表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風の行方  作者: 藍月 綾音
本編
17/61

ろぉ~くの2

今日は、特に酷かったのだ、はぐれる度に違う男に言い寄られていたら怒るのは当たり前だと思う。

それに、奏さんと一緒に歩いていても何度か声をかけられた。

危ない感じはしなかったけれど、挨拶されたり、この間会ったよねと話しかけられたり、自分で言うのもどうかと思うけどどんだけ知り合い多いんだって話だよ。


「なんでデートしているのに、君とお茶なんてしなければならいの?大体、彼女が嫌がっている事にも気づけないって、もう少し女の人の事勉強したほうがいいんじゃないかな?さぁ、もう分かるよね?邪魔だって言っているんだよ。僕は彼女と大事な話があるんだ。さっさと何処かへ行ってくれないかな」


そう言う奏さんは、怒りを押し殺している事が傍目にも分かる。怒鳴ったりしていないけれど、沸々と怒りのオーラが湧き出してくる。静かに怒っているだけ、恐ろしさが伝わってきて声をかけてきた男はさっと青ざめると、なにも言わずに逃げてしまった。


残された私は奏さんの顔を見ることが出来ずに、自分の靴を見ていた。


せっかく誘ってくれたのに、せっかく私の事が大丈夫な人なのに。

結局、怒らせてしまった。


私のトロさが、私の体質がいけないのだろうか。


どうやったら、もっと上手に人と付き合う事が出来るのだろうと自分の不甲斐なさに呆れてしまう。


「ねぇ。君、僕と歩いている最中にいったい何人の男に声かけられてたと思っているの。会ったことなんてないって言ってたけど、あれ嘘なの?すぐに何処かに消えるしさ。僕と一緒に歩く事が嫌ならそう言えばいい、そもそも、出かける事を断ればいいじゃないか」


今までと違う、低くて冷たい声に、肩が震えた。

君と呼ばれたことで、心の距離をはっきりと示された。

誤解だと言いたいけれど、それを言ったところで何人もの男の人に声をかけられた事の説明にもならない。

かといって、この体質の話なんて眉唾ものだし、この状況でそんな話を聞いたらもっとましな嘘をつけと私でも思うだろう。


「ちがっ。ちがいます。そうじゃなくて………」


それでも、一緒に歩く事が嫌だなんて思っていなかったし、私は楽しかったのだ。

女友達もいない。

彼氏も勿論いない。

出掛けるといえば、巽と一緒。

巽じゃない人と、二人で出掛けるのは、初めての事で………。


そう思ったら、泣いてはいけないと思っているのに、涙が溢れてきた。


泣くのは卑怯だ。


そう、思うのに…………。

 

「そうじゃなかったら、なんなんだよ」


追い打ちをかけられるような、怖い声音の奏さんの声にすくみ上がってしまう。

どうしたらいいのか分からなくて。

逃げたくて。

それじゃダメだと、思い直して。

でも、じゃぁ奏さんに何をどう言ったら許してもらえるのか。


「………ごっ、ごめんっ……なさっ………」


結局謝ることしか思いつかなかった。

情けなさ過ぎる。


その時、よく知った声が頭の上から降ってきた。


「おっ。やっぱりきらだ。なんだ、お前今日はデートだったのか?」


…………幻聴?

私、パニックになって幻聴聴いてる?

突然巽の声がして、驚きのあまり顔を上げて声の主を探す。

人混みの中、人より頭ひとつ高くて、目立つ二人がこちらに近づいてきていた。


巽と橘先生だ。

今、この状況で会ってしまうって偶然にまず驚いた。

今日、奏さんと出かける事は巽に報告していないから、本当に偶然だと思う。


「誰?また知り合い?」


もう、なんの感情も伺えない程奏さんの声は無機質に響く。

許してもらおうなんて、思ってはいけないのだと悟り、もう一度最後にと頭を下げた。


「……お隣さんです。今日は、ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした。もう、ご迷惑おかけしないので。本当に……ごめっ…………ごめんなさい」


結局涙で、声がつまってしまった。


丁度、巽と会ってしまったことだし、この場を謝ってから離れてしまえば、もう奏さんと会う事も、話すこともない。もともと小野田さんの友達で大学も違うのだから。


近づいた巽は泣いている私と、怒っている奏さんを交互に見てなんとなく事情を察したのか、私の頭をポンポンと叩いた。


「あ~。とりあえず、だいたい君がなんで怒ってるのかは見当つくんだけど、俺の話を聞く気ある?あるんだったら、晶の為にその怒ってる原因を説明するけど?」


え?巽?何を言い出してるの?!

巽を凝視すると目の前にハンドタオルが差し出された。


「きら、取り敢えず顔を拭きなよ。たいした事ない顔が、見るに耐えない顔になってる」


見るに耐えない顔って、酷いと思いつつもありがたく、涙を拭かせてもらう。


「急になんですか。本当の知り合い?」


「あぁ、俺は相川。晶の幼馴染みになるのかな?とりあえず保護者的な?こっちは俺の友だちの橘。晶とは付き合いが長いから大抵のことは説明できるよ?君、えっと?」


そこで巽は言葉をとめると意味を察したのか、すかさず、奏さんが答えた。


「坂野 奏です」


「そう、奏くんは特に、晶からなにも聞いてないだろ?なんか奏くんは、とっても貴重そうな感じだから晶に非はないって事の説明ぐらいはするよ。もちろん君が聞く気があるならだけど」


一度言葉を切ると、巽は意地の悪そうな表情で笑った。


「断っていいぞ?てか、断れよ?俺は、晶に近づく男は完全排除主義だから。これで二度と会わないってなったほうが俺得だ」


…………さっきと、言ってること違うし。


だいたい、完全排除主義ってなに?


ひょっとして、小さい頃の男の子達が急に遊んでくれなくなったのって…………。

まさかね。あまりに巽らしくて涙も止ってしまった。

しかも、完全排除したらいつまでも私彼氏できないし。


「巽、遊ぶなよ。きらが困った顔してる。それより、きらも奏くんに謝ったみたいだし、彼怒ってるし、いいから連れて帰ろうよ」


橘先生は、私の左手を握った。そうして、私を覗き込む。


「今日は、バイトだろ?何作ってくれんの?」


「えっ。今日は、さばの味噌煮と酢の物とかにしようと思ってるけど」


あれれ?素直に答えちゃってるけど、場違いな気がしなくもない。

なんだか、巽と橘先生の登場で安心してしまったのか、肩の力が抜けていた。

普通に答えてしまってから思わず、怒っているだろう奏さんを伺ってしまった。


でも予想に反して奏さんは、驚いたような表情をして私を見ていたから私がびっくりしてしまった。


「ちゃんと普通の大きさでしゃべれるじゃないか」


少し悲しそうに眉を寄せて、奏さんがぼそっと呟いた。

もしかしたら、あんまりに小さな声を出しすぎて、かえって奏さんを傷つけてしまったのだろうか。


「あぁ?こらきら、てめぇまた性懲りもなく小さい声で喋りやがったな。意味ねぇから止めろって、言っただろ?」


しまった、巽にバレてしまった。説教コースが始まりそうな予感に、肩をすくめる。


「俺も意味ないと、思うけど?きら、無駄な足掻きだって。ごらんよ、奏くんすっかり誤解してるよ?」


「え?え?誤解って?橘先生まで、巽と同じこと言うの止めてよ。これでも気を使ってるのに!!」


どうして二人とも無駄だって言うのだろう。自己防衛もしくは、事件回避の為に考えた私の努力でしょうがっ!!


「待って。分かりました。話を聞きます。だから僕にも理解出来るように話してくれないかな?」


二人に言い返す私を複雑そうに見ながら、奏さんが止めた。同時にチッと巽が舌打ちをしたのが聞こえる。

うわぁ感じ悪い。

でも、先ほどよりも雰囲気が柔くなった奏さんに気づいて、分からないようにそっと安堵の息をつく。

良かった。さっきの奏さんはかなり怖かったから。


「しょうがねぇな。それじゃ、どっか話が出来るとこに入ろうぜ」


「なんだよ。帰ろうよ。面倒くさいし」


だよね、まぁ巽は過保護だからいいとしても、橘先生なんか欠片も関係ないもんね。


「だっだっ大丈夫だよ。ちゃんと私が説明するし。橘先生と先に帰ってていいから」


説明する事になってしまった事に驚いて、慌てて私は言った。

折角、二人で過ごしている所を邪魔をするのは忍びないしっ。


けれどすぐに言葉の代わりに巽の拳骨が飛んできた。


う゛っ。痛い。

珍しく巽に気を使ってみたのにさっ。

もう二度と巽になんか気を使うもんかっ。


「てめぇに、説明出来る訳がないだろうが」


「俺達が帰るときはきらも一緒。今日のきらは破壊力250%あるよ?まさにゴキ○リホイホイ状態」


ギュッと握った手に力をめる橘先生。


……破壊力って、やっぱり例のアレでしょうか。

…………そうか、だからいつもより声をかけれらたのか。

ゴキ○リホイホイ状態って、酷い。もう、人間扱いすらされない。

でも、日によって破壊力が違うの?初耳だよ?


でもなんか、納得。

うん、単に巽と一緒じゃないからだと思ってた。


ほら、いつも巽が眼力だけで近寄って来る人達を追い払ってくれるからさ。

今日はそれがないから、やたらに声をかけられるんだと思ってました。


あぁ。どんだけ巽に助けてもらってんだ私はっ。


結局今も、私の為に時間をさいてくれるんだ。


二人の優しさにいつか、恩返しが出来るといいなと、心の底から思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ