面倒臭そうに黙ってろと、ジェスチャーで返してきた。
感じ悪いなぁもう。
目の前の奏さんに視線を移すとニッコリと微笑んでくれる。
本当にもう怒ってないみたいでホッとする。
やっぱりこれも巽のおかげなんだろうか。
「さっきは、ごめんね。俺も大人げ無かった」
良かった、許してくれるんだ。
「私こそ不愉快な思いをさせて申し訳ありませんでした」
もう一度きちんと頭を下げた。
「あの、本当に信じてもらえないような馬鹿みたいな理由なんです」
あわてて言うと巽が茶化した。
「本当にな。これが半端なく威力があるから、馬鹿にできねぇんだけどさ。ほら、奴さん見事に釣れたぞ」
……釣れた?何が?
私が巽が見ているほうを向くとさっきのウエイターさんが、パフェを運んで来てくれるところだった。
ウェイターさんが釣れた?
餌、私?
あぁ、巽の言っていた意味が解った。
本当に釣れてる。
先ほどのウエイターさんは、顔を少し赤くして私を見ている。
ほんの少しだけ興奮状態になっているアレは。
例のアレだ。
大丈夫じゃない人、だったらしい。
「お待たせしました。イチゴパフェと、マンゴーパフェです。ご注文は以上でしょうか?」
私はマンゴーパフェを受け取って食べようとしているのに、ウエイターさんは帰ろうとしなかった。
「あの、なにか?」
私が声をかけると、さらに顔を赤くして、ウエイターさんは私の手をとった。
「「あっ」」
目を丸くして声を上げたのは、奏さんと橘先生だ。
「あのっ。この間お会いしましたよね。ここでまた出会えるなんて運命の出会いだと思うんです。この後、時間ありますか?」
…………ううううううううわぁぁぁ!!!
このパターンは初めてだ。
こここんな、公共の場所で告白まがいな事されてもっ。
てか、勘違いだから。
それは、惑わされてるだけだからっ。
「ひっ人違いですっ」
必死に手を離してもらおうとしても、ガッチリつかまれていてどうしようもない。
いや、ほら周りの目が痛いからさ。
周囲の女の人たちの目が痛い。
言われなくても思っていることが分かるよ?
レベルの高い男と店に来て、店員から告白って何様?
たいして可愛くもなんとも無いじゃない。
って心の声が聞こえますから。
やぁめぇてぇぇ。手をはなしてぇ!!!
「人違いじゃありません。貴方です」
きらきらと目が輝くウエイターさん。
びっくりだ。ここまで素直な反応初めてみたよ。
この人絶対心が綺麗な人だ。普段は爽やか君なんだよ、絶対。
私が困っていると、巽がそれはそれは嬉しそうに、後ろから手を伸ばして、私を抱きすくめながら、ウエイターさんの手をゆっくり剥がしてくれた。
「人違い、むしろ勘違い。コイツは売約済みだから、他あたって」
私は壊れたおもちゃみたいに首を縦にふるだけだ。
だって、こんなに爽やかな告白まがいなんて生まれて初めてなんだもん。
いつもストーカーちっくな人達ばっかりだったから、こういうストレートな場合は想定外だったりする。
こんなに爽やかに告白されても体質のせいだと思うと、全然嬉しくはないんだけれど。
巽にすごまれたウエイターさんは残念そうに、パントリーへと帰っていった。
良かった、ほっとした。
「巽ありがとう」
お礼を言うと、体を離して頭をポンッと軽く叩かれた。
「おう。もう窓側に戻っていいぞ」
席を替わってくれたので、体の力が少し抜ける。
通路側は、男の人が通るたびにびくびくするんだよね。
「おつかれさま。ほら、後は巽に任せてパフェを食べなよ。溶けちゃうよ」
橘先生が目の前にマンゴーパフェを置いてくれる。
色鮮やかでとってもおいしそうだ。
私は、遠慮することなく頂くことにした。
ん、おいしー。
「まぁ、今のは特殊な例だけど概ね晶の意思とは関係なく、男が寄ってくるんだよ。例えばさ俺とか奏の場合は、顔でモテるわけだ。晶の場合は、声と体臭だな」
ぶっ。
私は、見事にむせた。気管になんか入ったよ。
げほげほ、咳をしていると、巽はニヤニヤと、おしぼりを差し出してきた。
乱暴に受け取ってから、巽を睨んだ。
うげぇ、苦しいよ。
「巽、もうちょっと言い方があるだろーが。いくらきらでも一応女の子なんだから、体臭はないでしょ」
ありがとう橘先生。
だけど、いくらきらでもってなに?
やっぱり、この二人とっても失礼だ!!
ようやく、咳も治まって、涙を拭きながら奏さんを見る。
「本当に、誘ったり、遊んだりっていうのはないんです。ただ隙があるつもりはないんですけど襲われやすいというか………ねぇ?」
さすがに自分の口から言うのは躊躇われて、巽を見上げた。
巽がため息をつく。
「あんまりいい話じゃねぇけどな、拉致監禁までいったのが4回。危機一髪なんて日常茶飯事だし。しょうがないから、ほれこいつはポケットに小型スタンガン装備させてる。合コンやら出会い系やらの疑いはないって俺が保証するよ。コイツは一人で出かけさせられないから」
本当は、もっと恐い目にあった事もあるけれど思い出したくないからスルーだ。
警察沙汰にも何度かなっている、というこもスルーだ。
奏さんは驚いたように、目を丸くした。
「僕、全然平気ですけど?」
「そうみたいだな。だから話しているんだよ。この体質のせいで、少し男性恐怖症の気があるんだ。俺的に晶が男と二人で出かけるなんて、天と地が引っくり返るぐらいの驚きだから」
巽以外の人と二人で出かけるの初めてだもんね。
「へぇ。それは光栄だな。じゃぁ、その体質を踏まえた上で僕とお付き合いしようか?晶ちゃん?」
えっ。
何を言われたのかが理解出来ない。
さらりと、なんか言ったよねこの人。
私はスプーンにアイスをのせたままフリーズした。
奏さんはクスリと笑うと、妖しい視線を私に投げかける。
「なんで驚くの?元々、僕が晶ちゃんに一目惚れして、紹介して貰ったんだよ。雰囲気からしてめちゃくちゃ可愛いって言ったでしょ?だから彼氏予備軍なんだよ」
……一目惚れ?
誰が誰に?
「お断りします」
……ん?今の私じゃないよ?
あれ?橘先生が言った?
フリーズしている私の前で、険悪な空気が漂い始めた。
「なんで、君が答えるの?彼氏どころか、幼馴染みの友達だって聞いたけど?全然関係ないでしょう」
「さっき、お前きら泣かしたから、駄目。問題外」
もくもくと、パフェを口に運びながら橘先生がいう。
「事情を知らなかったからだよ?からかわれていると思って頭にきたけど、誤解だったって分かったからもう謝った」
「それでも駄目。他に可愛い娘がいっぱいいるだろ。そっちにしとけばいいよ」
「だぁかぁら。君、関係ないでしょう。ね、晶ちゃん。どう?僕と付き合うよね?」
微笑みながら私に問いかける奏さん。
なぜか私の代わりに返事しちゃってる橘先生。
いや、もう訳がわからない。
顔が熱くて、頭がボウッとしてきた。これはショート寸前だ。
だって、目の前には大好きな橘先生がいて、なのにお友達になってほしかった奏さんに告白?されて……。
私にいったいどうしろと?
あぁ、視界が霞む。
情けないことに許容量がオーバーした私はその場で意識が遠のくを感じていた。




